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時代のニーズに適合したフードビジネスサポートで急成長 折兼 伊藤崇雄

折兼 代表取締役 伊藤崇雄

折兼は官設鉄道名護屋駅(名古屋駅)開業の翌年となる明治20年に駅弁用の折箱製造販売を始め、食品包装資材の専門商社としてフードビジネスを支えてきた。時代の変革に直面する今、同社の取り組みが注目を集めている。(雑誌『経済界』2023年11月号 第2特集「リブート中部経済」より)

折兼 代表取締役 伊藤崇雄
折兼 代表取締役 伊藤崇雄
 いとう・たかお

コロナ禍で再注目された食の安全を守る重要性

 食品包装資材の専門商社として、右肩上がりの成長を続ける折兼。特に伊藤崇雄氏が代表に就任してからの伸び率はすさまじい。「私が社長に就任した12年前の売り上げは、グループ全体で198億円。今期は6月が終わった時点で658億円。ホールディングス化による販路拡大とともに業績を伸ばしてきましたが、コロナ禍が転換期になりました」と話す。

 「食のワンストップショッピング」を掲げる同社では、使い捨て容器はもちろん、マスクやアルコール、手袋などの衛生商品も扱う。新型コロナウイルス感染症の流行拡大によって「食の安全」が見直され、パッケージの重要性が高まるなかで社会的存在感を発揮。当時の混乱のさなか、これらを切らさず安定供給を成し遂げている。

 「過去の感染症流行時の動きを踏まえて、有事の際も供給をストップしないように、平素から体制を整えてきました。コロナ禍においても、世間に動揺が広がる前に取引先である海外に直接発注をかけたので、一時は通常の約2カ月分の在庫を抱えたものです」と話す伊藤代表の慧眼と決断力には恐れ入る。同社では、「食のインフラを守る」ことを使命の一つと捉えている。

 コロナ禍ではテイクアウトの需要、ひいてはパッケージの需要も飛躍的に伸びた。「新たにテイクアウトサービスを始めたい」という飲食店からの相談が急増。同社がかねてから注力してきた商材に光が当たることとなった。サトウキビの搾りかすであるバガスを使用した容器である。

バガス容器を中核としたSDGsへの取り組み

 同社がバガス容器に注目したのは「20年も前のこと」だという。伊藤代表が入社した時には既に中国で製品化されていた。

 「当時のバガス容器はプラスチック容器に比べて約4倍ものコストがかかるため、なかなか普及しませんでした。しかし、3R(リデュース、リユース、リサイクル)やSDGsについて学校で学ぶようになり、環境コンセプトの流れができてきた今こそ、バガス容器のようなエコ包装を広めていくことが当社の2つ目の使命だと考え、販売に取り組むことを決めました」

 バガス容器が普及している中国や欧米とは、必要とされるサイズや衛生観念などが異なる。そのため、日本仕様につくり直す必要があった。伊藤社長は中国の製造工場に投資し、容器を製造する型の開発から着手。2019年には、再びバガス容器を売り出す体制を整えた。

 「SDGsやプラスチックごみ削減といった環境問題への関心が世界的に高まり、コロナ禍に突入したことで食の安全を守る意識も高まりました。そのため、新たにテイクアウトを始めたいと考える企業や店舗の多くが環境に優しいものを選択するようになり、バガス容器のコストは20年前の半分程度になっています」

 この時流に乗って、環境問題の啓蒙を進めていくことが、さらなるバガス容器普及の一手となる。同社では、業界初となるバガス容器のHACCP認証マークを取得。北九州市立大学との共同実験により、バガス容器を土の中に埋めれば約70日で分解、海の中でも約150日で分解することを確認している。土壌分解の安全性についても問題なし。さらに、自社にてプラスチック容器からバガス容器に切り替えることでCO2がどの程度削減できるのかを数値化。ライフサイクルアセスメントの観点で81%も削減できることが証明された。「同業でこれらのエビデンスを示せるのは当社だけ」と、伊藤代表は取り組みに自信を見せる。

 取得したエビデンスは、同社が推進する「みんなでエコを楽しもう!」という活動にも生かされている。環境の意識をみんなで高めて楽しみながらパッケージを活用していくために、バガス容器や環境にやさしい資材を集めた新ブランド「weeco(ウィーコ)」を立ち上げた。

 さらに、新設したSDGs課が中心となって、小学校や中学校、高校、大学で環境意識を高める啓蒙活動も行う。例えば小学校の給食で、バガス容器を使った食事をする。その後、中庭や畑に使用済みの容器を埋める。60日後に掘り起こして状態を確認する、という体験型授業だ。

 「始めたきっかけは、地元の女子高生から依頼されたフィールドワークでした。これは素晴らしいと思い、そういう応援ができるなら協力したいな、と。最近は『SDGsキッズスタートアップアドベンチャー』で、キャンプ体験にバガス容器を使っていただいたり、環境省が推進する『プラスチックスマートキャンペーン』対象のバガス製釣り餌容器を釣り具メーカーと共同開発したり、さまざまな団体や企業と協力した取り組みが広がっています」

 次なる展開として、バガス容器のたい肥化も進行中。フードサイクリングの仕組みが軌道に乗り始めているという。折兼は持続可能な社会の実現に向けて、これからもさまざまな角度からフードビジネスを見つめ、問題解決に取り組んでいく。

会社概要
設  立 1952年7月(創業1887年7月)
資本金 9,600万円
売上高 658億円(グループ 2023年6月期実績)
本  社 愛知県名古屋市西区
従業員数 550人(グループ)
事業内容 食品包装容器、資材、衛生関連商品、環境対応品、厨房用品および包装機械等のトータル販売
https://www.orikane.co.jp/