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セクハラ・パワハラのグレーゾーン問題に企業はどう対応すべきか

藤山晴久

職場におけるセクハラ・パワハラ問題は、今や誰にとっても他人事ではない。一昔前なら許された言動が問題となるケースも多く、最悪、訴訟沙汰にでもなれば、ハラスメントの当事者だけでなく会社も大きな損害を被ることになる。本稿では、上場企業を中心にコンプライアンス研修を手掛けるインプレッション・ラーニングの藤山晴久社長の話をもとに、ハラスメント問題の火種となるグレーゾーン案件への会社組織としての向き合い方を探った。(取材・文=吉田浩)

取材協力者プロフィール

藤山晴久・インプレッションラーニング社長

藤山晴久(ふじやま・はるひさ)立教大学経済学部卒業後、アンダーセンビジネススクール、KPMGあずさビジネススクールにてビジネススクール運営業務、企業内研修の法人企画営業として勤務。2009年インプレッション・ラーニングを設立。コンプライアンス教育を中心に、会計からマネジメントまで幅広いテーマの企業内研修を手掛ける。

セクハラ・パワハラのグレーゾーン問題はなぜ起きるのか

トラブルの大半はセクハラ・パワハラの定義の理解不足から

 「セクハラ、パワハラに関する研修が増えたのはここ5~6年のことです」

 インプレッション・ラーニング社長の藤山晴久氏はこう語る。その言葉通り、セクハラ・パワハラ問題を取り上げるテレビ番組や解説本などが巷には溢れている。だが、その多くは「これをやったら(言ったら)NG」といった小手先のハウツーを紹介する類のものだ。

 「まずはセクハラ、パワハラの正しい定義を理解すること。トラブルのほとんどは、理解不足から生じています」と藤山氏は言う。

 まずセクハラに関しては、2007年の男女雇用機会均等法の改正において改定されたセクハラ条項(第11条第1項)に該当する行為を指す。そのタイプから対価型セクハラと環境型セクハラに分類される。

 パワハラに関しては、2020年6月に施行される改正労働施策総合推進法の指針(パワハラ防止指針)に「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう」と定義され、6種類の類型が提示されている。

 セクハラ・パワハラと感じる事案にぶつかったときは、まずこれらが定める要件に客観的に当てはまるかどうかを考える必要がある。

セクハラ・パワハラの「グレーゾーン」に正解はない

 藤山氏によれば、職場で起きるセクハラ、パワハラトラブルの9割以上が、これらの定義に客観的に当てはまらない「グレーゾーン」であるという。グレーゾーンであるにもかかわらず、当事者たちが過剰反応して事態をややこしくしている。

 ハラスメントにおけるグレーゾーンとは、たとえば「芸能事務所が所属タレントを売り出すために作った水着姿のポスターを職場に貼り出したら、中途入社した女性社員からセクハラと指摘された」「業務上、危険を伴う行為を行った部下をとっさに大声で注意したらパワハラと言われた」といった類のものだ。

 これらはセクハラ・パワハラの定義に必ずしも当てはまらず、当事者同士の「価値観の対立」に起因する。価値観の対立であるがゆえに明快な答えはない。

「相手がセクハラと感じたらセクハラ」は本当か

 だが、実際は「セクハラ・パワハラっぽい言動」に対して管理職側は過剰に怯えて部下の指導に腰が引けてしまう一方、指導を受ける側は仕事上の不平・不満をハラスメントとして糾弾するというケースが頻発している。

「大声や繰り返しの叱責はパワハラになると言われますが、『声の大きさは何ヘルツから?』『叱責は何回以上から?』と尋ねられることもあります。でも、正解はNGワード集やべからず集を見ても載っていません」と藤山氏は説明する。

 よく言われる「相手がセクハラと感じたらセクハラ」も間違いだ。まずはセクハラ・パワハラの定義をしっかり理解し、本当にブラックなのかグレーゾーンなのかを見極めることが肝要だ。

会社組織としてのセクハラ・パワハラの「グレーゾーン」対応策

トップメッセージの重要性     

 「NG集」や「べからず集」を学んでもグレーゾーン案件の根本的な解決ができない。となれば、企業や組織としての対応はどうすれば良いのか。

 まず重要なことは、ハラスメント問題に対して会社がしっかりと取り組むという姿勢を、トップ自らが強く打ち出すことだ。藤山氏によると、これができている企業はまだ全体の1割程度だという。

 特に、内部昇格したサラリーマン社長の場合は、自分の任期が終わるまで波風を立てたくないという心理が働いて、ハラスメントに対して強い姿勢を打ち出せないケースもある。

 一方、オーナー系企業ではメッセージが通りやすいが、トップ自身が自分流のやり方で会社を大きくしたという自負が強く、ハラスメントに関する考え方も下に押し付けがちだ。それが間違った企業風土として染みつくと、仮に中間管理職がハラスメントを行った場合には役員がかばい、それを見た若手社員のモチベーションが下がるといった状況が生まれやすい。

