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最大価値を作り上げるにはパートナーとの協業がカギ 川俣幸宏 京浜急行電鉄

川俣幸宏 京浜急行電鉄

今後、リニア中央新幹線の開通が予定されるなど、東京の玄関口としての重要性を高める品川。そんな品川の開発を担う京浜急行電鉄(以下、京急)は、まちづくりにおいても移動においても、パートナー企業にとっての「プラットフォーム」でありたいと語る。聞き手=小林千華 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2024年9月号巻頭特集「東京 終わりなき進化」より)

川俣幸宏 京浜急行電鉄社長のプロフィール

川俣幸宏 京浜急行電鉄
川俣幸宏 京浜急行電鉄社長
かわまた・ゆきひろ 1964年生まれ。86年、横浜市立大学商学部を卒業後、京浜急行電鉄に入社。2013年、ホテルグランパシフィック専務に就任。その後、京浜急行電鉄取締役常務執行役員グループ戦略室長などを経て、22年4月、社長就任(現任)。

品川の再開発は会社の未来を支える事業

―― 品川駅西口側を中心に、開発計画が進められています。品川は京急が長年力を入れてきたエリアです。

川俣 現在駅周辺では、高輪3丁目地区、駅街区地区、高輪4丁目地区と、主に3つのエリアの開発を担っています。

 特に駅西側の高輪3丁目地区では、1971年から2010年まではホテルパシフィック東京、翌年からは複合商業施設「SHINAGAWA GO

OS(シナガワグース)」として営業していた建物の跡地で開発計画を進めています。私自身も社長就任前はホテル事業に携わっていた期間が長く、ホテルパシフィック東京にも携わった思い出があります。

 会社にとっても、この敷地は大変重要な資産です。これをどう活用するかは長年のテーマ。今回の開発が、当社の未来を支えるような事業になることを望んでいます。

―― 品川という土地の持つポテンシャルをどう考えていますか。

川俣 品川は東海道新幹線の停車駅であり、京急空港線で羽田空港にも直結。さらに今後、リニア中央新幹線の開通も予定されています。在来線についても、これまでは東京メトロが乗り入れていなかったことが欠点でしたが、30年代には南北線が延伸される予定です。まさに品川は、「東京の玄関口」となる交通結節点なのです。

 また、品川というエリアを駅前から少し引いて見てみると、既に大規模な開発がなされている港南側、天王洲、そして高輪ゲートウェイと、周辺エリアを含めた巨大な都市圏があります。現在もものづくり系のグローバル企業のオフィスが多く置かれていて、ビジネスの面でも注目される都市であることは間違いありません。

―― シナガワグース跡地には、29年をめどに、オフィスや商業施設、ホテルなどが整備された複合施設が竣工予定です。この施設を中心とした開発計画について教えてください。

開発計画地と周辺エリアの位置関係
開発計画地と周辺エリアの位置関係

川俣 これまで品川という土地が抱えていた大きな問題として、線路によってエリアの東西が分断されていた点があります。さらに、駅の西口を出てシナガワグース側に行くには国道を横断しなければならず、煩雑でした。

 これらを解消するため、まずは高架上にある京急品川駅のホームを地平化。駅の東西を結ぶ連絡通路を延伸し、これまで高架があった部分から国道上に歩行者デッキを伸ばして、新たにできる複合施設に直結させる予定です。

 また先ほど、品川は交通結節点として非常に重要な場所だとお話ししました。だからといって、単なる通過点になってはいけない。ビジネスや娯楽の目的地として、もしくは宿泊地として、訪れてもらえる街にしなければなりません。

 そのために、商業施設やホテルもこれまで以上に充実したものにしていく予定ですが、オフィスにも重要なポイントがあります。本プロジェクトには、共同事業者としてトヨタ自動車が参画していて、複合施設のオフィスエリアにはトヨタの東京本社が置かれることになっているんです。世界に評価されるモビリティカンパニーの拠点として、多くの人が出入りする場になるはずです。

