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Osaka Metroが挑む。自動運転バスプロジェクトin万博

万博会場で走る自動運転バス(Osaka Metro提供)

2025年の大阪・関西万博に向け、Osaka Metroは来場者の安全で快適な移動を支えるために自動運転バスの導入を決定。大阪市の交通を支える地下鉄とバス事業を一体的に管理する体制を築き、多様な移動ニーズに応えるOsaka Metroは、都市交通の未来を見据え、次世代のモビリティサービスを展開しようとしている。文=佐藤元樹(雑誌『経済界』2025年1月号巻頭特集「自動運転のその先」より)

万博来場者を支える2つの自動運転ルート

万博会場で走る自動運転バス(Osaka Metro提供)
万博会場で走る自動運転バス(Osaka Metro提供)

 大阪市高速電気軌道(以下、Osaka Metro)は、大阪市交通局として地下鉄とバスの運行を担っていたが、2018年に民営化し「Osaka Metro」として生まれ変わった。その際、地下鉄事業に加えて、大阪シティバスを通じてバス事業も運営し、地下鉄と地上交通を一体的に管理する体制を整えた。さらに、Osaka Metroでは地下鉄や路線バス、オンデマンドバスの運行に加え、24年7月にはタクシー会社を買収して、24時間対応の移動サービスも提供可能となる。これにより、都市全体の交通利便性向上と地域の活性化を図り、観光地や地域内での移動需要に応えるとともに、ドアtoドアや速達性の高い移動ニーズへの対応が可能となった。

 25年の大阪・関西万博を控え、万博会場への大規模なアクセス需要を支えるべく、Osaka Metroは自動運転バスの導入を決定。自動運転技術によって来場者が安全かつ効率的に移動できる環境を提供し、会場周辺の交通渋滞を緩和することを目指している。

 1つ目のルートは「万博P&R駐車場シャトルバス(舞洲ルート)」。これは、大阪湾沿いの舞洲に設けられた臨時駐車場から夢洲に位置する万博会場へアクセスするルートで、シャトルバスの一部に大型自動運転EVバスが活用される。来場者は舞洲に車を停め、ここから自動運転バスに乗り換えて会場まで移動が可能だ。公道でのレベル4自動運転の実証は、トラックやIR工事車両が共存する環境で行われる。一般交通と共存する日本初の試みであり、交通混雑の緩和と効率的な輸送の実現が期待されている。

 2つ目のルートは、会場内の外周4・8キロメートルを走行する小型EVバスによる移動だ。こちらのルートでは、レベル4相当の自動運転技術を運用し、会場内外の移動をシームレスにつなぐ。

 Osaka Metroの自動運転バスには、カメラとLiDAR(光による距離測定センサー)が搭載され、周囲360度の監視と障害物回避が可能だ。LiDARは、光を照射しその反射を計測することで周囲の物体の位置や速度を把握し、カメラと連携して状況に応じた安全な走行を支える。このため、運転手がいなくても、複雑な交通環境でも適切に対応できる安全性を備えている​。

 さらに、安全性を強化するために運行ルート上にはインフラ側のサポートとして「ターゲットラインペイント」や「磁気マーカー」が整備されている。ターゲットラインペイントは路面に描かれた専用ラインで、LiDARが認識しやすい反射特性を持ち、一部GPSが不安定なエリアでもバスが正確なルートを維持できるよう補助する。磁気マーカーは道路に埋め込まれ、車体下部にあるセンサーがこれを検出することで、自己位置の正確な把握を支援する。このインフラ整備により、道路構造や周囲の交通状況に柔軟に対応可能となっている​。

 また、新たに導入される「スマートポール」は、交差点などの死角となる部分にカメラやセンサーを備え、車両に必要な情報をリアルタイムで送信する役割を果たす。これにより、バスの視覚では捉えにくい位置にいる歩行者や他の車両を事前に検知し、事故防止が図られている。道路上の信号との連携システムにより、信号の色が変わるまでの残り秒数を認識することで、バスは急ブレーキや急発進を避けながら滑らかな運行ができるようになっている。こうした技術により、乗り心地の向上と安全性の両立が実現している​。

 Osaka Metroの担当者は「将来的に、自動運転バスは『音』を認識する機能の導入も計画されている」と語る。これは、救急車や消防車などの緊急車両が発するサイレンなど、周囲から発せられる音を感知し、安全に運行するための新たな試みだ。音を認識することで、車両がより人間に近い判断を下せるようになり、混雑する都市部でも安全性がさらに向上する。

 一方で万博での自動運転バスの実現には、国土交通省および警察からの許認可が必要で、Osaka Metroは現在、レベル4技術を公道で運行するための申請を進めている。特に会場外の万博P&R駐車場シャトルバス(舞洲ルート)では、一般車両やトラックも走行するため、公道での許認可が欠かせない。

 会場内の自動運転バスは「認可対象外」となっている。これは、万博会場が「一般交通の走行がない管理地」として扱われるため、法律上の規制が異なるためである。会場内では、認可の条件となる道路交通法などの適用を受けず、レベル4「相当」のシステムとして安全管理と運行が行われる。このため、会場内でも高度な自動運転技術が導入されるが、公道とは異なる規制のもとで運用される計画だ。

未来社会に向けた都市交通の試み

 Osaka Metroは、24年11月30日に「e METRO MOBILIT

Y TOWN」を大阪城東部の森ノ宮エリアにプレオープンし、25年1月から10月までの期間限定で本格的な開業をする。

 この施設は、大阪城周辺と連携し、京橋駅や森ノ宮駅からのアクセスルートとして機能するだけでなく、地域の周遊性向上に貢献することも目指している。訪れる人々は、万博会場以外の場所で次世代の交通技術を体験でき、e METRO MOBI

LITY TOWNを通じて未来のモビリティがどのように都市生活を変えていくかを体感できる。ここではイベント内外での自動運転走行も行われ、万博を前にした先行体験の場としての位置づけもされている。

 今後日本が迎える人口減少・高齢化社会では、全ての世代が使いやすい交通インフラが不可欠だ。運転手不足が深刻化する昨今、Osaka Metroの自動運転バスプロジェクトは、高齢化社会に対応するための持続可能な移動手段としての役割を担っている。また、将来的にはバス運転手の労働時間に縛られない運行も視野に入れた自動運転技術の導入を行うことで、都市部での、利便性の高い移動手段や、移動に制約のある人々により自由な移動手段を提供する一助となり、超高齢社会の課題解決に向けた重要な一歩となる。

 さらに、万博期間だけにとどまらず、万博後も大阪市内や府内の広範なエリアで交通インフラとして応用されることが期待されている。今後は観光地や市内各所での自動運転バスの運行が計画されており、これにより大阪全域で脱炭素化を推進し、アクセスしやすい交通システムの整備が進められていく見込みだ。Osaka Metroの取り組みが示す「未来の交通モデル」は、都市の持続可能な発展に向けた重要な役割を果たすことになるだろう。