経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

欧米名門大学への登竜門 ボーディングスクールが注目される理由

SAPIX YOZEMI GROUP共同代表の髙宮敏郎氏

英語力の低さなど日本人のグローバル対応力が問題となっているが、子どもを海外で学ばせたい、グローバルな教育を受けさせたいという声は根強い。少子化の影響で一人当たりの教育費は増えており、欧米の名門大学進学への登竜門となるボーディングスクールへの留学に注目が集まっている。文=古賀寛明

留学は「短く」もしくは「若く」がトレンド

今年、明治維新から150年がたつが、維新後の日本が急激に西洋列国に追いついて行ったのには、「少年よ 大志を抱け」のクラーク博士など、優秀な外国人教師が日本に招かれたのも要因の一つだが、当時の優秀な若者が数多く欧米に学びに出掛けたことも挙げられる。初代内閣総理大臣の伊藤博文をはじめ、大阪商会議所初代会頭である五代友厚ら多くの若者が海を渡って学び、そして帰国後、日本の国力を高めた。

それから150年後の今、グローバル化が当たり前の世の中となり、訪日外国人観光客も増加の一途をたどっているが、その現実に逆らうかのように、日本人の国内志向は強まっている。

英語力に関していえば、2016年のTOEFLスコアでは、世界175カ国中145位。OECD加盟の35カ国の中では最下位だ。

また、日本人の海外留学者数も減っており、OECDや文部科学省の資料を見てみると、正規過程に属する学生は、02年では日本とインド、韓国の海外留学生の数は変わらないが、10年たつとインドでは2.5倍の22.3万人に増え、韓国でも1.6倍の13.9万人に増えている。

ところが、日本では3割減の5.5万人。1カ月未満の学生交流レベルの留学は増えているものの、短い期間では英語力にせよ何にせよ劇的に何かが身に付くことはない。

一方で、グローバル化の進展やダイバーシティへの対応の中で、子どもを将来的に世界で活躍させたい、そういった環境を準備してあげたいと考える親も多い。最近では、留学スタートの低年齢化が進むなど、日本人留学の志向は両極端になってきたと言える。

その関心の高まりの中で、注目を浴びているのが、全寮制の私立学校であるボーディングスクール。高校生、早い場合には、中学校の1年生から寮に受け入れてくれるところもあり、選択肢の一つとして考えられている。

ボーディングスクールとは、フェイスブックの創業者であるマーク・ザッカーバーグをはじめ、ジョン・F・ケネディ、ブッシュ大統領親子など、政官財の多くのエリートが卒業生に名を連ねる、いわゆるエリート養成校。その強みは、教育レベルの高さはもちろんだが、その後の名門大学への進学、世の中に出てからのビジネスなどに有利な、強力な人脈ができるところにある。

世界各国から来る優秀な若者の中には、多国籍企業の御曹司から王族まで幅広く、日本以上にコネクションが不可欠な海外のビジネスでは、同窓生という絆、信用は大きな力を持つ。

ただ、こうしたボーディングスクールへの興味はあったとしても、これまで、どうすれば進学できるのか、費用はいくら掛かるのか、といったところがよく分からなかった。

こうした声に対して、代々木ゼミナールで知られる、「SAPIX YOZEMI GROUP(以下、サピックス代ゼミ)」が、ニューヨークのマンハッタンにボーディングスクールなど海外への進学をサポートする新会社「Triple Alpha」(以下、TA)を設立した。

サピックス代ゼミグループの髙宮敏郎共同代表は、「関心の高さは、驚くほどで、500~600人ほどの説明会を開催してもすぐ満員になる」という。

さらに、「最も関心が高いのが、小学校4、5、6年生の子どもを持つ親御さんで、ボーディングスクールを初めて知る方も多く、われわれとしても新たな選択肢を提供できる機会になっている」と語る。

世界の舞台で文武両道は当たり前

SAPIX YOZEMI GROUP共同代表の髙宮敏郎氏

SAPIX YOZEMI GROUP共同代表の髙宮敏郎氏

髙宮氏によれば、日本国内でも国際化、ダイバーシティに対する関心は高く、例えば、数学を学ぶためにインド系のインターナショナルに通う日本人の子どもも少なくないなど、日本国内にあるインターナショナルスクール自体、増加傾向だという。

