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パナソニック3度目の正直ならず 売上高10兆円目標を撤回

パナソニックは創業100周年の2018年度に売上高10兆円の目標を掲げていたが、これを取り下げた。同社にとって過去2度跳ね返された因縁の目標だったが、経営環境悪化により今回も断念することになった。津賀一宏社長は利益成長重視を打ち出し、方針の転換を図っている。文=本誌/村田晋一郎

いわくつきの目標がまたも遠のく

 パナソニックが3月末に開催した事業方針発表会で、2018年度の売上高10兆円の目標を撤回し、8・8兆円に下方修正した。

 パナソニックにとって売上高10兆円はいわくつきの目標だ。大坪文雄前社長が在任中、09年度までと12年度までの2度の中期経営計画において目標に掲げたが、いずれも未達に終わった。津賀一宏社長自身も「因縁の10兆円」と語っていた。

 津賀社長の就任時には巨額赤字を解消する構造改革が急務だったため、15年度までの中期経営計画では利益重視の方針を打ち出し、売り上げ目標は明示しなかった。しかし中計の1年目が経過し、13年度には早くも黒字化を達成した後、14年3月に改革の手応えから、18年度売上高10兆円の目標を掲げた。18年はパナソニックにとって創業100周年にあたる。その大きな節目の年に「3度目の正直」として、「因縁の10兆円を達成したい」と津賀社長は強い意気込みを語っていた。だが、今回の下方修正で、またしても10兆円は遠のくことになった。

 目標を再設定した14年度の業績は順調で、中計の目標のうち、「営業利益3500億円以上」と「累計フリーキャッシュフロー6千億円以上」については1年前倒しで達成。残る「営業利益率5%以上」も14年度に4.5
%まで達成していた。そして15年度は10兆円の目標実現に向けて、売り上げ成長による利益創出へ舵を切り、持続的な成長のステージに移行するとしていた。また飛び道具としてのM&Aを視野に1兆円の戦略投資を明らかにしていた。

 しかし15年度下期に入って、中国をはじめとする新興国の景気減速やICT需要の低迷で、経営環境が悪化。当初はエアコンや2次電池など大規模6事業部で増収を牽引するはずが、ほとんどの事業部で当初の目標を下回った。また、津賀社長が就任以来、注力してきた車載やB2Bは業績に寄与するまでに時間を要するものが多い。

 このため、「増収による増益の構図がつくれていない」(津賀社長)という状況となっている。こうしたことから、15年度通期の売上高の見通しを期初の目標に対して4500億円、営業利益も200億円下方修正した。そして、「発射台が下がった」(同)ことで、3年後の10兆円も難しいと判断したようだ。

現実的な選択も、成長イメージは不明確

 3年後の大目標を現段階であっさり取り下げたことは、現実的な選択とはいえ、簡単なことではなかっただろう。売上高10兆円は自ら「因縁」と語っていた数字であり、パナソニックの歴代社長の誰もが達成していなかったのだから、津賀社長にとっても意義のある目標だったはずだ。それだけに現実的な判断を下した津賀社長の堅実さがうかがえる。

 その一方で気になるのは、まず16年度の見通しも手堅いこと。今回の説明会で示した見通しは、16年度の売上高が前年予想比0.6%減の7兆5千億円、営業利益は同8.5
%減の3750億円で減収・減益となる。16年度を成長への足場固めの時期と位置付け、それに向けた先行投資が利益を圧迫する形になるため減益になるという。「いったん減益になったとしても、将来の売り上げ・利益につながる先行投資を実施する。いわば意思を込めた減益だ」と津賀社長は前向きな姿勢を崩さない。

 また、売上高は3年連続の減収となる。今回、売り上げのみを追うことは適切でないとして、利益成長重視の方針をあらためて打ち出し、18年度に営業利益5千億円、当期純利益2500億円以上の目標を掲げた。利益重視の方針を打ち出すことは悪いことではないが、利益重視はそもそも津賀社長が就任時に打ち出したもの。そのための構造改革に一定のめどはついていることは自らも語っている。就任時と意味合いが多少変わっているにせよ、ここで利益成長の目標を再度掲げることは、減収への批判の矛先をそらしていることにならないだろうか。

 また、中期的な方針として、ポートフォリオの組み替えを行った。これまでは、家電、住宅、車載、B2B、デバイスの「5つの事業領域」で事業戦略を推進してきた。今回、5つの事業領域のうち、デバイスを各事業領域に内包させるかたちで4つの事業領域に組み替える。この組み替えは、事業ごとに目指すべき方向性が明確になってきたためとしている。しかし、こうしたポートフォリオの組み替えはそれに伴い数字も変わってくるため、事業の成長の流れが分かりにくくなる。今回ポートフォリオの組み替えにより、「確実に利益成長できる構造をつくる」としているが、逆にポートフォリオを組み替えなければ利益成長ができない理由は不明瞭だ。これも矛先を変えているように映る。

 状況の変化に応じて打つ手を変えていく津賀社長の姿勢は評価すべきだろうが、一方で、目標のすげ替えやポートフォリオの安易な組み替えといった、凋落企業が陥りやすい悪手を打っていることが気になる。売上高10兆円の目標を取り下げることは現実的な選択だが、それに代わる成長のイメージが打ち出せていないように感じる。

 
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