ゲストは、女子プロゴルフツアー「アース・モンダミンカップ」を主催するアース製薬会長の大塚達也さん。「世界最高峰の大会を開くのが夢」と穏やかに話します。社長時代には会社を上場に導く経営手腕を発揮。しかし過去には「鬼」と恐れられた時期も。大塚会長が「仏」に変わったエピソードと併せて伺いました。聞き手&似顔絵=佐藤有美、構成=大澤義幸、撮影=川本聖哉(雑誌『経済界』2024年2月号より)
大塚達也 アース製薬取締役会長のプロフィール
選手と観衆の距離が近い。ゴルフ大会の運営を目指す
佐藤 アース製薬では毎年6月に「アース・モンダミンカップ」を開催しており、2023年も4日間の延べ観衆数は7494人と盛況でしたね。あの規模の大会を企業単体で運営していることに驚かされます。
大塚 ありがとうございます。準備は1年かけ、社員が意見を出し合って議論し、限られた予算内でクオリティの高い、楽しい大会を協力して創り上げています。トライアンドエラーの連続ですが、皆楽しんで関わってくれるのがうれしいですね。
佐藤 ゴルフの大会運営は経営とは別の楽しさがありますか。
大塚 経営に通じる部分はありますよ。例えば会社の企画会議では、商品はどう、パッケージはどう、売り方はこうなど、皆が意見を出し合います。リーダーの役割は社員一人一人の意見を受け止めて検討すること。トップダウンで全部決めるのではなく、ボトムアップで意見を出しやすい雰囲気をつくるのは、経営もゴルフ大会の運営も同じです。実際に社員の意見をコースづくりやサービスなどに反映しています。
佐藤 全社一丸なのが伝わりますね。大会の将来像は。
大塚 世界のトッププロたちが参戦し、観衆も世界最高峰のプレーを観戦できる。そんなゴルフの祭典を目指しています。いつかトーナメントも主催したいですね。
佐藤 壮大な夢ですね。
大塚 大きな夢を語り、社員と一緒に努力して歩んでいくことを楽しんでいます。今後は観衆が選手をより身近に感じられる施策を考え、他の大会との差別化を図りたいですね。
佐藤 観る側にとっても、選手との距離が縮まるのはうれしいです。
大塚 そうですよね。例えば選手が観衆に、「応援してくれてありがとう」という気持ちを伝える場面をつくりたい。弊社はサンロッカーズ渋谷というプロバスケットボールチームのスポンサーもしていますが、インターバルには観客向けのイベントがあり、試合後は選手が最前列の観客とハイタッチして感謝を伝えます。これは心を鷲づかみにされましたね。応援したくなりますよ。
佐藤 交流は良い思い出になりますし、ファンを育てますよね。
大塚 はい。ただ近年のゴルフの大会では、選手の安全面の配慮などから、観衆と選手の距離を離す傾向にあります。であれば大会終わりに選手が集まって観衆に挨拶したり、写真撮影やサインに応じる時間があってもいい。これが次の大会の来場にもつながります。アース・モンダミンカップではここを目指します。
率先垂範だった専務時代、社長就任後は任せる経営に
佐藤 経営と通じる部分があるとのお話を頂きましたが、大塚会長は社長時代やそれ以前から、部下の自主性を重視されてきたのですか。
大塚 そう言えばカッコいいのですが、「任せて楽をしたい」と考えていました。任せた方が本人もリーダーシップや責任感を持って最後までやり遂げます。あとはそれを最後まで見届けられるかどうか。見られていると意識させた上で行動してもらうことが大事です。
佐藤 そこは辛抱強さも必要ですね。大塚会長の若い頃はいかがでした。自ら動くタイプでしたか。
大塚 私は負けず嫌いでしたね。入社した当時は殺虫剤業界でも中堅企業でした。会社が儲からなければ生活も豊かにならないので、どう先手を打つか、勝つためにどうすればいいかを四六時中考えていました。取引先に対しても無理を言いましたね。
佐藤 部下を叱ったことは。
大塚 ありますよ(笑)。専務時代までは現場で率先垂範、陣頭指揮を執っており、結果が全て、業績至上主義で、鬼のようだったこともあります。それで部下の半数近くが辞めていきましたが、残った部下はよく耐えてくれました。
佐藤 今の笑顔の大塚会長からは想像もつきませんね(笑)。そこからどうやって変わられたのですか。
大塚 ある時、幹部社員から「このままでは会社がおかしくなる」と上申されたことがきっかけです。それで当時のグループ総帥(叔父・正士氏)に鉄槌を落とされ、会社を締め出されそうになり、社長(父・正富氏)に間に入ってもらいました。半年の猶予期間をもらいリーダーに必要なことを見つめ直して行動を改めたのが、鬼から仏に変わったきっかけです。部下に任せられるようになったのもそれからですね。
佐藤 強引にでも結果を求める時期と、その反省が生きる時期もありますよね。だからこそ社長時代に上場も果たされたのでしょうし。今の会社に大塚会長の想いは企業文化として継承されていますか。
大塚 部下の熱い言動を見ていると、大塚イズムは伝わったかなと。だから社長時代は安心して任せられました。これからのアース製薬に期待することは、競合他社と狭い国内市場を奪い合うのではなく、業界で一致団結して世界の企業と伍する存在になってほしいですね。それが実現できる会社だと信じています。