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時価総額トヨタ超え!EVメーカー・テスラが世界を支配する

イーロン・マスク率いる電気自動車(EV)メーカー、テスラの企業価値が膨らみ続けている。年間販売台数は37万台にすぎないが、1千万台以上を売るトヨタ自動車を上回った。豊田章男・トヨタ社長の言う「自動車業界100年に一度の大変革期」が現実のものとなろうとしている。文=ジャーナリスト/立町次男(『経済界』2020年9月号より転載)

EVメーカーのテスラが快進撃に転じるまで

設立17年で時価総額でトヨタを上回る

 テスラの株価上昇が続き、7月1日には時価総額でトヨタ自動車を抜き去り、自動車メーカーで世界首位になった。「EV時代」の到来を象徴する企業価値の逆転といえる。

 エンジン車とハイブリッド車(HV)で販売台数世界首位を争うトヨタよりも、新興だがEVで独自のブランドを打ち立てたテスラの将来性を株式市場が評価した格好だ。二酸化炭素(CO2)を排出しないEVを取り扱っていることで、ESG(環境・社会・企業統治)投資を重視する投資家の支持を集めた。テスラが市場の期待に応え、成長軌道を“快走”できるかが注目される。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、不安定な値動きが目立つニューヨーク株式市場。しかし、テスラは1日の取引時間中に1135ドル33セントをつけ、過去最高値を更新した。時価総額は一時、2105億ドル(約22兆5千億円)となった。同日の東京株式市場での終値で換算すると、トヨタの時価総額は21兆7185億円。1月にフォルクスワーゲンを抜いたのに続いて、7月にはトヨタも上回った。

 テスラ・モーターズ(現テスラ)は、2003年にシリコンバレーで設立された。トーマス・エジソンのもとで働き、後に独立して高い電圧を出す変圧器を開発した発明家、二コラ・テスラにちなんで名づけられたという。それを知ってか、後にトランプ大統領はテスラのイーロン・マスクCEOについて「エジソンのような天才」と賞賛することになる。

マスク氏の経営参画とEV生産の開始

 マスク氏が経営に参画し、巨額の資金を調達したテスラはEVの生産に乗り出す。

 08年にはロータスの車体を使った「ロードスター」を投入した。高級タイプの「モデルS」、スポーツタイプ多目的車(SUV)の「モデルX」、比較的小型で価格が低い「モデル3」などを次々と生産した。モデル3は日本円で400万円以下と、これまでのターゲットだった富裕層だけでなく、中間層にも市場を広げた。同社初の量産車種として、カリフォルニア州の工場でつくり始めた。

 日本でテスラを保有するファンは、「スマートフォンと同じようにインターネット経由でソフトが更新される。新鮮な感覚で自動車を楽しめる」と話す。これはOTA(オーバー・ジ・エア)と呼ばれ、昨年には発売済みのモデル3に、無人運転で車を呼び寄せる機能「スマート・サモン」を追加。このように、OTAを使えば斬新な機能を車に後付けできるため、新しい顧客体験を提供できるというわけだ。EVであるだけでなく、自動運転に近い先進的な運転支援システムやOTAなど、“未来の車”を体現し、ブランド価値を打ち立てた。

 この中で、テスラは10年にトヨタと提携している。EV分野で共同開発を行う業務提携契約を締結。トヨタがかつて、米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)と合弁で立ち上げたニュー・ユナイテッド・モーター・マニュファクチャリング(NUMMI)のカリフォルニア州の工場を利用した。トヨタは一時、テスラ株を取得したが、協業は進展せずに終わった。トヨタは14年以降、テスラ株を売却したとされる。

米国、中国に続き欧州でも生産予定

 常に順調にきたわけではない。18年にはモデル3の量産立ち上げが難航して、経営不安までささやかれた。

 当時、テスラ株はヘッジファンドなどの短期筋から空売りの標的にされた。悪いことは重なるもので、先進的な運転支援システムの作動中にモデルXの死亡事故が発生。死亡した男性はシステムを過信していたとされ、テスラへの批判も起きた。

 また、マスクCEOが、様式の非公開化に関する誤ったツイートで投資家を惑わせたとして、米証券取引委員会(SEC)に提訴された。罰金2千万ドル(約22億円)を支払ってSECとの和解に応じたマスク氏は、CEOにとどまる一方、会長職を退くことになった。

 しかし、テスラは復活する。18年2月の決算発表で、マスクCEOが「『モデル3』の生産の遅れは解決できる。あとは時間の問題だ」と強気の姿勢を示したように、試行錯誤の末、量産体制の構築を実現する。ネバダ州の電池工場「ギガファクトリー」のモジュール生産などで歩留まりが良くなかったとみられるが、徐々に改善した。

 車に「ステータス」を強く感じる中国の消費者にも、テスラは大人気だ。当初は米国で生産して輸出していたが、20年1月からは、上海の新工場で生産した車両を中国で販売している。

