経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

100年に1度の大変化 開発が相次ぐ東京のこれから

大澤昭彦 東洋大学 (C)新潮社

麻布台、渋谷、品川、新宿、東京駅近辺……。大規模な都市開発プロジェクトが都内各地で行われている。各事業者が打ち出す街の魅力は何か、開発が人の暮らしをどう変えるのか。インタビューを通して東京のこれからの姿を追う。文・聞き手=小林千華(雑誌『経済界』2024年9月号巻頭特集「東京 終わりなき進化」より)

各大型駅周辺で行われる、都市開発の今

都心周辺で進行中、開始予定の主な都市開発※❶〜❺はインタビュー掲載
都心周辺で進行中、開始予定の主な都市開発※❶〜❺はインタビュー掲載

 現在「100年に1度」と銘打たれた都市開発プロジェクトが、都内各地で進行している。

 東急グループは、渋谷駅周辺地域、駅から半径2・5キロメートル圏内の地域で大規模な再開発プロジェクトを進めている。既に開業している複合施設も多くあり、昨年11月には桜丘に「Shibuya Sakura Stage」、今年7月には駅東口側に「渋谷アクシュ」が開業するなど、変革が続く。

 その他、新宿駅西口では小田急百貨店、京王百貨店の建て替え。今後リニア中央新幹線の開通が予定される品川駅付近でも、京急電鉄などが駅の構造転換を含めた開発計画を進めるなど、大型プロジェクトが多数動いている。

 一方、高層ビルを建て替えるような、いわゆる「再開発」とは毛色が異なる都市開発を、時間をかけて行っているのが森ビルだ。同社は昨年11月、木造住宅や小規模ビルの密集していた港区麻布台エリアに、大型複合施設「麻布台ヒルズ」を開業。同社が過去に開発を手掛けてきた街と合わせて、グローバルに注目される街をまたひとつ広げた。

現在のまちづくり手法の先駆けサンシャインシティ

 東洋大学理工学部の大澤昭彦准教授は、1978年に池袋駅東側エリアで開業した「サンシャインシティ」が、現代の都市開発の在り方の大きなきっかけを作った施設だと語る。 50年代から東京拘置所の移転が議論されるようになり、跡地の用途として提案されたのが、オフィスビル、ホテルやショッピングモール、水族館などを兼ね備えた大型複合施設、サンシャインシティの計画だった。

 それまでの超高層ビルといえば、68年竣工の霞が関ビルディング、西新宿に林立するオフィスビルのように、初めから目的を限って建設されるものが多かった。今や大型複合施設を軸にしたまちづくりは、都市開発の主流な在り方として行われているが、その先駆けとなったのがサンシャインシティなのだという。

 現在都内で進む開発プロジェクトの多くは、このように大規模な土地利用転換を伴うものというより、オフィスビル、複合ビルの建て替えを軸としたものが多い。ビルからビルへ、ともすれば変化の分かりづらい開発となってしまうリスクもある。その街ごとの特色をどのように打ち出すか、まちづくりを担うデベロッパーは常に頭を悩ませている。

 本特集では、都内のまちづくりに関わるデベロッパーを追い、そのプロジェクトの狙いや、裏側にある仕事人たちの思いを探る。街をつくるのも、その街で過ごすのも人だ。大変化の中にある東京がこれからどう生まれ変わるのか、人々の声から紐解いていく。

大澤昭彦 東洋大学 (C)新潮社
大澤昭彦 東洋大学理工学部建築学科准教授(画像クレジット=©新潮社)

都市間競争の在り方も見直されるべき

―― 近年、都心部を中心に超高層ビルの建設が相次いでいます。

大澤 国内のビルの高さでは、2014年から約10年間に渡り大阪のあべのハルカス(300メートル)が首位でしたが、昨年港区で竣工した麻布台ヒルズ森JPタワー(330メートル)がこれを超えて1位となりました。ただこの記録も28年、常盤橋に竣工予定のトーチタワー(390メートル)によって更新される予定です。

 とはいえこれらの超高層ビルも、必ずしも「日本一の高さ」にこだわって建設されているわけではありません。都心部には、航空法で建物に高さ制限がかけられている場所が多く、制限から外れた場所でも、床面積の需要がそれほどない所であれば、超高層ビルは建てられません。

―― 高ければ高いほど人が多く収容できるからよい、というわけではないのですね。

大澤 景観、防災面の問題もありますし、長い目で見ればインフラへの負荷も大きいです。さらに、人口減少の今、せっかくオフィスや住宅をつくっても空室率が上がる可能性が高く、リスキーです。

 また、超高層ビルを建設するデベロッパーにしても、最初から高さを追求しているというよりは、容積率を求める中で結果的に高くなっている、という方が正しいと思います。

―― 建築物の高さの話に限らず、現在都内各地で進行する開発プロジェクトについてどう思われますか。

大澤 先ほどもお話ししたように、これから人口減少で床面積の需要は今後下がっていきます。一方建設費は高騰し、開発によって新しい施設をつくっても、これまで通りの需要は見込めません。となると、建物の高層化にも、ある程度のところでストップをかけるべきではないかと思います。

 また、都市機能を更新すべき時期が来て、都内各地の再開発が進んでいますが、結果的に都市ごとの個性はどんどん失われていきます。

 国内でも都市間競争は激しくなる一方ですが、結果的に同じようなビル、複合施設をつくり、それも結局新しいものに負けていく運命なのだとしたら、最初からそんな競争はしなくてもいいのでは、とも思います。都心に近い場所では、床面積の広い高層建築物にもそれなりに人が入るのだとしても、それ以外の場所ではヒューマンスケールに合わせたほどほどの施設を揃えていった方が、結果的に生き残りやすいのではないでしょうか。

 まちづくりの競争の在り方自体、見直されるべき時期に来ていると思います。