企業の会計・税務などの会計業務に加え、経営サポートも手掛ける覚王山総研。専属のプログラマーを社員に抱え、ソフト開発やシステム開発を自社で行うなど、ITに強い異色の会計事務所だ。業界をリードする同社の林代表が語る。(雑誌『経済界』2023年11月号 第2特集「リブート中部経済」より)
経営支援に特化したシステムを自社開発
企業の会計や税務といった会計業務に加え、経営サポートにも注力する覚王山総研。公認会計士の林千尋代表は、大手監査法人にて勤務したのち独立。名古屋と東京を拠点に、全国の中堅・中小企業の会計税務と経営サポートを行っている。経営コンサルティングや事業再生、相続、事業承継の実績も豊富で、多くの経営者から頼りにされる存在だ。
同社はこれまで、勤怠管理や在庫管理、顧客管理、宿泊予約システムといったITシステムを自社で構築し、数多の企業の業務効率化に寄与してきた。中には、人件費が年間6千万円も削減できた企業もあるという。林代表もプログラミングに習熟しており、開発にも携わる。
林代表が特に力を入れるのが、会計データを視覚化した経営サポートだ。2023年8月、既存の会計ソフトのデータを利用したクラウド型「経営戦略展開支援システム」を開発して特許を取得。数字の羅列にすぎなかった会計データを分かりやすくグラフ化・視覚化したもので、税金のシミュレーションやキャッシュフローデータのグラフ化など機能は多岐にわたる。
「これまでの経験から、中堅・中小企業の経営者の90%は数字をあまり見ていないことに気付きました。貸借対照表や損益計算書を見せながら話しても、いまいちピンと来ない、つまらないと感じています。中には『経営者は会計について勉強すべきだ』というポリシーの会計士もいますが、私はそうは思いません。経営者の仕事は経営であり、会計のプロである必要はないからです。そこで、言葉で説明するには限界があるさまざまなデータを『見える化』して、具体的な事業戦略や行動戦略を立てるのに貢献したいと考えたのがシステム開発のきっかけです」
数字の見せ方を変え戦略立案につなげる
経営戦略展開支援システムでは、キャッシュBEFORE&AFTERグラフ、利益分析グラフ、借入金返済シミュレーショングラフといった会計データのほか、残業集計グラフ、ロス不良集計グラフなど、多様なオプションデータを視覚化することで、経営状態の見える化や資金繰り管理、コストの削減ができる。
決算書を色付きのアニメーショングラフで算出の順番で動的に表示しながら説明すると、退屈そうにしていた経営者が前のめりになる。そんな姿を見て、林代表は従来のデータの見せ方を変えなければならないと確信した。
「学生時代は経済を専攻していましたが、実は絵を描くのが大好きで、絵の道に進みたいと考えていました。最近ではビジネスにもアート思考が取り入れられる時代です。会計のプロが数字に強いのは当然ですが、それを経営者にどのように伝えるか、どのように見せるかという部分にまで踏み込むべきだと考えたのです。集計までは自動でできます。私がこだわったのは『表示』です」
特に現預金残高の推移を365日視覚化できる機能は、従来の会計ソフトには搭載されていなかった。
「キャッシュフロー経営の重要さがうたわれて久しいですが、中堅中小企業で実際に日々の現預金残高を把握している経営者は少なく、頭の中で大まかな資金繰りを行っているのが現状です。人間のやることですからミスや勘違いも起こるでしょう。真のキャッシュフロー経営を実現するためには、日々の現預金残高のデータ化は不可欠です。システムにアクセスすれば見たいデータを瞬時に把握でき、頭の片隅に置いておく必要がありません。その分、業務に集中できます」
IT・AIを味方に付け。経営者の右腕となる存在に
このシステムは、会計データの活用法を模索する経営者や、ベンチャー企業の経営者だけでなく、税理士や会計士といった同業者からも注目されている。
「国はDX化を推進しています。DXには、効率化で生産性を上げる効果もありますが、真の目的はデータを生かした新ビジネスにつなげることです。会計事務所が扱うビッグ(スモール)データをフル活用し、戦略的経営展開のサポートを行うのがこれからの会計事務所が取り組むべき新たな業務でしょう。しかし、会計業界はDX化どころかIT化が遅れている分野です。数字は自動化しやすいデータなのに、経理部門はアナログ作業が多く、ボトルネックになっています」
これからの時代で生き残る会計事務所は、会計税務だけでなく、経営にもITにも通じ、経営者の右腕として一歩踏み込んだ存在となることが急務だろう。
同社では、経営者や経理担当者向けのセミナーや、税理士や公認会計士を対象にしたセミナーも開催し、好評だという。
同社はAIの活用にも早期に取り組んでいる。次世代のビジネスモデルを構築するに当たり、AIは力強い味方となるはずだ。会計業界のリーディングカンパニーともいえる同社の動向から目が離せない。
会社概要 設 立 2002年1月 資本金 1,000万円 売上高 1億2,100万円 本 社 愛知県名古屋市中区 東京品川オフィス 東京都港区 従業員数 10人 事業内容 会計事務所業務、経営サポート業務 https://www.kakuozan-nagoya.com/net/ |