開発とともに駅ホームの地平化も予定される
開発とともに駅ホームの地平化も予定される

 コロナ後、リモートから出社へと働き方もかなり戻ってきましたし、海外含め遠方からも行き来がしやすい場所ですから、ビジネス拠点としても重要な位置に立つ施設を作り上げたいですね。

―― トヨタとの協業はどのように決まったのでしょうか。

川俣 われわれの開発地の近隣にトヨタの所有する土地があり、以前から品川の開発について協議することはありました。また、トヨタの本社はやはり愛知県にありますので、東海道新幹線や、今後開通するリニア中央新幹線を使って行き来することを考えれば、利便性の高い品川が適している。そういったお考えもあった中で、今回の高輪3丁目の開発に加わってくださることになりました。

 トヨタは既に単なる自動車メーカーではなく、移動に関するさまざまな課題を解決する「モビリティカンパニー」です。彼らの価値創造モデルを体感しながら一緒にプロジェクトを進められることが、われわれの価値創造戦略にも生きてくると思っています。

 ただ東京本社が置かれるというだけでなく、モビリティを通じた新たな価値の創造をリードする重要な拠点にもなるという構想があるそうで、今後どんな計画をしていくのか、われわれも非常に楽しみにしているところです。

パートナー企業と共創の場を作るのが京急流

―― 京急がまちづくりを手掛ける地域は、品川、羽田、横浜、三浦半島など、幅広い色合いを持っています。会社としてどんなまちづくり戦略を描いていますか。

川俣 本年度からの京急グループの新たな中期経営計画で、沿線価値共創戦略として、電鉄会社としての機能を生かした「移動プラットフォーム」と沿線のまちづくりを進める「まち創造プラットフォーム」を相互に高め合っていくことで、新しい価値の創出を図るプランを打ち出しました。街の魅力が高まれば訪れたくなるし、そこを訪れるには移動手段が必要です。どちらが欠けても街の活性化は望めません。

新たに建設する複合施設の外観予想図
新たに建設する複合施設の外観予想図

 「プラットフォーム」と名付けているのは、パートナー企業と協業して進めていくことを前提としているから。例えば移動について、われわれは鉄道やバスといったサービスは、プロとしてよりよくしていくことができますが、駅と周辺の施設、観光地を結ぶ二次交通については、われわれよりも優れた事業者さんのお力を借りて高めていった方がいい。まちづくりも同じく、自分たちより優れた事業者さんがパートナーになってくれるなら一緒に進めていくべきですし、パートナー企業同士をつないで価値を最大化させる役目も、われわれが果たしていきたいと考えています。われわれはそのための場作りをするんです。

 これらの方針に加え、品川、羽田、横浜という、人の移動が特に多く、海外の方の行き来も盛んな3地点で囲まれた地域を成長トライアングルゾーンと名付けました。この地域を中心とした人の往来を促進しながら、その南のリゾート地、三浦半島への観光にもつなげていきます。

―― 「京急のまちづくり」の特色があるとすれば何でしょうか。

川俣 暮らしも仕事も娯楽も、さまざまな機能を兼ね備えた街であることと、先ほどお話ししたようにさまざまなパートナー企業の力が加わってできた街であるということでしょうか。

 今回の高輪3丁目プロジェクトでいうトヨタさんもそうです。モビリティカンパニーとして「移動」の未来を考えるだけでなく、モビリティの可能性を試すウーブン・シティを開発されているなど、よりよい移動を叶えるための街についても、われわれにないアイデアをたくさん持たれている。移動の面でもまちづくりの面も、幅広く共感し合えるありがたいパートナーだと思っています。

 このように、街で過ごす人々が抱えるさまざまな課題を、われわれのプラットフォームに加わってくださるパートナー企業さんの力を借りて解決することで良い街を創る。これは、われわれが手掛けるどの街でも共通して取り組んでいきたいことです。

―― 最後に、品川という街の魅力を一言で表現してください。

川俣 一言で、というのは難しいですね。でも「可能性の街」だとは思います。海外も含め世界に広がる、すごく開かれた可能性のある街。ただの通過点ではなく、人や企業が多くのシナジーを生むまちづくりに尽力していきたいと思います。