女性の怒りを買った安倍政権の失策
「これはかなりまずい。女性を敵に回してしまっている」
安倍首相の側近はそう本音を漏らした。
年明けに甘利明前経済再生担当相の口利き疑惑という最大の危機を、早急に辞任させることで乗り切り、1月末までは何とか高い支持率を保っていた安倍政権だったが、3月の最初の週末に行われたマスコミ各社の世論調査では、いずれも大きく支持を下げた。
今の安倍政権の弱点をもろに浮き彫りにしたのが毎日新聞の3月5、6両日の調査。支持率は前回比9ポイント減の42%だったが、女性に限ってみると、支持率は前回に比べて11ポイントも下がり、全体の低下をけん引していることが分かった。
この夏参院選を戦う自民党の参議院幹部は「下落の要因はズバリ、女性を怒らせた3連発ですよ」と表現した。
最初のきっかけは宮崎謙介前衆議院議員の不倫だろう。妻である衆議院議員の金子恵美議員が妊娠出産中にタレント女性を自宅に連れ込んで不倫。ましてや宮崎氏は、妻の出産後は国会議員としては先進的な「育休宣言」をしていただけに女性たちが呆れるのは当然だった。
そして、2つ目が、先月ネット上の匿名ブログに「保育園落ちた日本死ね」と題した文章がアップされて一気に話題になり、これを安倍首相や自民党がぞんざいに扱ったことだ。
このブログは、子育て中の若いお母さんらしき体で書かれ、〈何なんだよ日本。一億総活躍社会じゃねーのかよ。昨日見事に保育園落ちたわ〉〈オリンピックで何百億円無駄に使ってんだよ。有名なデザイナーに払う金あるなら保育園作れよ〉〈不倫したり賄賂受け取ったりウチワ作ってるやつ見繕って国会議員を半分位クビにすりゃ財源作れるだろ〉と文章は過激だが、政治的本質を突いたものではあった。
安倍政権が謳う女性活躍との矛盾
これを衆院予算委で旧民主党の山尾志桜里議員が取り上げたところ、安倍首相は「匿名である以上、本当かどうか確かめようがない」と冷淡な答弁。そして自民党議員が「誰が書いたんだよ」などとヤジを飛ばしたものだから、さらに女性たちの怒りが広がったのだ。そもそもこの文章はネット上やワイドショーなどでは取り上げられていたが、安倍首相や官邸は「よく知らなかった」(自民党幹部)ようだ。
そして3つ目は介護。安倍政権は「要介護1、2」を介護保険の適用対象から外し援助を原則自己負担とする検討を始めたが、こうなると、介護は各家庭で、しかも女性に負担が回ってくることになる。
この夏改選の別の自民党参議院議員は言う。
「選挙区で毎日支援者や団体回っていますが、どこへ行っても女性からの批判が凄い。安倍さんは女性活躍と言いながら、保育園も入れない、介護で縛られる――。こんな状態でどうやって働きに行けるというのか。女性票が批判票に回ったら参院選は惨敗です」
こうした女性からの批判に慌てた安倍首相は、例えばブログ問題で1週間後には、「受け皿作りを進めている」と答弁を軌道修正したが、前出改選議員は「失われた女性の信頼はそう簡単には取り戻せない」と話す。
一方で民進党は、こうした女性の批判を大きなチャンスととらえている。ブログ問題を取り上げた山尾議員、それに蓮舫議員や辻元清美議員ら女性議員たちが、安倍政権に対峙する「女性関連政策」に着手。参院選では安倍政権との違いを見せて争点化しようと動き出している。
安倍政権に必要な現場と向き合った女性政策
思い起こすのは平成元年、消費税と当時の宇野首相の女性スキャンダルで、参院選の結果がなんと与野党が逆転してしまったことだ。マドンナ旋風とも言われ、当時社会党の土井たか子党首(故人)が『山が動いた』と明言を残したが、自民党ベテラン議員は「動かしたのは女性票だった。そのパワーは怖いくらいだった」と振り返り、今回も危機感を示している。
安倍首相にとっては、参院選はどんなことがあっても負けられない。悲願の憲法改正があるからだ。任期中最後のこの参院選で何としても発議に必要な3分の2勢力を取りたい。首相自身も「(参院選に)勝つためにプラスになるなら何でもやる意気込み」(首相側近)なのだ。
しかし掛け声だけ強く、一方で不勉強だと、すべては選挙目当てだったと透けて見えてしまう。安倍政権が看板の1つとして掲げている「女性活躍」もまた人気取りでしかなかったのだろうか。
安倍政権は、「女性政策」について、本当に現場を理解し真摯に向き合っているかを再点検し出直すべきだ。でなければ、皮肉にもその「女性」自身から大きなしっぺ返しを食う。
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