日本初の犬や猫と暮らせる障がい者のグループホームをレベニューシェア形式で増やしてきたアニスピホールディングス。福祉事業のM&A仲介を開始するなど、常に新しいことへの挑戦を続けている。業界の風雲児・藤田英明代表に話を聞いた。(雑誌『経済界』2023年5月号「注目企業2023」特集より)
アニスピホールディングス 代表取締役CEO 藤田英明氏
3本柱の福祉サービスを展開。障がい者就労支援にも注力
「人間福祉と動物福祉の追求」を企業理念とし、事業を通した社会問題の解決に取り組む同社。
2018年からスタートした、保護犬・保護猫と暮らすことができる障がい者グループホーム「わおん」「にゃおん」は、全国で1200拠点を突破(23年2月現在)した。
「約5千部屋の住まいをつくったので、次の事業としてグループホームで暮らす人たちのQOLを上げていきたい」と藤田代表は話す。
そのためには、訪問看護、障がい者デイサービス、就労支援の3つの事業が柱となる。
訪問看護の事業では、昨年12月に精神科訪問看護ステーション「ファミリーナース」フランチャイズ1号店をオープンした。
「ファミリーナース」は、同社が展開しているグループホームに看護師が訪問し、服薬や生活のサポートを行うサービスだ。
デイサービス事業では、フィットネス型障がい者デイサービス「ワーカウト」をスタート。中・重度の障がい者を主に受け入れる日中サービス支援型障がい者グループホーム「ビーハック」は、保護者の負担を減らすことにも貢献している。
今年1月からは、知的障害、精神障害、身体障害、難病の方など、誰でも通うことのできる障がい者デイサービス「COMCOM(コムコム)」も提供している。
就労支援では、農業と福祉の連携のほか、古本販売事業など、障がい者が働ける拠点を増やしていく。
障害者総合支援法改正によるサービス低下を危惧
厚生労働省の発表によると、障がい者の人数は18年の964万人から、22年は1160万人に増え、全人口の9・2%が障がい者であることが分かっている。
藤田代表は、24年4月から障害者総合支援法が改正されることに危機感を抱いている。
「障がい者の数に対して、入居できるグループホームは全然足りていません。しかし法律が改正されると、福祉事業所の開設申請を拒否する権利が市町村に与えられ、財政が厳しい市町村ではグループホームの新規設立が難しくなります」
その結果、「待機障がい者」が大量に発生し、行き場のない障がい者がマンガ喫茶などで生活を続けざるを得ないといった問題も起こり得る。
「法律は変えられないので、市町村の議員の方に頑張っていただき、福祉の充実に取り組んでいただく必要があります」
さらに法律が改正される前に、福祉事業にむやみに参入する企業が増えることも懸念事項だという。
「24年以降はグループホーム事業に競合他社が参入しづらくなります。障がい者が待機している状態だと、『良いサービスを提供しなくてもやっていける』と考える事業所もあるかもしれません。不健全なマーケットが形成されるのを阻止するために、私が理事長をしている全国障害福祉事業者連盟でも、国や市町村に問題点を指摘しています」
精神科クリニックの経営とM&A事業をスタート
厳しい情勢の中、同社では新しい取り組みを次々と発表しており、今年は精神科クリニックの開設を予定。これにより、精神疾患を患う入居者がいるグループホームへの医師の訪問診療が可能となる。
「精神科クリニックでの診療時間は平均5分程度です。しかし、薬局で薬をもらう待ち時間が長かったり、病院に通うと半日ほどつぶれてしまいます。すると、その日は仕事に行けなくなってしまうので、訪問診療が必要とされているのです」
仕事が終わる夕方に医師に来てもらい、診断後に処方箋を薬局に送ってもらえば、薬局での待ち時間もなくなる。
オンライン診療は自由診療のところが多いが、訪問診療は保険診療として受けられるので、経済的な負担も少ない。
また、同社は専門知識を生かし、福祉事業所のM&A仲介もスタートした。
事業所が増えたことで「売りたい」「買いたい」という方が同じくらいおり、相談も多いという。
「業界を知り尽くしている当社だからこそ、売買の妥当な価格が分かりますので、ご相談いただければと思います」
同社は「イシュー・ドリブン・カンパニー」(社会課題を解決することによって成長していく会社)として、新しい発想を打ち出し、福祉の未来を明るい世界へ導いていく。
会社概要 設立 2016年8月 資本金 5,300万円 売上高 19億円 本社 東京都千代田区 従業員数 300人 事業内容 ペット共生型障がい者グループホームの運営、障がい者デイサービスの運営、ペットシッターサービス&看護サービスの展開など https://anispi.co.jp/ |