 記念イベントでマスクCEOは、「想定を上回る成果だ」と強調。疑問視する声もあったが、公約どおりに19年末からの車両生産にこぎつけたのだ。

テスラ
テスラは世界のEV市場を席巻している

赤字経営からの脱却

 それまで、テスラのEV向け電池は、日本のパナソニックが提供してきたが、中国市場向け車両でテスラは、世界最大手になった中国の寧徳時代新能源科技(CATL)などと提携した。EV産業の振興で新しい時代の「自動車強国」を目指す中国政府は、上海工場の建設を支援したほか、販売面も補助金でサポートした。比亜迪(BYD)など中国の新興メーカーが苦戦していることも、高いブランド力を誇るテスラに有利に働いた。

 量産体制を構築し、米国と中国という自動車の2大市場を攻略する体制を整えたテスラは、赤字経営続きというイメージを脱却した。

 19年7~9月期以降は3四半期連続で最終黒字を確保し、利益を確保しながら高成長を続けるという期待が高まった。20年の販売目標は、前年実績比36%増の50万台と設定した。新型SUV「モデルY」の生産も開始し、欧州でもドイツのベルリン郊外で、21年に新工場を稼働させる計画で、株式市場からの評価も右肩上がりで高まった。19年には世界の高級車市場でポルシェやジャガー、ホンダの「アキュラ」、日産自動車の「インフィニティ」の販売台数を上回った。

 マスクCEO個人としては5月、7億ドル(約750億円)を超える成果連動型の報酬を受け取ると報道された。時価総額が1千億ドル(約10兆7千億円)超えなどが要件だったという。マスクCEOは、開発中の有人型宇宙船がISSとのドッキングに成功した、宇宙開発ベンチャーのスペースXなど、他の有力企業も率いており、同氏をテスラの経営に注力させることが高額報酬の目的だったという。

 時価総額世界首位と言っても、テスラの販売台数は約37万台にすぎない。トヨタは約1074万台と、その30倍を世界で販売している。それでも時価総額でテスラがトヨタを上回ったのは、EVへの期待が大きいからだ。

 世界最大の自動車市場を抱える中国がEVにシフトしただけでなく、環境規制は今後も世界で厳格化されていく見通し。そんな中、ESG投資の広がりにより、二酸化炭素を排出しないEVへの注目度が上がっている。

気になるテスラの今後は?

ガソリンエンジンを持たない企業の強み

 「CASE」と言われる自動車の新潮流は、コネクテッド(インターネットでつながる車)、オートノマス(自動運転)、サービス(シェアリングなど新しい車の利用)、そしてEV(電気自動車)だ。新型コロナでサービスやシェアリングについてはこれまで予想されていたような市場の広がりは期待できなくなった。米ウーバー・テクノロジーズなどの成長性は、感染症の拡大で懐疑的な見方が急激に広がった。しかし、C、A、Eの勢いは健在だ。

 トヨタなど既存の自動車メーカーの株価がさえないのは、EVシフトが進んだ場合、エンジン車の工場などの固定費が一気に“負の遺産”になりかねないからだ。アップルやグーグルなどのITの巨人が自動運転に巨額の研究開発費を投じており、将来の自動車ビジネスの勝者は見えない状況。自動車メーカーはそういう荒波に飲まれ、現在よりも存在感が後退するとみられているようだ。

 トヨタの豊田章男社長は、「100年に一度の大変革期にある」という危機感を全社的に共有させようと、25年に電動車の世界販売を550万台に設定したが、大半はHVで、EVはこのうち100万台程度としている。HVで培ったモーターやインバーターの技術をEVに生かせると強調しているが、EVの品ぞろえは貧弱だ。

 EVに本腰を入れれば、ピラミッド型に構成してきた部品会社の“系列”が変化を迫られることも、トヨタなど大手自動車メーカーのフットワークを鈍らせているとの見方もある。EV専業のテスラと異なり、自動車メーカーは既存のエンジン車の延長線上でEVをつくるため、まだ、「このEVがほしい」と消費者に思わせるような魅力に欠けていることは否定できないだろう。

テスラ・バブルが弾ける可能性も

 テスラは、米ニューヨーク州バッファロー市の「ギガファクトリー2」で太陽電池を生産。再生可能エネルギーの普及に欠かせない家庭向け蓄電池にも進出した。日本でも低価格での販売に乗り出しており、EVだけでなく、総合的な環境関連企業への脱皮を進めているようにもみえる。

 もっとも、テスラが今後、順風満帆でいくかは未知数だ。市場予想の平均から割り出した予想PER(株価収益率)は約290倍と、相当割高な水準だ。

 既存の自動車メーカーにもいえることだが、新型コロナの影響で米中貿易摩擦の激化が懸念されている。株式市場の動向次第では、テスラ・バブルが弾ける可能性もある。一方のトヨタも、自動運転などの研究開発に取り組んでおり、「CASE」をめぐる次世代の競争の決着が着いたわけではない。