経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

製糸・縫製のコア技術を応用し独自のサステナビリティを推進 佐口敏康 グンゼ

グンゼ 佐口敏康

1896年に製糸業として創設した大手肌着メーカーのグンゼ。今やメディカル分野やプラスチック分野でも多岐にわたる事業を展開。創業時から培ってきた高い技術を応用しながら、社会課題解決に注力したサステナブル経営を推し進めている。(雑誌『経済界』2024年3月号「関西経済の底力特集」より)

グンゼ 佐口敏康
グンゼ 佐口敏康

社会課題解決を根幹に据えサステナブル経営に注力

 2023年度は、「新たな価値の創出」「資本コスト重視の経営」「企業体質の進化」「環境に配慮した経営」の4つを基本戦略に掲げた中期経営計画「VISION 2030 stage1」の2年目に当たる。株主、顧客、取引先、従業員、地域社会と全てのステークホルダーに向けて多角的な取り組みを続けてきた。

 特に重視しているのがサステナビリティを軸とする事業展開だ。佐口社長は「事業で生んだ利益を還元して社会貢献するのではなく、社会課題の解決に取り組むことで利益を生む事業体に変えていきたい」と話す。

 その一つが、生産工場を資源循環型・環境配慮型に転換する「サーキュラーファクトリー化計画」。23年4月には約100億円を投資してプラスチックフィルム分野のマザー工場を「守山サーキュラーファクトリー」(滋賀県守山市)として新たに竣工した。同工場では、ペットボトル等に使用するプラスチックフィルムの生産時に発生する廃プラを再原料化して利用。また、その先の加工工程である印刷や、さらに先の食品メーカーなどの生産工程で発生する廃プラも回収し、再資源化することでゼロエミッションの実現を目指す。

 まずは1ラインでの稼働になるが、年間約300~500tの廃プラの削減が見込まれ、資源循環に貢献できる。加えて、屋上一面に設置した太陽光パネルや琵琶湖の地下水を利用した熱交換によって再生可能エネルギーを創出し、CO2排出量も削減する。今後は他の国内外の工場もサーキュラーファクトリーに転換し、30年には原料の100%を循環型に転換することで廃プラゼロを目指す。

 メーカーにとってCO2削減など環境に配慮したものづくりの体制を整えることは避けて通れない。佐口社長は「次世代のエネルギー利用を見据えながら、国土の狭い、資源のないこの日本のメーカーとして、いかに競争力を上げていくかという答えを出していきたい」と話す。

完全無縫製の独自技術をアパレル分野の省人化の一手に

 主力事業の一つであるアパレルの縫製では現在もなお人手に頼る工程が多く、サステナブルな事業として発展させるには、将来加速すると思われる労働力不足を解決する必要がある。

 そこで同社では、画像検査装置による検品の自動化など、AIを導入したスマート工場化を進めている。「人が縫製するからこそ快適な着心地につながっていますが、自動化は不可欠。着心地は維持しながらも取り組みを進めていきたい」と佐口社長は話す。

 今後の省人化への鍵となるのが、同社の独自技術を用いた完全無縫製のインナーだ。11年に女性用ショーツからスタートした主力商品で、縫い目がないため「着心地が良い」「アウターに下着のラインが響かない」というメリットからロングヒットを記録している。切りっぱなしでもほつれないオリジナル生地を採用し、生地と生地を貼り合わせているため、省人化や自動化との親和性も高い。100年以上蓄積してきた技術がDXと融合し、事業の持続可能性を高めている。

 アパレルはコロナ禍での影響をダイレクトに受けた分野だが、実店舗からECサイトへと売り上げの一部がシフトしたことで、ECではこの3年は2桁台の売上増を続けている。円安や原料高の高騰による影響は受けたものの、コストダウンや商品の価格転嫁だけでなく、ECや直営店によるDtoC戦略の加速でテコ入れを図っていくという。

 「DtoCはお客さまと直接対話できる貴重なルート。ニーズをつかみ、今後の商品開発に生かしたい」と語る。

 主力事業の中でも成長著しい分野がメディカルだ。

 同社のコア技術である繊維加工技術を応用した吸収性縫合糸をはじめ、骨接合材や組織補強材など生体吸収性を中心とした医療機器を製造し、幅広い領域に提供している。22年に医療機器の販売を行う子会社2社を統合した新会社を設立、23年にはさらに開発部門も統合することで、研究開発から販売まで一気通貫で運営できる組織体制を整えた。今後は製品の拡充を図り、統合した販売会社の販路を生かし、診療科領域を広げるとともに、国内外の販売エリア拡大を狙っていく。

 従業員に対しては、DXによる労力軽減に加え、新しい事務所の建設や移転による環境整備、ベースアップなどのエンゲージメント向上を進めている。資本コスト重視の経営を含め、「VISION 2030 stage1」で掲げる全てのステークホルダーをターゲットとしたバランスの良い事業を展開していく。

独自技術を武器にした関西らしい経済圏の実現を

 京都で創業して127年になる同社では、製糸や縫製というコア技術から派生した独自性の高い事業が成長を押し上げている。そして、その独自性こそが、関西企業の強みだと佐口社長は言う。

 「関西には独自技術を持った企業が多いので、企業同士が手を組むことで独自のものづくりができます。市場のスケールは関東が圧倒的ですが、関西で同じものをつくっても面白くありません。関西では関西ならではの技術や文化を武器にした勝負ができる。そういう文化であってほしいと思っています」

会社概要
創  業 1896年8月
資 本 金 260億円
売 上 高 1,360億円(連結)
本  社 大阪市北区
従業員数 5,214人(連結)
事業内容 機能ソリューション事業、メディカル事業、アパレル事業、ライフクリエイト事業
https://www.gunze.co.jp/