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「変化するDNA」が生んだ半導体パッケージのトップ企業 イビデン 青木武志

イビデン 社長 青木武志

イビデンは、半導体パッケージ基板の世界的メーカーだが、原点は111年前に岐阜県に誕生した水力発電会社だ。それが最先端電子部品メーカーになったのは「時代や社会のニーズに合わせ変化するイビデンのDNAがあるからだ」と青木武志社長は振り返る。そのDNAはいかなるものなのか。(雑誌『経済界』2023年11月号 第2特集「リブート中部経済」より)

イビデン 社長 青木武志
イビデン 社長 青木武志

プロフィール
1958年生まれ。81年関西大学工学部を卒業し揖斐川電気工業(現イビデン)入社。長年にわたりセラミック事業を担当。2014年取締役セラミック事業本部副本部長、16年副社長セラミック事業本部本部長を経て17年社長就任。技術開発担当も務める。

半導体パッケージで世界のトップランナー

── 1年前には4千円前後だったイビデンの株価は、最近では2倍以上の水準に、時価総額は1兆円を超えました。世界の最先端半導体メーカーが使用する半導体パッケージの多くがイビデン製であることが、株高の背景にあります。

青木 お客さまから高いご評価を頂き、生成AIのような新たな領域でも高いシェアを頂いておりますし、TSMC社の3DICセンターでは最先端半導体の共同開発をさせていただいております。このような半導体トッププレーヤーのお客さまと一緒に仕事ができているのはとてもありがたいことです。

── 半導体の技術の進化は日進月歩です。その革新のスピードについていくのは大変ではないですか。

青木 彼らは独自のコア技術を持っています。一方、当社のパッケージ基板にも独自のコア技術があります。お互いのコア技術を最善の方向で擦り合わせていく。

 具体的には彼らは開発ロードマップを持っています。5年、10年のスパンで次世代の半導体はこうあるべきだという内容です。それに対し当社が提供できる技術・ソリューションを示し、キャッチボールしていく。次世代半導体の実現に向けて、こうすればもっと伝送速度が上がる、実装の歩留まりを上げることができるといった提案をしていく。それが評価されたことが今日につながっていると思います。ですから大変ですけれど、これが将来につながると考えればむしろ楽しいですね。

── とは言え、イビデンが半導体パッケージに本格的に取り組んだのは青木さんが社長に就任した6年前からです。それまでの主力はスマートフォン向けのプリント配線板やディーゼル車黒煙除去フィルター(DPF)でした。短期間でよく事業領域を大きく変えましたね。

青木 もともとは揖斐川の水力発電会社としてスタートしましたが、余剰電力を活用するために電気化学事業に進出し、高温焼成技術を獲得したことから建材事業にも取り組みました。このように、時代のすう勢に合わせて主力事業を転換してきたのは、そうしなければ生き残れなかったからです。ですから、これからも時代に合わせ、伸びる市場に対して経営資源を投入していきます。

過去の開発データが未来の開発の架け橋に

── 新製品の事業化では、どのように新たな芽を見極めていますか。

青木 トライアンドエラーしかありません。事業の絵を描き、失敗したら、何を読み違えたか分析する。仮に事業化できなくても、そのプロセスやデータがあとで生きてくることもあります。

 例えばイビデンでは昔、魚焼き用のホットプレートを開発したことがあります。表面にセラミックをコーティングしたものでしたが、全く売れませんでした。

 ところが、ある時、国内大手自動車メーカーから、スーパーカーの開発をしているが、エンジン部品に熱がこもって困っていると相談を受けました。セラミックコーティングの技術開発から長い年月が経っていましたが、社員の一人がその開発を覚えていて、その技術をお見せしたところ、これは使える、ということになり、そのスーパーカーのエキゾーストマニホールド(排気管)に採用されました。

 このように、技術や新製品を生み出した段階ではうまくいかなくても、技術のスパイラルアップによって、いずれ役に立つことがあるかもしれません。そうした経験から技術の標準化作業に取り組んでいます。過去の開発データを標準化しデジタル技術で保存する。それが未来に生きてきます。

日本のマザー工場から海外に技術・技能を伝承

── 本社(岐阜県大垣市)の窓から外を見ても、何カ所かで新工場の建設が進んでいます。TSMCは熊本県に工場を造っていますが、それに合わせて他県、あるいは海外に工場を建設しようとは思いませんか。

青木 イビデンは岐阜県で生まれ育った企業です。ですからできる限りこの地域に貢献したいと考えていますし、工場建設もこの地域を中心に進めています。

 フィリピンやマレーシアにも半導体パッケージ基板の工場はありますが、最先端の開発は日本で行い、安定量産技術が確立したものは海外工場に移管し、お客さまのすぐそばで提供する。

 その一方でグローバルでのワンファクトリー化を目指しています。同じ製品なら、日本でつくっても海外でつくっても同じ歩留まり、同じ品質になるようデジタル技術を駆使して管理しています。そのためにも現在、フィリピンから300人の研修生を招いて、新工場の立ち上げや新製品の勉強をしてもらっています。日本で学んだ人材がフィリピンに帰った時は、工場の主任や班長となって活躍してくれる。そんなローテーションを目指しています。 

会社概要
設  立 1912年(大正元年)11月
資本金 641億5,200万円
売上高 4,175億4,900万円(連結)
本  社 岐阜県大垣市
従業員数 1万2,744人(連結)
事業内容 ICパッケージ基板、SiC-DPF、触媒担体保持・シール材、グラファイト、高温断熱ウール
https://www.ibiden.co.jp/