ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子
完全テレワーク可能な職種は全米の37%
「テック大国」米国では、コロナ禍が企業のデジタル化とテレワークを加速させた。だが、その陰で、職業格差が浮き彫りになっている。
4月16日、シカゴ大学経営大学院のジョナサン・ディンゲル准教授とブレント・ニーマン教授は、ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)措置が経済に及ぼす影響などを調べた研究結果を発表した。
それによると、米国の全職種のうち完全テレワークが可能な仕事は37%で、全賃金の46%を占める計算になるという。実際には米国でも、2018年にテレワークをしていた正社員は全米の正社員の25%未満で、テレワーク実践者でも、自宅勤務の時間は全労働時間の半分を大きく下回っていたことを示す世論調査もある。
未曽有のパンデミック(世界的大流行)が米企業のテレワーク化を後押ししたわけだが、前出の研究結果によると、米国以外の85カ国のうち、低所得国は、テレワークが可能な仕事のシェアも低いという。
米国内でもロックダウン後、ホワイトカラー層と、接客や介護、現場での肉体労働などが必要なブルーカラー層とのテレワーク格差が指摘されている。
テック都市で高いテレワーク率
上記研究によれば、完全テレワークが可能な仕事のシェアを米国の都市圏ごとに算出したところ、首位が、カリフォルニア州サンノゼ・サニーベール・サンタクララ地域だった。いわゆるシリコンバレーだ。同都市圏に属する全仕事のうち、完全テレワークが可能なものは51%にのぼる。
2位が、首都ワシントンやバージニア州アーリントンなどの都市圏で、50%だ。次に、南部ノースカロライナ州ダラムを中心とする地域と、テキサス州オースティンを核とする地域で、いずれも46%。5位はサンフランシスコ近隣の都市圏で、45%だ。一目瞭然だが、テック都市ばかりだ。
一方、シェアが最低なのは、中西部ミシガン州グランドラピッズ、東部ペンシルベニア州ランカスター、カリフォルニア州ベーカーズフィールドと同ストックトンで、4都市圏とも29%。5位はフロリダ州ケープコーラル都市圏(28%)だ。ラストベルト(さびついた工業地帯)のミシガンやペンシルベニア、12年に財政破綻したストックトン市も入っている。
上位と下位、それぞれ5都市圏の間に歴然と横たわるのが、経済格差だ。米国勢調査局によれば、サンノゼ市の平均世帯年収は10万4234ドル(約1千114万円)。貧困率は9・1%と、全米貧困率の11・8%(18年)を大きく下回る。
一方、グランドラピッズ市の平均世帯年収は4万7173ドル(約504万円)と、サンノゼの半分以下だ。貧困率は21・2%にのぼる。テレワークができない仕事に就いている人は、大卒未満で低所得層の非白人が多く、雇用主による医療保険の提供もない可能性が高い。
つまり、感染・重症化リスクにさらされているということだ。テレワーク格差は、多くのことを物語っている。『経済界』2020年7・8月合併号より加筆の上転載】
筆者紹介―肥田美佐子 ニューヨーク在住ジャーナリスト
(ひだ・みさこ)東京都出身。『ニューズウィーク日本版』編集などを経て渡米。米企業に勤務後、独立。米経済・大統領選を取材。スティグリッツ教授をはじめ、米識者への取材多数。IRE(調査報道記者・編集者)などの米ジャーナリズム団体に所属。『フォーブスジャパン』『週刊東洋経済』『プレジデント』『週刊ダイヤモンド』などに寄稿。