経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

財務改善に窮する東芝 ヘルスケア手離し2本柱に集中

東芝が2015年度通期で7100億円の最終損失を計上する見通しとなった。一連の不適切会計処理で、構造改革が棚上げされてきた結果だが、財務改善のために次の成長の芽を自ら摘む事態を招いてしまった。結局は原発と半導体に頼らざるを得ないが、その展望も明るくない。 文=本誌/村田晋一郎

危険水域に達した財務状況期待の成長事業を売却へ

東芝の窮地に光が見えない。2015年度通期の見通しを下方修正し、営業損失が4300億円、最終損失は7100億円に達すると発表した。

そもそも東芝は、昨年12月末に、「新生東芝アクションプラン」と称する経営施策を発表したが、その際に15年度通期の業績予想も発表。課題事業の構造改革や資産価値の見直しなどの必要な措置を15年度中に実施するとし、その時点で既に売上高が前年比4559億円減の6兆2千億円、営業損失が3400億円、最終損失が5500億円の予想となっていた。

それからわずか1カ月で下方修正となったわけだが、売上高は据え置いたものの、営業損益、最終損益ともにさらに赤字幅を拡大させる事態となった。特に株主資本比率が、今回の下方修正で2・6%に減少。債務超過のリスクも高まり、財務状況の改善が待ったなしの状況だ。

今回の下方修正は電子デバイスや電力・社会インフラなどの不採算案件の引き当てや、送変電・配電、太陽光事業の資産評価減などが大きな要因となった。また、追加の構造改革の費用を盛り込んだ。室町正志社長は決算会見において、「今年度中にウミを出しきって、16年度のV字回復を図る」ことを強調した。

最終損失が7千億円を超えるのは、電機業界では、リーマンショック後の日立製作所やパナソニックに次ぐ規模。東芝の場合は、一連の不適切会計処理で、本来は数年前に済ませておくべき改革をやってこなかったツケを一気に払わなければいけなくなった格好だ。

室町正志・東芝社長

室町正志・東芝社長

そこで東芝が進める「新生東芝アクションプラン」だが、事業運営体制の見直しを含めた構造改革と財務基盤の強化が柱となる。構造改革で中心となるのは、パソコンやテレビ、白物家電からなるライフスタイル事業で、赤字額が最も大きい。具体的には人員削減に加え、他社との事業再編を視野に外部への切り離しを検討している。白物家電事業とパソコン事業の再編成については、2月末までに何らかの方向性を決める方針。

また、事業の見直しとして大きなものは、メディカル事業の売却だ。中核の医療機器子会社の東芝メディカルシステムズの株式を売却し、社内カンパニーのヘルスケア社を3月末で廃止する。ヘルスケア事業は原発、半導体に続く第3の柱になり得る可能性を秘めた事業として期待されてきた。売り上げ規模はまだ4400億円と東芝の中では少ないが、今回の下方修正後の通期見通しでも唯一の黒字事業となっている。

現在の東芝にとってヘルスケア事業は資産増強の点で、「唯一と言っていいぐらいの大きな資産価値」(室町社長)であり、高く売れる事業だ。しかし将来性を考えると売却を惜しむ声も聞こえてくる。そのヘルスケア事業を手離さなければいけないほど東芝の財務状況は厳しいと言える。東芝メディカルシステムズの株式の売却額は4千億円を超える見通しで、1月に既に1次入札を終えているという。

頼みは既存の2本柱だが厳しい事業環境

構造改革は概ね予定どおりであり、環境変化などの外部要因がない限り、今後は下振れすることはないとしている。「V字回復」と室町社長は意気込むが、成長に向けた施策は結局のところ、不採算事業を縮小し、従来の稼ぎ頭であるエネルギー事業とストレージ事業、具体的には原発と半導体のNAND型フラッシュメモリに注力するしかない。

しかし、原発もフラッシュメモリも市況環境は決して明るくない。まず原発については2月上旬、東芝が主契約者となっている米国サウス・テキサス・プロジェクトにおいて、米国原子力規制委員会から建設運転一括許可の承認を受けた。ただし、建設予定地のテキサス州では現在電力価格が低迷していることから、建設開始時期は未定という。東芝は原子力事業について、向こう15年で45基の受注計画を打ち出しているが、順調なスタートとは言えない状況だ。

また、フラッシュメモリについても、スマートフォンの成長鈍化などから価格は下落し、市況は後退局面にある。半導体業界はシリコンサイクルと呼ばれる激しい好不況の波があるため、不況時に設備投資を行った企業が好況時に巨額の利益を得られる。好況時になって投資をしたのでは間に合わない。その意味で、今は投資するタイミングだが、現在の東芝に海外の競合メーカーと伍する投資を行うことは容易ではない。

ましてフラッシュメモリは技術的な潮目を迎えており、従来の2次元メモリから3次元メモリへの変革期に入っている。このため、生産能力の増強だけでなく、3次元メモリに対応した新たな製造装置への投資が必要となる。東芝にとっては資金がない状態で、投資しなければ先がないという厳しい状況だ。

成長を牽引するべき2本柱の足元の事業環境は決して良くない。それでもこの2本柱に頼らざるを得ないのが今の東芝の苦しい状況と言える。東芝では、15年度に構造改革にめどを付け、16年度から再成長に向けた中期経営計画を3月に発表するとしているが、V字回復は難しいのではないだろうか。

経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界ウェブトップへ戻る