吉田博一氏は住友銀行(現・三井住友銀行)副頭取や住銀リース(現・三井住友ファイナンス&リース)社長・会長を経て、69歳を迎えた2006年9月に蓄電池の製造販売を行うエリーパワーを設立した。蓄電池の量産化時代に向けて、体制拡充を図り、株式上場を目指している。
元住金副頭取吉田博一が69歳から起業するまで
―― 金融畑を歩んできた吉田社長が、環境ビジネスに興味を持った理由は。
吉田 住銀リースの社長だった当時、1兆6千億円のリース資産のうちリース期間が満了した商品をどう処分するかが大きな課題になっていました。リース物件を含むすべての産業廃棄物には管理票(マニフェスト)の交付が義務付けられています。しかし、管理票が張られた廃棄物が中国で不法投棄されるなど、適切な処理が行われていないケースがあったのです。
環境問題に強い関心を持つようになった矢先、電気自動車の研究を手掛ける清水浩・慶応義塾大学教授に出会いました。清水教授の研究に大きな意義を感じ、研究をサポートするために慶大の教授に就任、企業から5億円を集めて2台の電気自動車を造りました。
―― 起業までの経緯について聞かせてください。
吉田 電気自動車の普及にはリチウムイオン電池の量産化による価格低下が欠かせません。しかし、電池メーカーや自動車会社とも開発に及び腰。将来的な需要は間違いなく拡大するから、自分の手で普及させようと決意したのがきっかけです。
僕の誕生日である06年の9月28日に、たった4人で会社をスタートさせました。設立時のメンバーには技術者は1人もおらず、地球温暖化を防止したいという思いだけで事業を立ち上げた珍しいケースです。
―― 創業当時に苦労したことはありますか。
吉田 一番辛いと感じたのは、人に頭を下げられなくなっていた自分に気付いた時です。銀行役員になってからは、正直に言って相手が頭を下げてくださる方がほとんどでした。慶大にいた頃と、事業の開始時に協賛金や出資を募るため、企業回りしましたが、当初は思考回路を変えるのに苦労しましたね。会社では部下が雑用をやってくれ、お客さまの多くが自分を褒めてくれるという環境では、自分が偉くなったように錯覚してしまうのかもしれません。
ただ、僕は20~30代の時に営業を担当していて、当時はなかなかの実績を上げていたと自負しています。昔取った杵柄ではないですが、徐々に「預金や貸し出しの営業と同じだな」と思える余裕が生まれました。1日90軒を目標に営業先を訪問していた当時の経験が、今になって生きているのだと感じましたね。
現在では、銀行時代にお付き合いのなかった企業を含む約30社から出資を受けています。リチウムイオン電池の量産化を進めるという、当社事業の正当性を評価していただくことができたと感謝しています。
―― リチウムイオン電池の量産化を図る取り組みの進捗はいかがですか。
吉田 需要の伸長にあらかじめ対応できるよう、生産体制の拡充を進めています。装置産業では、需要が生まれてから基盤を強化しても競争に勝つことはできませんから。
当社は11年に、国際的第三者認証機関テュフラインランドの安全基準認証を取得しました。大型リチウムイオン電池では世界で初めてです。また、当社工場は環境マネジメントに関する国際規格「ISO14001」を取得しています。
昨年6月には、神奈川県川崎市に「川崎第二工場」を竣工しました。この工場は全自動で製造を行っており、最小限の人員で操業しています。人数を抑えることで、人材の流動化で生じる技術流出を防げるというメリットがあるのが特徴です。
69歳から起業した吉田博一が目指すバラ色の人生
―― 今後の経営課題について。
吉田 会社を永続させるためにも、できるだけ早く株式上場を果たしたいと考えています。そのためには、業績を上げることで、足元を固めていく計画です。短期的にみると、当社製品を搭載した、エリーパワーの株主である大和ハウスさんが扱う住宅は好調に推移しています。市場全体における需要の伸び次第では、上場時期が早まるのではないでしょうか。
また、海外では新興国メーカーの参入が相次ぎ、蓄電池市場における一層の競争激化が予想されます。われわれの力だけで世界において大きな地位を占めることは不可能です。いろいろな企業と手を組むことで、製品の普及に努めていきます。
―― 起業を目指す方へのメッセージを。
吉田 シニアになれば健康管理が何より欠かせません。僕は30年ほど前から「真向法」という健康体操の一種を始めました。体が柔らかくなると、頭も柔軟になり、気力が生まれます。「真向法」を行っている限り、元気に活動できるのかなと思います。
また、若さというものは、心の様相に反映されるものです。サミエル・ウルマンの「青春」という詩のとおり、希望があれば、人は何歳でも若くいられます。僕はこれまでの人生を、今日のために存在していたのだと考えています。蓄電池産業の発展に向けて今後も尽力していく考えです。「老い先がもう長くないから」などと決め付けずに、やりたいことをやってバラ色の人生を目指してください。
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