政府は6月14日、農林水産省の本川一善事務次官の後任に、奥原正明経営局長を充てる人事を発表した。奥原氏は昨年の農協改革を主導した省内きっての改革派だ。この人事には守旧派の自民党農林族幹部から「待った」がかかったが、官邸側にねじ伏せられた。農政改革に向けた官邸の本気度が表面化した今回の人事に、農協など農業団体だけでなく、省内職員までも戦々恐々のようだ。
奥原氏は前任の本川氏と同期(1979年)入省。中央官庁の事務次官に同期入省2人が就任するケースは珍しく、水産庁か林野庁の長官経験者を次官に充てていたこれまでの農水省慣例をも打ち破る異例の人事だ。それだけに、省内外では専ら「官邸の農業改革にかける強い意志が反映された人事」(農水省幹部)と受け止められている。一方で、一部の守旧派の族議員からは「政府の改革色が強すぎる人事」との懸念は強いようだ。
とはいえ、奥原氏の実務面への評価は高い。2011年8月から経営局長を務めると、農地中間管理機構(農地バンク)の創設や、約60年ぶりの農協制度の抜本改革の実務を主導。官邸側の求める改革実現のため、政治家にも媚びずに反対派を黙らせ、JAグループには厳しい対応を貫き農協改革を実行した。
ただ、「実務能力は抜群だが、人望は薄い」「優秀すぎて自分一人で案件を解決してしまう」「融通が利かず、組織を束ねるには相応しくない」など、奥原氏への批判は少なくない。各部署や職員の細かい動向まで目を配り、担当局以外の政策にも口を出すなど省内外で敵も多かった。そのため、事務次官の登竜門とされる役職からも遠ざかり、次官レースからは早々に脱落したと思われていた。
そんな奥原氏の次官就任は、これまで奥原氏に反発してきた多くの農水省職員を憂鬱にさせていることは容易に想像できる。「奥原体制で大規模な人事の配置換えが行われ、守旧派が一掃されるのではないか」(農水省OB)との憶測も広がっている。農協関係者もかなり辟易しているようで、「徹底的に農協を潰す総仕上げに入るのではないか」(JA職員)と狼狽の色を隠せないでいる。
穏健派を黙らせ、着実に仕事をこなす姿に一部の職員から「農水省のゲシュタポ(ナチス秘密警察)」と恐れられた奥原氏。どんな農政を築き上げていくのか注目したい。
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