ただ、「日本語もきちんと学ばせたい」、「数学は日本の方式で」といった個別の要望も増えており、学校教育とサピックスを組み合わせるなどする「教育のコンシェルジュ的な存在であることも求められている」(髙宮氏)。そうした中、ボーディングスクールに関心が高まった背景も、米国トップの名門大学がこれまで以上に入学が困難な存在になったことが挙げられる。

競争率は既に20倍以上となっており、勉強ができるだけでは難しい。TAが携わり、筑波大学付属高校からハーバード大学に進学した佐野月咲(るなさ)さんのケースでも、勉強はもちろんだが、彼女がアイスホッケーのU18日本代表のメンバーに入るほどの実力者であったことがものをいった。もはや、文武両道は当たり前となりつつあり、スポーツ以外でもボランティアなどの課外活動を重視している。

佐野さんも当初は、高校卒業後にボーディングスクールに通いながら、大学を目指すつもりだったが、実力もあり、うまく進学できた。ただ佐野さんのようなケースはまれであり、そこで、早い時期から大学から求められる学力とそれ以外の能力を伸ばす環境が整っているボーディングスクールに注目が集まっているのだ。

例えばスポーツでも、年間3シーズン制で複数の競技を行い、ほかにもアート、ボランティアなど、マルチタスクであることが求められる。その裏には学校の成り立ちが、リーダー養成の学校である背景があるからで、文武両道は当たり前。勉強ができなければスポーツもやらせてもらえない厳しい環境なのだ。

もちろん費用は年間で500万円から600万円掛かる。しかし、ニューハンプシャー州にあるフィリップ・エクセター・アカデミーなどは、日本一広い九州大学の伊都キャンパスとほぼ同じ広さの中で生徒数は1千人しかおらず、生徒一人に1千万円を掛けているという。

授業料で足りない部分も、1300億円の運用資産を年4%で運用することでまかなっており、髙宮氏も「決して高くはない」と、同校の理事に説明されたそうだ。「とはいえ、やはり高額です。そういう方のためには、奨学金も用意されており、優秀であれば、経済環境や家族構成を考慮された返済不要のファイナンシャルエイドもある」と、決して富裕層だけのものではないと、髙宮氏はいう。

マイノリティの日本人留学するには今がチャンス

日本でも今後、増えていくと見られているボーディングスクールへの留学だが、日本人にとっては追い風も吹いている。

「米国には、高校の段階で留学し、そのまま大学に進学する留学生が8万2千人くらいいます。そのうちの約45%が中国人です。トップスクールでも15%が中国人で、中堅でも30%ほど。だから中国人はよほど優秀でなければ入学できず、一方で、日本人は学校に1人、もしくは2人です。30年前には、10人くらいは日本人がいましたから、学校側にとって、ダイバーシティの面でも日本人に来てもらいたいのです」(髙宮氏)

とはいえ、大事なことは本当に子どもが進学したいかどうかだが、当然ながら、現状は親のほうが前のめりになるケースが多いそうだ。

TAの社長を務め、これまでもスポーツ選手の海外留学を手掛けてきた三原卓也氏によれば、「だからこそ、学校見学は、必ず家族でお越しいただきます。家族で見学すれば、一緒にいる時間も自然とできますから、留学に対する覚悟を親子で話し合う時間にもなります。親が行かせたいだけではうまくいきません。いずれ米国で働きたい、やりたいことがあるといった明確な目的がないと、ホームシックで挫折してしまいます」

学校側もそこは考えており、見学のツアーガイドは在校中の生徒が行う。質問をちゃんとしているか、本人が本当に来たいと思っているか、ツアーを行う生徒は参加者をきちんと観察して、子どもの様子を学校に報告しているのだそうだ。そういったところから、審査は始まっている。だから、親のほうだけが乗り気で質問を連発しても審査を通ることはない。

グローバルで活躍するために、必ず欧米のボーディングスクールや名門大学を出なければならないわけではない。でも、グローバルな舞台で活躍するにはいろんな国の人に会い、さまざまなことにチャレンジする環境に身を置く幸運は何事にも代えがたいだろう。

教育は盗まれない資産というが、年間500万~600万円の教育費をどう考えるか。子どもを持つ親には悩ましい問題だ。

【ボーディングスクール】関連記事一覧はこちら

経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界ウェブトップへ戻る