政治・経済

甘利大臣辞任に象徴される自民党の自浄作用低下

 ちょっと前の話になるが、触れておかなければいけないだろう。甘利明経済再生担当相が辞任した一件である。

 昨年、安保関連法案が可決成立し、臨時国会は見送られ、今年は新年早々に開会した通常国会。外野が何を叫ぼうと、「ずっと凪状態」だと野党議員が自嘲気味に嘆くほど穏やかだった永田町。ところが、『週刊文春』のスクープ記事により事態は一変、安倍晋三政権の要で、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉では、諸外国から“タフネゴシエーター”と呼ばれていた甘利氏が現金授受問題で辞任したのだ。

 政治とカネの問題は、いつになったら終わるのだろうか。第2次安倍内閣を振り返っても、今回の甘利氏だけではない。2014年、初の女性首相最右翼と見られていた小渕優子前経産相が政治資金管理団体の問題をきっかけに辞任し、昨年は西川公也元農水相が辞任に追い込まれた。また、下村博文前文科相も政治献金をめぐる問題で何度も国会で追及された。

 これだけ問題を起こしているにもかかわらず、安泰でいられる政権も珍しい。野党がだらしないと言えばそれまでだが、かつての自民党であればもっと自浄作用が働いていただろう。元大物衆院議員秘書は寂しそうにこう語る。

 「自民党ももう終わりだね。派閥がしっかりしていたころなら必ず倒閣運動に広がって、瞬く間に安倍政権は崩壊していたはず。ところが、今や長老だって、派閥のリーダーだって“音なし”となっている。早晩、自民党は国民から愛想を尽かされる」

 派閥の功罪は相半ばかもしれないが、党内で切磋琢磨して自分たちのグループで天下取りを競っていた時代は、それが自浄作用となっていた。ところが、派閥の力は削がれ、個々の議員の能力や度量が小さくなったと、元秘書は嘆く。

 また、自民党中堅衆院議員はこう語る。

イラスト/のり

イラスト/のり

 「昔は“雑巾がけ”を一生懸命して、階段を一歩一歩踏み上げていくシステムがわが党にはあった。しかし、先輩方でいまだ未入閣の人がいる一方、雑巾がけもせず、いきなり飛び級で入閣したりする。年功序列がいいとはいわないが、どこか歪んでいるようで怖い」

 今の自民党をうまく言い表しているようだ。誰もが目先の利を得ようとしているため、損な役回りを避ける。次の選挙でいかに効率よく当選するかどうかを考える。だから、今の政権に対しての批判もしなくなる。これも、派閥の力が縮小していったことの弊害なのだろうか。

甘利大臣の後任、石原新大臣は失言癖で格好のターゲットに

 さて、甘利氏の後任には、石原伸晃元自民党幹事長が就任した。しかし、早くも自民党内からは「安倍首相はいきなり“軽量級”を据えてきた。大丈夫か」と、危ぶむ声が聞こえてきた。

 というのも、石原氏は失言癖で知られるご仁。環境相だった14年6月、東京電力福島第1原発事故に伴う汚染土などを保管する中間貯蔵施設の建設をめぐり「最後は金目でしょ」と発言した。そのほかにも、朝の民放出演の際、東京電力福島第1原発事故で汚染された土壌の保管先に関し「福島原発第1サティアンしかない」(12年9月)、記者会見で「脱原発」の動きに関し、「大きな事故(福島第一原発事故)があったわけだから、集団ヒステリー状態になるのは分かる」(11年6月)など、ことあるごとに思慮に欠いた発言が問題とされてきた。

 政府は1月6日、TPPに伴い改正が必要な11の法律の概要を自民党に示した。関連する法律はひとまとめにし、計8本を3月にも提出するといわれている。つまり、TPP関連法審議はこれからというときに支柱を失い、場外で失言する恐れのある石原氏で大丈夫かと、心配しているのである。

 加えて、減速気味の経済のかじ取りをどうやっていくのか。株価は下落傾向、今年の春闘の行方も気になるところ。下手な口出しでまたぞろ水を差すようなことがあれば、一気に支持率低下を招く恐れがある。自民党関係者はこう不安を口にする。

 「第1次安倍政権では、辞任ドミノによって政権がガタガタになり、崩壊した。経済通でもなく、TPPに精通しているわけでもない石原氏は格好のターゲットになるでしょう。論戦の場に引っ張り出して、失言でもしようものなら、“あのとき”の二の舞。何としても慎重になってもらわないと」

 何しろ今年最大のヤマ場は夏の参院選。1つの綻びが、とんでもない結果を招くことにもなりかないというのだ。風雲急を告げる永田町冬の陣の行方や、いかに――。

 

【永田町ウォッチング】記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年11月号
[特集] AIが知りたい!
  • ・IT未開の地に挑戦 産業構造をAIが変える!
  • ・AIは物理世界がまだ苦手 汎用ロボットの作り方
  • ・データ分析の起点は「何があれば経営に役立つか」
  • ・AI活用事例
  • ・ワトソン君は業務システムと連携する
  • ・米国で加熱する人工知能ブーム AIは21世紀最大のゲームチェンジャーか
[Special Interview]

 小川啓之(コマツ社長)

 「“経験知”に勝るものはない」コマツ新社長が語る未来

[NEWS REPORT]

◆SBIが島根銀行への出資の先に見据える「第4メガバンク構想」

◆家電同士がデータを共有 クックパッドが描くキッチンの未来

◆新薬の薬価がたった60万円! 日の丸創薬ベンチャーは意気消沈

◆1で久々の優勝を果たすもホンダの4輪部門は五里霧中

[総力特集]

 人材育成企業21

 SBIホールディングス/サイボウズ/メルカリ/ティーケーピー/シニアライフクリエイト/イセ食品/センチュリオン/タカミヤ/中央建設/アドバンテック/合格の天使/明泉学園/オカフーズ

ページ上部へ戻る