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「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

黒木英隆(メディエイター社長)

西日本で唯一のマイクロソフト認定再生PC事業者として、中古PC販売で業績を伸ばしているメディエイター。個人が使用するデバイスがスマホやタブレットに移行する中、どんな戦略を描いているのか。

黒木英隆・メディエイター社長プロフィール

黒木英隆メディエイター

(くろき・ひでたか)1967年、宮崎県生まれ。89年熊本崇城大学卒業後、九州の大手スーパーに就職。92年大手PC販売会社に転職。同社役員を経て2003年にメディエイターを設立し、代表取締役社長に就任。

高齢者向けの中古PC需要に着目

PCを購入する際、リユースの中古品を検討したことがある読者は多いだろう。高齢者向けを中心とした中古PC市場の拡大にいち早く目を付け、事業を成長させてきたのがメディエイター社長の黒木英隆氏だ。企業などから使用済みのPCを仕入れ、修理、整備して販売する。西日本で唯一のマイクロソフト認定再生PC事業者でもある。

黒木氏が独立したのは2003年。前職で手掛けていた中古PCの販売を、高齢者向けに展開しようと発想したのがスタートだった。

「新品のPCが100点満点だとすれば、中古は40点の商品でもハードディスクやメモリを増強したり、OSのバージョンを変えたりすることで80点くらいまで引き上げられます。そして “ありがとうの引換券”として、利益が戻ってくる。それまでの経験と中古PCの魅力が融合するビジネスだと思ったんです」

当時は新製品が続々と市場投入される一方、中古PCは数年で廃棄処分されるか海外への輸出に回され、国内で循環するシステムが確立されていなかった。国内での循環を実現するには、商品の信頼性や性能を保証する人間が必要。それを自ら行うことにしたのだ。

高齢者向けの中古PC需要があることは会社勤め時代から感じていたが、その検証の意味も込めて、地方自治体が開催する高齢者向けのIT講習会に講師として参加した。そこでは予想以上の手ごたえがあったという。

「当時、高齢者があまりやっていなかったインターネットを実演して、何かあったらいつでも連絡してもらえる関係を作っていきました」

10人ほどの顧客基盤はできたが、本当に事業として成り立つのか不安もあった。だが、ある顧客からの「みんなが喜ぶビジネスだから店を作ったらどんどん紹介する」という言葉に勇気をもらい、店舗設立を決断。30坪ほどの小さな店の屋号は、ずばりそのまま「初心者のためのパソコンショップ」だった。

黒木英隆

高齢者向け中古PC市場に着眼した黒木社長

初心を忘れた苦い経験と教訓

新品当時だと30万円以上する商品を企業から仕入れ、初心者が使える仕様に整備して5万円以下で販売した。講習会で築いた基盤からの来客は1カ月ほどで途切れたが、顧客の一人である新聞記者が記事にしてくれたことで、中古PCを求める高齢者の行列ができた。独立前の読みが見事に的中した格好だった。

この出来事で認知拡大の重要性に気付いた黒木氏は新聞広告を積極的に打ち、来客数は一気に10倍に増加。店舗数も増やし、売上高は12億円まで達した。リーマンショック後の不況期も、店舗縮小とたくみな在庫調整によって何とか乗り切った。

最も危なかったのは、不況期よりも上場を目指したときだと黒木氏は振り返る。年間売上20億円、従業員数150200人まで成長したころ、投資したいという声が周囲から集まり、上場に向けて舵を切った。だが、それによって経営の本質がずれてしまったという。

「上場を目標にすると経営判断の基準がそこになってしまい、内部統制などにお金を懸ける一方で、顧客への対応がなおざりになり、現場から“ありがとうの引換券”の精神が失われていきました。業績が一気に落ち、大会社になるというメリットに惹かれて入社してきた人たちは実績が落ちると去って行きました。売上高は46億円までいきましたが経常利益は5千万円程度で、実質破たんしているのと同じでした」

