経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

アートミーツメタバース NFTマーケットの真価  ストレイムアートアンドカルチャーCEO 長崎幹広

アート作品の共同保有プラットフォーム「STRAYM」を運営するストレイムアートアンドカルチャー。NFT作品の扱いも増やし、今後メタバース空間での販売、展示をはじめ新たなコミュニティづくりを目指している。長崎幹広氏にメタバースとNFTを活用したアート市場の展望を聞いた。聞き手=金本景介 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2022年10月号より)

ストレイムアートアンドカルチャーCEO 長崎幹広
長崎幹広 ストレイムアートアンドカルチャーCEO
ながさき・みきひろ 1976年生まれ。98年成城大学卒業後、旭通信社(現ADK)入社。2005年クリエイティブエージェンシー「風とバラッド」参画、06年クリエイティブエージェンシー「kazepro」共同設立、15年4月エンタテインメント会社「パープル」設立を経て、19年冬に「STRAYM」のサービス運営をスタート。


リアルとメタバースの融合 拡大するアート市場


―― リアルのアートとNFT(※1)の共同保有サービスを展開しています。

長崎 会社を立ち上げた頃はリアルアートしか扱っていませんでしたが、スタート当初からブロックチェーン技術を活用したNFTに将来の可能性を感じており、2021年頃からNFTアートをオーナー権NFT(※2)として販売して扱うようになりました。現在はリアルアートとNFTの割合は半々くらいです。サービスの特徴としては少額から分割してオーナー権を持つことができるプラットフォームという点です。アーティストへの応援を込めて購入される方も増えています。

―― NFTの場合、マーケットプレイス(※3)での二次流通で売買される場合でも作家本人にロイヤリティーが入るメリットがあります。

長崎 リアルアート作品でも、さまざまな作家に直接出品していただき、当サービスから一次流通として売り出してきました。現在では作品を撮影していただき、そのデジタルデータを作家自らNFTとして発行してもらっていることもあります。
 ブロックチェーン技術によってもたらされる利益が、アーティストにきちんと還元される仕組みは素晴らしい。他の仕事も掛け持ちで稼ぎながら制作に取り組むアーティストが多いので、作品が転売されることでも収入源となるNFTにより、芸術家志望の若者が増える世界を望んでいます。

―― メタバースへの展開はどのように進めていますか。

長崎 当社はもともとアートコミュニティづくりに主眼を置いていました。運営するプラットフォームでも、誰が何を購入したかが一目で見えるように工夫していますが、それがさらに分かりやすくなることが大きなメリットです。そして、今後メタバース上でイーサリアム(※4)などの暗号資産を用いて作品の売買がより活発化することを考えた時、立場や国境も関係なく自由闊達に話ができる新しいアートコミュニティの創造にメタバースが果たす役割は大きい。もちろんメタバース上に美術館やギャラリーをつくり、その場で購入できるような取り組みも考えています。ただ、現実の美術館の役割を軽んじるわけではなく、リアル作品と両輪で展開していきます。

―― リアルでのイベントも開催されています。

長崎 まだデジタルのアートだけでは抵抗があり、リアルアートを直に見たいという方はいます。ですから現実世界のギャラリーで定期的に作品の展示会も開催しています。また、これは一種のオフ会的にアート購入の情報交換の機会ともなっています。
 さらに、NFTアートに注力しているような業界の方も、想像以上にリアルの場を欲しているようです。今年6月にニューヨークで4日間開催されたNFTカンファレンス「NFT.NYC」も、ものすごく熱気がありました。自分のNFT作品を売り込み一攫千金を狙う若手アーティストも含めて、このようなリアルの場はまだ欠かすことはできません。

今はNFTバブルなのか 投機を越えた可能性

―― 21年にはNFTの取引高が急上昇し20年度の200倍以上になったという試算もあります。ビル・ゲイツ氏はNFTについて懐疑的な見方をしているようですが、NFTアートの価値をどう考えますか。

