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名古屋商工会議所が見る中部経済の今とこれから 嶋尾 正 名古屋商工会議所

名古屋商工会議所 嶋尾正会頭

(雑誌『経済界』2024年11月号「リゲイン中部経済」特集より)

名古屋商工会議所 嶋尾正会頭のプロフィール

名古屋商工会議所 嶋尾正会頭
名古屋商工会議所 嶋尾正会頭
しまお・ただし――1950年福岡県生まれ。73年早稲田大学第一商学部卒業、大同製鋼(現大同特殊鋼)入社。2010年代表取締役社長、16年より代表取締役会長。22年より相談役。17年中部経済同友会代表幹事。22年より名古屋商工会議所会頭。

 今年の3月には日経平均株価が史上初めて4万円を超え、新年度に入ってからも最高値を更新するなど、大企業や製造業を中心に好調な事業業績が景気を支えております。非製造業においても、宿泊業や娯楽業などのサービス業がコロナ前の水準に近づき、インバウンド消費額も過去最高を示すなど、消費全体としては持ち直してきております。

 こうした中、政府ではデフレから脱却し、物価上昇分を上回る賃上げを進めていくことで、経済の好循環を目指しておりますが、日本全体に広く浸透させるには「価格転嫁」や「人手不足と生産性向上」への対応が必要不可欠となります。

 「価格転嫁」につきましては、大企業では着実に進む一方、賃上げによる人件費の高騰分まで十分に価格転嫁できていない中小・小規模事業者は依然として多い状況が続いております。中小企業が持続的な賃上げを実現するためには、労務費などの適切な価格転嫁について個別企業にきめ細かいサポートを行いながら、社会全体の機運醸成を図っていくことが大切です。

 こうしたことから、本所では、国、愛知県、労働団体、金融団体などとともに「適正な取引・価格転嫁を促し地域経済の活性化に取り組む共同宣言」に参画するとともに、パートナーシップ構築宣言を広く周知していくことで、業界全体への理解を促してまいります。

 コロナ禍からの需要回復、人口減少、建設業や運輸業の時間外労働の上限規制などを要因として深刻な人材不足が続くなか、中小企業が今後も持続的に発展するためには、デジタルテクノロジーを活用して省力化や省人化などの生産性向上に取り組み、経営の合理化や付加価値を高めていく必要があります。

 本所では「NAGOYA DX・生産性向上アワード」を創設し、生産性向上に向けた先進的な取り組みを行う中小企業を顕彰し、そのノウハウなどを広く紹介するとともに、デジタルツールを体験できる展示・商談会を開催することで、生産性向上に取り組む中小企業のすそ野の拡大を図ってまいります。さらには、当地域が活気に溢れ、さらなる発展を遂げられるよう「次世代産業の振興」や「魅力ある都市づくり」にも注力する必要があります。

 「次世代産業の振興」については、航空機・医療機器産業、スタートアップ・イノベーション創出支援、自動車産業変革への対応などに加え、新たに半導体関連産業への参入支援に取り組んでまいります。

 「魅力ある都市づくり」については、リニア中央新幹線の開業を見据え、歩いて楽しい街づくりを目指し、官民一体となって取り組んでまいります。当地には、名古屋城や熱田神宮をはじめ、今年3月に全面オープンしたジブリパークなど、魅力ある観光資源がたくさんあります。

 また、名古屋市内にはラグジュアリーホテルも新たに建設され、受け入れ環境も整ってきております。各地に点在する観光スポットをうまく結びつけることで回遊性を高め、円安により急回復しているインバウンドを取り込み、国内外から多くの人々が訪れ、賑わいの溢れる都市を目指してまいります。