 よくある話が、仕事で成績を残している人物がハラスメントを行った場合、業績への影響を配慮して対応が遅れるというケース。しかし、「たとえハイパフォーマーでもハラスメントは許さない」という姿勢をトップメッセージとして常に発信しておくことが、会社のリスクを減らす第一歩になる。

「内部通報」より気軽な相談窓口で事例を吸い上げる

 次に行うべきは、相談支援窓口などを設けて、面倒でもグレーゾーンの事例をひとつひとつ吸い上げ、社員全員で共有できる仕組みづくりである。

 気を付けなければならないのは、既に多くの企業で導入されている内部通報制度のようなものではなく、もっと気軽に社員が立ち寄れる窓口にすること。現状、企業の内部通報機関に持ち込まれる案件は修復不可能な状況にまで進んでいて、相談する側も腹をくくっているようなケースがほとんど。現状の内部通報窓口ではグレーゾーンの事例を拾い上げることは極めて難しい。

 前述した水着ポスターや大声での叱責に関しても、業種や業態によってハラスメントになるかどうかが変わる。そのため、「これはウチの会社ではハラスメントと認定する or しない」を1つ1つ決めてコンセンサスを取っていくことが必要になる。

 「こうした窓口があり、大企業で上手く機能している会社では年間200件ほどの相談がありますが、完全にブラックというケースはほとんどありません。大体は上司と部下のいざこざや仕事上の不平不満で、しっかり話せば解決するようなものばかりです」と、藤山氏は言う。

 グレーゾーン案件は放っておくとブラック案件化することもあり、会社としては爆弾を抱えているようなものだ。内部通報するほどではなく、モヤモヤとしているサイレントマジョリティの声をいかに拾って早期に潰していくかが、経営者や人事担当者の腕の見せ所である。

相談支援窓口のメンバー構成はどうするべきか

 社員が気軽に相談できる窓口にするためにはメンバー構成にも気を配らなければならない。

 よくある失敗例の一つが、総務人事の管理職だけを担当に置いてしまうことだと藤山氏は指摘する。これだと後の出世や処遇に響くのを警戒して、社員はなかなか相談しづらい。相談者の「心理的安全性」を担保するために、トップ層がハラスメント撲滅に真剣であることを示したうえで、外部窓口も併用し、社内で相談できる担当者を一人でも多く作っておくのが理想的だ。
「たとえば、相談者が20代の女性であれば同じ20代の女性、40代男性ならば、40代男性のほうがが相談に乗りやすいでしょう。役職者に固定せず、多様な人材を入れることで、相談相手を選べる環境を整える工夫が社内の場合は特に必要です。相談者は、自分が相談したいと思う相手にしか心を開かないからです。

 また、社内のイントラネットにハラスメント相談窓口を設け、『上司に××と言われて、ちょっとへこんでいる』とか『飲みに付き合えと言われて断れなくて困っている』といった具体例を載せて、ちょっとした悩みでも相談してもいいのだ、という相談窓口の敷居を低くするようにしておくと良いと思います」(藤山氏)

 また、企業によっては役職に就く前に必ず一度はコンプライアンスリーダーになり、相談担当者になることを義務付けているケースもある。社員からの様々な相談に乗ったり、職場内研修を自身で行ったりすることによって、リーダー自身と周囲のハラスメント問題に対する意識向上が図れるからだ。こうした取り組みを続けることで、社内風土を変えることに成功しているという。

グレーゾーンのブラック化を防ぐ重要性

 

 グレーゾーン案件に関しては、経営トップが強いメッセージを出し、相談窓口を設けて事例を数多く拾い上げてそれぞれの場合における会社としての対応を決めておく。そして可能な限り話し合いの場を設けて解決する、というのが基本的な方向性だが、会社によってはなかなか組織づくりまで手が回らない事も多い。

 それでも、「他部署の上司や同世代の社員など、普段の業務で直接関りがなくても、何かあったときに相談できる相手を持つことが非常に大切」と藤山氏は強調する。

 社内にそうした相手がいない中小企業の従業員などは、公的な無料相談機関や、最近では少額の掛け金で何かあったときに無料で弁護士に相談できるハラスメント保険のような商品もあるので、そうしたものを活用するのも手だろう。

 セクハラ・パワハラ問題は、当事者がメンタルを病んだり訴訟沙汰になったりしてからでは手遅れだ。ただでさえ人材不足の中、ハラスメントを大目に見るという風土のままでは、採用はさらに厳しくなり離職率増加の懸念も増す。逆に「ハラスメントを会社全体で防ぐ職場」としての認知が広がれば、社員のモチベーション向上につながるだろう。

 グレーゾーン案件がブラック化する前の予防手段にこそ、企業はもっと注意を払わなければならない。