この時に学んだのは「すべてに経営理念を念頭に判断することと、自分が掌握できる範囲を超えてはいけないということだった。上場が目的になると上場したら潰れてしまう」という教訓だ。ついに1億円の赤字を出し上場を断念。創業時の原点に戻ると決心し再スタートを切った後は、翌年より5年連続最高益を更新し今期においては2億円超えの経常利益がほぼ確実となっている。

PCの「2020年問題」への向き合い方

PC業界には2020年、大きな波が来ると予想されている。同年1月14日にマイクロソフトが「Windows 7」の技術的サポートを終了する2020年問題。期日を前に「Windows 10」へのアップデート需要が増加し、中古PCの販売も伸びると見られている。

だが黒木氏は「確かに大チャンスだが、生かせなければ大ピンチになる」と気を引き締める。

慎重なのは2014年の「Windows XP」サポート終了時の経験があるからだ。この時、店舗には客が殺到し、徹底的に価格を下げて販売したものの、従業員たちは疲労困憊した。顧客の一人一人に向き合う精神は薄れ、翌年は赤字決算に陥った。結局売り上げの先食いをしただけで、継続的なファンを十分獲得できなかったことが大きい。

「こういう機会を大チャンスにするには、“継続”を前提にお客と“接続”することを考えなければいけません。お客様が本来やりたかったことのために中古PCを活用していただくために、今後は『地域のかかりつけ医』としての存在として確立してゆきます」

大量に仕入れて価格競争で勝負する量販店スタイルではなく、「お客様の問題解決や可能性の拡大に焦点を当てる」という。そのため、販売後のアフターフォローをさらに重視していく方針だ。

黒木英隆

PCの2020年問題に商機を見出す

「PCのかかりつけ医」としてのポジションを目指す

今後目指すのは、5万人の商圏に対しPCのかかりつけ医を1人の割合で置く体制だ。フランチャイズを含め、2人運営体制であれば千店舗まで拡大する構想を抱く。

「そこに到達するまでに成し遂げなければならないのは、PC周りは全部任せてもらえる情報ステーションとして地域に貢献すること。ただ箱を作って人をあてがうだけのビジネスモデルではなく、地域に貢献したいという人にノウハウとスキルを提供し、店長業務を委託していきたい」と黒木氏は語る。

充実したサポート体制のほか、かかりつけ医としてコンサルティングの業務拡大も将来の視野に入れる。現在、個人向けPCはスマホに代替されて市場が縮小しているものの、法人向けは働き方改革の推進によるテレワークの増加、システム管理やメンテナンスを含めたサポートの需要増加などで、今後も伸びしろが大きいと見られている。こうした情勢を考慮し、中小企業向けのRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の研究を進めるなどし、顧客にさまざまな提案ができる体制を作ろうとしている。

さらに、教育ICTにも注目しているという。学校現場でのプログラミング教育必修化によって、中古PCの需要が全国的に増えると黒木氏は予測する。「そこにメンテナンスや技術サポートができる人材が必ず必要になります」と期待を込める。

再び上場を視野に

今期は経常利益が2億円を超え、5年以内を目標にかつて頓挫した上場にも再びチャレンジする決意を固めたという黒木氏。以前と違って上場自体が目的ではなく、自分たちの商品やサービスへの認知度を向上させ、人材獲得を強化するというしっかりとした狙いが今回はある。

「総務省発表の人口動態を見ると2040年には、労働人口が今の8割近くまで減ることが予想されています。65歳以上の増加率を鑑みると労働者1人当たりの生産性を1.7倍に上げないと今の経済水準を維持できません。ここがわれわれの事業によって地域貢献できるタイミングと考えています」

黒木氏が目指すのは、100年続く企業だ。そのための収益基盤の構築に向け「従業員ひとりひとりの可能性を最大限に発揮できる体制を確立したい」と力を込めた。

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