1949年の設立以来、百貨店向けにダイニング・キッチン用品を取り扱う総合商社として成長してきたワイ・ヨット。同社の次なる一手は、BtoCビジネスの強化だ。卸と直販の両輪で新時代のリビングスタイルの架け橋を目指す。(雑誌『経済界』2023年11月号 第2特集「リブート中部経済」より)
巣ごもり需要の拡大で変わった業界の風向き
ワイ・ヨットの基幹事業は、百貨店や専門店、通販会社に向けたダイニング・キッチン用品の卸売業。創業時はアンチモニー製品の販売を手掛け、そこから派生したギフト用品の卸しで百貨店との取引が始まった。商材は洋食文化の浸透と共にギフト用品の中でもダイニング・キッチン用品が中心。取引先は国内外に及び、ニーズに応じて世界中で愛される質の良い商品を紹介してきた。
創業者の孫である寺田佐和子氏が社長に就任したのは、コロナ禍の2020年8月。巣ごもり需要が拡大し、リビング業界が注目を集めはじめたタイミングだ。世の中の消費行動がおうち時間の充実に向かう機を逃さず、これまで培ってきた商品の良さやトレンドを見極める土台を生かしたオリジナル商品の開発・発信を強化。「卸売業として業界内のポジションはしっかりキープしつつ、メーカーとの協力体制によるものづくりの観点から、質の良いキッチン用品を届けたい」と話す。
同社の考える「質の良いキッチン用品」とは、消費者の求めるものを的確に提示できる商品、使い捨てではなく長く愛用できる商品だ。
「同じ料理を作っても、キッチン用品の材質や細かい使い勝手によって出来上がりが違います。商社の立場から、ステンレスならこう、鋳物ならこう、アルミならこう、といろいろなアプローチの仕方を消費者に伝えていくことが必要です」
日本全国の産地と一緒に取り組み、伝統的な道具を今風のキッチン用品に昇華させた「にちにち道具」。使い勝手やデザインの良さで、日々の料理の楽しさを提案する「365methods」。これらオリジナルブランドの商品開発では、「どの産地やメーカーと取り組めばより良い商品ができるのか」といったイニシアチブをとり、ステンレスや鋳物の特性を伝えて消費者にさまざまな選択肢を提示。「産地や作り手と直接やりとりができる関係性はもちろん、社員のキッチン用品に対する愛が質の良い商品を生み出す原動力」だという。
寺田社長は就任して間もなくDX推進に着手。ECサイト「ワイ・ヨットストア」やSNSを運営しながらノウハウを蓄積。オリジナルブランドでの商品開発と新しいツールの活用で、ものづくりをしながら販売していく体制を整えた。これにより、「取引先から求められるものを卸すだけに留まらず、当社で勧めたいものを作り紹介していく」という意識が社内で少しずつ育っていった。
社員の意識を変え事業は新たなステージへ
「ワイ・ヨットストア」のような直販ツールがあるのは、商社としても強みだ。日本ではそれほど知られていない海外メーカーとも直接取引し、消費者に届けられる。
「25年、欧米では環境問題や健康リスクが指摘されているPFAS(有機フッ素化合物群)の規制が始まる見通しです。ベルギーブランドの『グリーンパン』はフライパンなどのコーティングに用いられるフッ素樹脂を一切使わない、セラミックコーティングを世界で初めて採用し、環境や健康に関心の高い方から注目を集めています。特徴的な商材を扱えるのも当社の強み。多くの商材の中から、お客さまの関心やライフスタイルに合わせて提案できます」
社員の意識改革も重要なミッションだ。卸売業においては、社名が消費者の目に触れる機会はほとんどなく、社名を表に出すことに戸惑う社員も多かった。寺田社長が「ワイ・ヨットのネームバリューを上げていこう」「社名を社員一人一人が自信と愛着を持ってアピールしていってほしい」と何度も熱く語ってきた成果は徐々に結実してきた。
今年11月には、森ビルが計画した東京・麻布台ヒルズに「ワイ・ヨットストア」の名前を冠した初の実店舗のオープンが決定。ECサイトではできなかった新たな試みとして、店内にキッチンラボを設置し、商品の良さを体感する場を設ける。さらにワークショップの定期開催も予定。「ワイ・ヨット」提案のリビングスタイルの具現化は、同社のターニングポイントとなるだろう。
日本は海外と比べてキッチン用品やリビング用品の需要が弱かったが、コロナ禍を経て家で過ごす時間を楽しむ文化が醸成されてきた。キッチン用品の総合商社としての存在感は、75年余りの歴史で揺るぎないものとなった。組織体制を整えてCRMに取り組み、「キッチン用品といえばワイ・ヨット」のイメージを作り、消費者の意識にも浸透させていく。そして長く使える質の良い商品を集め、ライフスタイルまで見据えた商品を提案していくことが、業界をリードする同社の新たな命題だ。
会社概要 設 立 1949年6月 資本金 4,500万円 売上高 220億円 本 社 愛知県名古屋市中区 従業員数 1,000人 事業内容 ホールセール事業、商品開発事業、デジタル事業、選べるギフト事業、小売事業、物流事業 https://www.y-yacht.co.jp/ |