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TVer社長に聞く「テレビ復権と視聴者回帰への道」

見逃したテレビ各局の番組を無料で視聴できるポータルサイトTVer(ティーバー)。人々の趣向が多様化し、インターネット動画などに視聴者が移行する中、テレビコンテンツはその魅力を再び訴求することができるのだろうか。取材・文=吉田浩 Photo =山田朋和(『経済界』2020年11月号月号より加筆・転載)

龍宝正峰・TVer社長プロフィール

龍宝正峰・TVer社長

(りゅうほう・まさみね)1964年生まれ。東京都出身。87年慶應義塾大学経済学部卒業後TBS入社。メディア戦略室長、取締役営業局長などを務める。2016年プレゼントキャスト取締役に就任。20年7月TVer社長に就任。

TVer誕生の経緯

民放各社が協力し共通プラットフォームを創設

 家庭における娯楽の主役だったテレビが、近年はその地位を失いつつある。若者世代を中心にテレビの前で時間を消費する人々が減り続ける一方で、映像コンテンツの世界では急速に台頭してきたインターネット動画配信サービスの存在感が増している。

 「もう一度視聴者に戻ってきてもらいたい」― 民放関係者のそんな願いから生まれたのがTVerである。

 2006年4月に、在京キー局5社と広告代理店4社の出資により株式会社プレゼントキャストが設立。15年10月には、各局の放送番組を見逃し視聴できる共通プラットフォームとしてサービスをスタートした。

 現在はPC、スマートフォン、タブレットおよび一部のテレビ機種で視聴が可能。今年7月には社名を株式会社TVerに変更し、経営体制を刷新した。各局から70億円規模の増資も実行し、事業の拡大を目指している。

 本来はライバルであるはずの民放各局が共通プラットフォームを運営するようになった背景について、龍宝正峰社長はこう語る。

 「サービス開始当時は全録機(複数のチャンネルを同時に数日にわたって録画できるレコーダー)の市場が拡大しそうだったこともあり、テレビのリアルタイム視聴を増やしたいという思いが関係者の間にありました。さらに、番組を違法コピーしたコンテンツがネット上に増え始めていたことへの警戒感もありました」

 リアルタイム視聴を増やすという意味で、テレビ局関係者の間ではネット上での番組同時配信も議論になった。だが、それは時期尚早と判断され、見逃した番組をキャッチアップする形で合意に至った。

テレビ局主導から独立した経営へ

 それまで放送局は独自で有料の見逃し視聴サービスを提供するなどしていたものの、大半の視聴者は放送局単位ではなく、見たいコンテンツを基準にサービスを選ぶ。ユーザーの利便性を考えれば、どの局の番組も1つのプラットフォームで視聴できるほうが良いのは明らかだった。

 当初はこうした取り組みに対して、各局で温度差があったとも龍宝氏は語る。ネットでの視聴を増やすにはコンテンツの拡充が必要だが、「人気コンテンツを提供することがどこまで放送局のメリットになるか」という点が優先されがちだったという。

 「プレゼントキャスト時代は各放送局から運営費をいただいていたので、われわれは完全にコストセンターとして、かかった費用を放送局に請求するというモデルでやっていました。広告は各局が個別にセールスしていて、プレゼントキャストとしては広告が売れても売れなくても関係なかったんです」

 今回、増資を行ったのは、TVerの成長が出資者である各局のメリットに直結するという部分を明確にする狙いがある。2021年4月以降は広告セールスを本格化し、事業として独り立ちを目指していく。

 「議論したのは、人気コンテンツの提供がテレビ局にとってメリットになるかどうかではなく、TVerのメリットになるなら出してもらいたいという方向に変えたいという部分でした」

 体制変更に当たってもう1つ重視したのが、経営のスピード感だ。以前は5局の合議制で意思決定を行っていたため、放送局からの提案を自社で検討し、各局に持ち帰ってもらった後、さらに戻されたものを検討するといったステップを踏んでいた。

 新たなアイデアやサービスを実行するにあたって、「独自判断ができるようになったことが大きなメリット」と龍宝氏は言う。

龍宝正峰・TVer社長
TVerへのコンテンツ提供がテレビ局のメリットにもなるという点を強調した

TVerが描くテレビ復権への道とは

国内で最強のコンテンツを活かす

 海外発のサービスも含めて、現在はサブスクリプションモデルの動画配信が普及し、オリジナルコンテンツを制作しているところも多い。無料配信で自社コンテンツを持たないTVerとは直接的な競合ではないものの、視聴者にどれだけ時間を割いてもらうかという部分での競争は避けられない。

 この点に関して龍宝氏は「テレビ局は日本国内で最も強力なコンテンツプロバイダーだと思っているので、競争力はあると思っています」と自負する。

 現在TVerのユーザー数は伸び続けており、この6月には過去最高となる1009万MAU(月間アクティブユーザー)を達成。テレビCMを積極的に打つなどし、サービスの認知度も向上している。ただ、広告収益モデルでやっていくにはまだ力不足なため、今後ユーザー数を2倍、3倍に伸ばしていく必要があると考えている。

 コンテンツの拡充という点では、19年8月からはNHKも参画し、一部番組の提供を開始した。NHKの場合、民放と違って広告モデルが適用できないためさまざまな条件は付くものの、幅広い番組の提供を働き掛けていく。

 また、今後は主力のドラマだけでなく、ニュース、バラエティなど、幅広いジャンルのコンテンツを揃えていく意向だ。

視聴率が低いドラマが再評価されるケースも

 視聴者のテレビ回帰を目指して設立されたTVerだが、見逃し視聴の効果が実感できるケースは出てきている。たとえば、リアルタイムの放送で視聴率が振るわなかったドラマが、見逃し配信で人気となることがある。特に、若者世代向けのドラマにこうした傾向がみられるという。

 「これまではテレビで1回放送したら終わりでしたが、見逃し視聴したユーザーがSNSなどで話題にしたことで盛り上がって、後半の回になるにつれテレビの視聴率も上がっていくといったことが実際に起きています。昔は学校に行くと前日のドラマの話で盛り上がりましたが、今はリアルタイムで番組を見ながら、ネット上で盛り上がるという傾向に変わっている影響もあるのでしょう」

ユーザー側から見れば、面白いコンテンツであればテレビ発かどうかはあまり関係ない。面白い動画を見つけたら、たまたまテレビ番組だったというケースも日常的になっていくだろう。

 「われわれが行っているのは、テレビ局のビジネスの1部を拡張していることだと考えたほうがシンプルだと思います。各局から制作、編成、技術、営業など、さまざまな分野の個性が強い人材が集まって、テレビの再現をネット上でやっているということです」

 一部で「オワコン」扱いされるなど厳しい状況にあるテレビだが、再び輝くためのポテンシャルはまだ秘めている。