経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

海外の技術を借りるより日本の技術で勝負したい 坂本孝治 Bioworks

坂本孝治 Bioworks 社長CEO

ゲストは、プラスチック代替品となる植物由来の新素材「PlaX(プラックス)」と同素材を使った繊維を展開するBioworks社長の坂本孝治さん。2024年に代表に就任しました。「ファッション産業で世界に打って出たい」と語る坂本さんのグローバルな経営観と先進的な取り組みについて語り合いました。聞き手&似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=市川文雄(雑誌『経済界』2025年11月号より)

坂本孝治 Bioworksのプロフィール

坂本孝治 Bioworks 社長CEO
Bioworks 社長CEO 坂本孝治
さかもと・こうじ 1990年伊藤忠商事⼊社。2007年エキサイト代表取締役、常務取締役。12年ヤフー コンシューマ事業担当執⾏役員、14年YJ America社⻑。16年TBM取締役(現任)、23年Bioworks(バイオワークス)取締役執⾏役員、24年より現職。

経営の責任を持つ代表に就任 植物由来の新素材で糸を開発

佐藤 バイオワークスは「金の卵発掘プロジェクト2017」(現・経済界GoldenPitch)で審査委員特別賞を受賞しています。創業者の今井行弘さんがプレゼンしていたのが懐かしいですね。あれから8年たち、新たなご縁で坂本さんとお会いできてうれしく思います。もともとは伊藤忠商事でIT関係のお仕事をされていたそうですね。

坂本 はい。伊藤忠商事を選んだのは、僕が7歳までサウジアラビアで生まれ育ったこともあり、世界で活躍できる仕事がしたいと考えていたからです。配属先は希望した自動車や石油関係の部署ではなくITの部署でしたが、エンジニアとして米国シリコンバレーのお客さまのところに1年ほど出向させてもらいました。

佐藤 起業家の集まるシリコンバレーでの仕事はいかがでしたか。

坂本 優秀なインド人や中国人が多くて、自分自身の力不足を痛感しました。一方、いろいろな国の人たちがチャレンジする姿を見て刺激を受けました。その後、マーケティングを学ぶためにサン・マイクロシステムズに出向し、インターネットの面白さと可能性を感じました。帰国後は伊藤忠のITの部署に配属され、出資先のエキサイトの代表や、YJ Americaの代表を務め、米国の新しい技術やスタートアップを日本に紹介する事業に関わりました。

佐藤 名だたる企業の代表を務めていますね。親会社のTBMとのご縁が生まれたのもその頃ですか。

坂本 そうですね。TBM創業者の山崎敦義がシリコンバレーを訪れ、米国のアクセラレーターやVC、FacebookやAppleを一緒に見て回ったんですね。そこで「坂本さん、グローバル事業を一緒にやろう」と誘われ、16年にTBM社外取締役として関わったのが最初です。

佐藤 IT業界から素材業界に入ることに不安はなかったのですか。

坂本 ありませんでした。僕自身、グローバル志向が強かったのもありますし、特にIT業界では米国の技術を日本で使っていることにモヤモヤ感があったんです。日本の技術で勝負したい。TBMの素材であれば世界への扉が開かれるのではないか。そう考えて参画を決めました。

佐藤 チャレンジ精神が湧いてきたわけですね。

坂本 僕は大きな会社をさらに伸ばすよりも、ゼロから1をつくったり、小さな1を10に育てるほうが向いているんです。TBMがバイオワークスを子会社にしたのが18年。しかし、100%植物由来のバイオプラスチック製品の開発・普及にはコストがかかり、TBMの「LIMEX」の原料である炭酸カルシウムと組み合わせるのも難しい。そこでサトウキビなどの植物を原料とするバイオマス素材「ポリ乳酸(PLA)」を使った糸ならつくれるので、山崎と共に島精機の島正博会長、島三博社長に相談に行き、ポリ乳酸繊維の開発までの出資の約束を取り付けました。その後もゴールドウインなどの株主を集めたりしてバイオワークスを支援してきましたが、もっと責任のある立場で経営したいと考え、24年に代表に就任しました。

日本発の高度な技術力をもってグローバル市場へ打って出る

坂本孝治 Bioworks 社長CEO

佐藤 ポリエステルやナイロンといったプラスチックの代替品となる新素材「PlaX」と、それを元にした繊維「PlaX Fiber」はそうしてできたわけですね。

坂本 バイオワークスの独自開発で生まれた素材です。今は世界中のブランドから引き合いが来ています。私たちが日常使っている繊維の7割が石油由来のプラスチックで、これがCO2排出量を増やしたり、マイクロプラスチックが海を汚すなど環境破壊を引き起こしています。私たちにしかつくれない糸を生地メーカーに卸し、そこで縫製して、各国のブランドに提供しています。

佐藤 植物由来ということで機能性に特徴はありますか。

坂本 例えばバスタオルなら1週間使い続けても臭わない抗菌性があります。また軽くて速乾性もあるので、スポーツ時や出張時にも使いやすい。肌にも優しくて、ベビー服や肌着メーカーと提携し、商品開発を進めています。ゴールドウインも30年までに環境負荷低減素材を使用した製品比率を90%に引き上げると宣言していて、「PlaX」が代替候補となっています。量産までの工程をファブレスにしていることも競争優位になっています。

佐藤 今後もファッション産業を主戦場としながら事業を展開し、世界を目指していくのでしょうか。

坂本 そうですね。環境意識の高い欧州のファッションブランドから攻めていきます。今もグローバルブランド数社との商品開発プロジェクトを進めています。将来的には全世界に拠点を置き、各国の人と共に新規事業なども創出していきたい。素材ブランドの立ち上げも考えています。またファッション以外にも、エアフィルター、寝具、漁網など、石油由来の原材料の代替品を望む各業界の企業から相談を頂いています。

佐藤 金の卵から世界に羽ばたくバイオワークス、楽しみですね。

坂本 今はまだ赤字なので、3年後には黒字化して自立し、選択肢の一つとして上場も考えています。日本発の会社として誇りを持ち、日本の技術を使ってグローバルで成功したい。それを日本に還元していくことが、創業者の今井への恩返しにもなると考えています。