文化・ライフ

本塁を“死守”することができなくなる“受難”が

 プロ野球は今季から本塁上での危険なプレーに厳格な姿勢で臨む方針を確認している。

 新ルールにより、クロスプレーの際、キャッチャーは本塁前でランナーをブロックすることができなくなる。ボールを持たずに走路を塞ぐことも禁止だ。

 一方でランナーも、走路からはずれた位置にいるキャッチャーへの体当たりは危険なプレーと見なされ、悪質な場合は守備妨害をとられる。

 メジャーリーグでは2011年5月、ジャイアンツのキャッチャー、バスター・ポージーがマーリンズのスコット・カズンズのタックルを受け、左足腓骨骨折、左足首じん帯断裂の大けがを負ったのを機に本塁上のルールの厳格化が求められるようになった。日本はそれに追従したかたちだ。

 キャンプ前半は、どの球団も新ルール対策に追われていた。クロスプレーの際、本塁を空ければ、どうしてもキャッチャーは“追いタッチ”になる。

 「これまでは、ゆうゆうアウトにできていたのが、これからは全部セーフになる。どうしたらいいのか……」

 ある在京球団のキャッチャーは、そう言って頭を抱えていた。

 内野手も大変だ。本塁上でのクロスプレーの場合、昨季よりもワンテンポ早くボールを処理しなければ、ランナーの生還を許してしまう。

 これを受け、今季から巨人の一軍内野守備走塁コーチに就任した井端弘和は、こう語った。

 「ブロックが許されないキャッチャーは、手だけでタッチにいくしかない。特にファーストとセカンドは、昨季よりも前の位置でボールを処理しなければ、(ランナーに)回り込まれてしまう。ファーストとセカンドは受難のシーズンになりそうですね」

 そして困惑の表情で、こう、こぼした。

 「本塁上でのクロスプレーは野球の醍醐味のひとつ。ランナーはキャッチャーのブロックを、どうすり抜けるか。アウトかセーフか。お客さんにすれば、そこが見ていて最もワクワクする部分だったと思うんです。

 明らかに危険なプレーはともかく、ちょっとの接触プレーでも守備妨害、走塁妨害と見なされるようになれば、プロ野球自体の魅力が薄まってしまうんじゃないでしょうか……」

 井端が指摘するように、ホームベース付近でのクロスプレーは、ある意味、プロ野球の華だった。

 ブロックの禁止は、キャッチャーにとって安全面の担保につながる半面、腕の見せ所をも失う。

 太平洋や阪神、大洋などで活躍し、ダイエーのバッテリーコーチも務めた若菜嘉晴も新ルールには懐疑的だ。

 「野球には4つベースがあるが、本塁は重みが違う。僕らキャッチャーは、そこを死守することに誇りを持っていた。

 しかし、審判は、“これからは本塁も他のベースと同じルールでやる”と言っている。もう“死守”という言葉すらなくなるのか。これは、ちょっと寂しいですね」

 死守という言葉が死語になるとしたら、確かにそれは寂しい。若菜の懸念はもっともである。

これまでのキャッチャーの守備の意識は大変革に

 再び前出の在京球団キャッチャーのコメントを紹介する。

 「僕らはアマチュア時代から“キャッチャーは逃げるな!”と教えられてきた。たとえケガをしても“それは名誉の負傷だ”と。

 でも、これからは走路を開け、(本塁上では)ランナーに飛びつくようにタッチしなければいけないわけでしょう。

 これまでのキャッチャーの守備の意識が180度変わると言っても過言ではない。新ルールについていけるかどうか心配です」

 逆に新ルールの導入により、「プロ野球がエキサイティングになる」と歓迎する向きもある。

 在京球団の元コーチの話。

 「本塁上でのクロスプレーは、たえずケガの危険性が伴う。もし(三塁ベースコーチが)手を回して突っ込ませ、キャッチーのブロックにあって足首を骨折でもしたら、戦力ダウンは避けられない。そうしたリスクを回避するために、セーフになりそうなのに三塁で止めたケースもある。

 しかし、これからは、どんどん(本塁に)チャージさせられる。アウトになってもケガのリスクは減りますから。むしろスピードのあるランナーが重宝されるから、野球の質が若返りますよ。

 野手だって肩が強く、スローイングの正確な選手が評価を得るようになる。そうした意味でも、新ルールは否定的にとらえられるべきではないと思っています」

 ルール変更にはメリットもあればデメリットもある。効果もあれば副作用もある。シーズン前半は、各球団の対応力が問われることになる。(文中敬称略)

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