人事評価制度の刷新にはトライアンドエラーが必要
人事評価制度刷新のためには、トライアンドエラーを繰り返しながら制度をブラッシュアップするとともに、新制度に対する全社員の理解と制度の定着にじっくりと時間をかける必要がある。長期的な組織の成長を目指すためには、トライアルの段階で時間をかけて社員の理解を得ることが必須となるのだ。そのことが、社員の成長につながり、組織の成果につながる。
2りんかんイエローハットは、2013年に人事評価制度刷新プロジェクトスタートさせ、トライアル期間を経て2016年に本格運用を開始した会社だ。プロジェクトスタート後、どのような問題が発生したのか、制度のどのようなブラッシュアップがなされてきたのか。
本稿では、人事評価制度改革によって業績を伸ばした中小企業の事例を紹介しながら、社員が育つ人事評価制度の仕組み化、設計について分析していく。
経営計画の実現に向け人事評価制度を刷新した2りんかんイエローハット
「ライダーの駆け込み寺」を目指す2りんかんイエローハット
今回紹介する株式会社2りんかんイエローハット(以下、2りんかんと表記)は、オートバイ用品専門店「2りんかん」を運営している会社だ。
東久留米に1号店をオープン後、現在では全国に55店舗を展開。同社は「ライダーの駆け込み寺」になることを目指し、「規模拡大」「収益構造改革」「情報発信」の“三本の矢”の取り組みを行っている。バイクミーティングイベント「2りんかん祭り」では、毎年5,000人のライダーが駆けつけるほどライダーの間で絶大な支持を集めている。
社員が幸せを実感することができる会社であるとともに、業界への貢献度が揺るぎないナンバーワンであることを目指している。
代表取締役社長の石渡淳氏は1983年から2りんかんで働き始め、2009年に代表取締役に就任。中期経営計画によって5年後のあるべき姿は定められているが、人事評価制度が人材育成を支援するものではなかったため、実現は難しいと考えていた。そこで、石渡社長は、2013年2月より人事評価制度の刷新に踏み切った。制度のトライアル運用によって修正を繰り返し、2016年5月から賃金への連動を開始した。
人事評価制度の目的について、店長の理解・意識を揃えることを徹底
「人事評価制度の真の目的を社員全員に浸透させることが最も重要」と石渡社長は語る。その目的とは、人事評価制度による人材育成と理念・戦略の実践である。この目的にそって、新たな制度の導入によって会社がどう変わるのか、組織として何を目指しているのかを店長はじめ社員全員が理解した上で課題解決に結びつけることが求められる。
2りんかんでは、全国で店舗展開をしており、営業は年中無休のため、評価者全員を集めて説明することは困難。店長経由で新制度の浸透を進めるため、店長間での意識がそろっていないと、部下にも意識のズレが生じてしまう。
その上、社員だけでもその数は350名以上。各店舗の店長がどれだけ人事評価制度の運用に注力してくれるかが明暗を分けるキーとなった。新制度導入の最初の段階では、店長の理解・意識を揃えることに注力したという。
新人事評価制度を成果につなげるための2りんかんイエローハットの取り組み
月に1度の面談が成果につながるポイント
新制度への移行期には、11月と5月に従来の様式での評価を行い、1ヶ月ずらすかたちで新制度のトライアル評価も平行して実施。いざ実施してみると、評価の判断基準のブレが大きく、適切な評価ができないという問題が浮き彫りになった。評価者(店長)の教育と評価基準の改善を繰り返し、評価のブレを無くすことに努めたという。
トライアルを実施し、社員一人ひとりの成長・目標達成を促すためには、評価者との密なコミュニケーションが必要だと実感した石渡社長は、当初は年2回だった面談を2015年から毎月実施に切り替えた。
評価者と社員との間で個人の成長目標、その目標達成に向けて具体的にどんな取り組みをしたかを共有し、評価者からのアドバイスを受ける。毎月の面談を徹底している店舗については、確実に成果が出ているという。
新人事評価制度導入に伴い、副店長制も導入
新制度の本格稼働に伴い、2017年には副店長制を導入。以前は、広域の店舗を統括するマネージャーと店長が評価者だったが、次代のリーダーを育成しながら評価の納得度を高めるために、副店長制を導入した。副店長は、日常の業務においては店長のサポートを行い、評価においてはより社員に近い立場から実態に即した評価を行うこととした。
新たな制度導入後、自主的にプロジェクトを立ち上げるなど、リーダーシップを発揮する社員も育ってきたという。管理部と店長の選抜メンバーが評価制度の改善・浸透プロジェクトを立ち上げ、定期ミーティングを行い、制度の問題点を話し合い、仕組みのブラッシュアップがなされている。
2りんかんは、2013年に新制度のトライアルを導入し、2016年に本格稼働を始めるまで約3年を要してじっくりと人事評価制度の刷新に取り組んできた。トライアル運用をじっくりと時間をかけて行い、改善が必要な場合はすぐに修正をし、本格稼働後も仕組みのブラッシュアップをし続けることが組織の成長につながる人事評価制度を作るためには必要だといえる。
石渡社長も語っていたように、人事評価制度の目的と役割を全社員にきちんと浸透させ、定着に時間をかけるからこそ、結果的に成果を早め、組織の成長スピードを高めることができるのだ。
(やまもと・こうじ)日本人事経営研究室代表。1966年、福岡県飯塚市生まれ。
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