長崎 そもそもアート作品の価値は本来、バブル状況さえなければ自然と上がり続けるものです。特段ビル・ゲイツ氏に反論しようとは思いませんが、現代アートと同様に、NFT市場が活況を呈している現状は巨額の金で買い支えている人たちがいるからこそです。この買い支えの人をどれだけ増やせるか、そしてより一般的にできるかどうかというゲーム的側面は確かに否めません。
 しかし、NFTのマーケットは欧米だけではなく、世界中から多くの人が参加している市場であるという点がポイントです。リーマンショックの時ほどアメリカの市場に依存しているわけではなく、メタバースも暗号資産市場も、全世界がフラットにつながっているような状況ですから、価値という点において、簡単に崩れることはないのではないかと考えています。

―― クリスティーズのオンラインオークションで、デジタルアーティストのBeeple(ビープル)氏のNFT作品を約75億円で落札したのもインド出身の方でした。欧米を中心としたアート市場とは異なる流れが出てきているのかもしれません。

長崎 特に東南アジア圏でのNFT人気には目を見張るものがあります。まず暗号通貨の所有率が高いということもありますが、新しいNFTゲームもどんどん開発されています。全世界でのゲーム内課金率でも東南アジアを中心に高い割合を占めています。

―― アート作品の価値は美術史の文脈上に沿って批評家が箔付けをし、そこにコレクターが集まり値段が上がっていく構造があります。NFT作品の価格決定とは異なるプロセスがあるように感じます。

長崎 NFT作品は特定のコミュニティ内での知名度により値段が跳ね上がる傾向があります。従来のアート作品の価格決定のプロセスとして、評論家の学術的な裏付けと合わせて、その作家が今までどういう展示会に出たか、有名ファッションブランドとコラボしたか、などが重要でした。しかし有名人がツイッターで作品に言及するような些細なことでも作品の価値が高まる時代ですから、今後はメタバースならではの新しい価値基準も出てくるはずです。
 また、アーティストのファンが集い、オーナー同士の交流や売買を自動化し、より円滑化するための仕組みとして、当社ならではのアートDAO(※5)を構想しています。アーティストや作品を盛り上げるユニークな試みですが、他所ではアーティストのブランド力向上や作品の価値形成という点で成功しているプロジェクトも散見されます。このような動きはメタバース上でより活性化されていくはずです。


※1:NFT:Non-Fungible Token(非代替性トークン)。「1円の価値は他の1円と全く等しい」貨幣のような交換可能な等価性を持たないという意味で「非代替性」がある。 ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用し、元来コピーが可能であったデジタルデータに、これは世界で唯一であるという希少性の証明を与えられる。

※2:オーナー権NFT:同社が開発・提供するブロックチェーン・スマートコントラクト「Fractional art-ownership protocol」によってNFT化されたオーナー権証明書。

※3:NFTマーケットプレイス:NFT作品の取引のためのプラットフォーム。アート作品が初めて市場に出る一次流通と、購入者が再販売をする二次流通があるが、NFT作品の場合、ブロックチェーン上に制作者の情報が記されているので、スマートコントラクトにより二次流通時に制作者にロイヤリティーが入る設定が可能となる。

※4:イーサリアム:カナダのプログラマーのヴィタリック・ブテリン氏が開発した、ブロックチェーン技術を用いた暗号資産プラットフォーム。事前に契約条件を定義し、その条件に応じてブロックチェーン上で自動決済される「スマートコントラクト」機能を持つ。NFT作品の取引で使用されることが多い。

※5:DAO:Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)。特定人物を管理者に持たない非中央集権的組織を指し、ネットワーク上でそれぞれの自律した参加者のアクションの中で自動的に全体の意思決定がなされるような組織づくりのこと。例えば、メンバーには目的に応じたトークンが付与されるが、あらかじめ定義された組織内のルールを基に、取引がスマートコントラクトで自動実行されることで、組織の透明化を図ることができる。