呉服店から総合スーパーへ。愛知県北部を中心に展開する「清水屋」は、時代とともに大胆に形を変え、地域に根ざしてきた。フランチャイズからアミューズメントまで果敢に挑戦し、成功も失敗も糧にする。「お客様ありき」の精神で歩む新社長・清水崇裕氏を訪ねた。(雑誌『経済界』2025年11月号より)
清水崇裕 清水屋のプロフィール

「清水屋」は、1938年に呉服店として創業。岐阜県各務原市鵜沼の旅館の三男に生まれた創業者が春日井市高蔵寺の呉服店に奉公後、鳥居松商店街の一画を間借りして独立。戦後の混乱期にも顧客の声を拾いながら商いを広げ、着物から寝具、衣料、食品へと商品を増やし、百貨店型の総合スーパーへとピボットした。
この「変化を恐れず、顧客に寄り添う」姿勢は、今も脈々と息づく。振袖事業から派生した子ども写真館や買い物弱者がいる地域への移動販売などは、顧客のニーズを受けて形にしたものだ。自社で内製化できることは自社で、専門性が必要な分野はテナントに委ねる柔軟さが特徴だ。
2025年に7代目社長に就任した清水氏は、先代が手掛けたFC事業に強い手応えを感じている。飛騨高山店の「コメダ珈琲」を皮切りに、8月には「シャトレーゼ」3店舗目を日進赤池店にオープン。春日井市民病院の売店は、顧客の声から医療出店に強いローソンへ転換した。
一方で、挑戦が必ずしも実を結ぶわけではない。オンライン通販や高級魚カワハギの陸上養殖は撤退を余儀なくされた。特に養殖は、薬を使わない安全志向が壁となり、何度も全滅を経験。だが、この失敗は同社の譲れないポリシーを再確認し、挑戦の目利きを磨くこととなった。
エリア展開では、地元や既存の知名度がある地域を重視し、高齢者向けと、未来の顧客層である若年層向けという2つの車輪で事業を回す。近年はアミューズメント事業にも着手。業態転換してクレーンゲームやガチャガチャを備えた多治見店は、SNS発信をきっかけに若者たちで賑わう。9月には、新規事業としてトレーディングカード専門店を春日井店にオープン。学生や若手起業家の元へも足を運んで時代の感度を高める。岐阜大学の学生ベンチャーが企画した訳あり富有柿の詰め放題の催事は半日で完売した。
「流通業は変化産業。形に固執せず、その時々のニーズに応えるのが仕事です」。清水氏はAI・DXの導入やインバウンド向け着物レンタルなど、次の一手も見据える。創業100年を迎えるその日まで「清水屋さん」と呼ばれ続けるために、挑戦の歩みは止まらない。
| 設 立 | 1949年(創業1938年) |
|---|---|
| 資 本 金 | 1億7,000万円(グループ合計) |
| 本 社 | 愛知県春日井市 |
| 従業員数 | 618人(グループ合計) (2023年5月現在) |
| 事業内容 | 総合小売業、介護事業、フランチャイズ事業 https://www.shimizuya.co.jp |

