政治・経済

マツダ小飼雅道社長が考える広島のものづくりの強みとは

―― 広島のものづくりの強みはどこにあるのでしょうか。

20160510MAZDA_P01

(こがい・まさみち)1954年生まれ、長野県出身。77年東北大学工学部卒業後、マツダ入社。98年車両技術部長、2004年執行役員防府工場長、06年執行役員オートアライアンス(タイランド)社長、10年取締役専務執行役員等を経て、13年6月より現職。

小飼 広島は平地が少なく、農業よりものづくり産業が伝統的に根付いていきました。豊富な木材を燃やして鉄を生成する鑪(たたら)製鉄という製法が江戸時代の後半から盛んになり、中国地方の鉄の生産量は全国の約半分を占めるほどになっていました。「鉄」が1つのキーワードだったのです。

 その流れで、近年一番大きく花開いたのが造船業です。戦前から戦中にかけて、呉の軍港に広島のものづくり産業が集約され、育って行きました。マツダの車づくりにも、そうした船をつくるための技術力が生かされていきました。それが端的に表れているのが設計図です。車の設計図に引かれている高さ方向の目盛を表す線を、当社ではWL(ウォーターライン)と表記していますが、これは船の喫水線のことです。つまり、いまだに船の設計図の呼び方が車に使われているんですね。

 そして、広島は地理的に東京、大阪など大都市から離れているため、何でも自前でやるしかないという状況があります。車をつくる産業機械も金型も、ちょっとした小型ロボットもまずは自前で製造する伝統があるのです。われわれが「SKYACTIVテクノロジー」を開発できたのも、そうした自前でつくる文化が背景にあります。われわれの協力会社に関しても、同じことが言えます。

―― 最近では海外生産比率が高まっていますが、国内生産の基本的な位置付けはどうなっているのでしょうか。

小飼 本社工場(広島県)と防府工場(山口県)を合わせて、国内に100万台規模の生産設備がありますが、これをフル活用することが最優先です。90万台から100万台の生産を集中的に行える拠点は他社にはありません。これだけ集約すると、量産効果によって非常にローコストで生産ができます。ただ一方で、為替変動への耐性はつけておきたいので、100万台を超える台数については海外で生産する方針です。今から4年前くらいまでは、グローバル販売台数が全体で130万台にも届かなかったため生産拠点の海外進出は難しかったのですが、今期は151万台の販売計画なので、50万台程度を海外でつくれる状態になっています。

 やはり当社は広島の人材が中心の会社なので、広島をモデルに、ブランド力を高めたいと考えています。そのため、従業員には地元への貢献や感謝の気持ちを意識するよう、常に言っています。マツダのブランドを構築し、それを海外にも広げるという役割が広島にはあります。

―― 本社工場のレベルを海外に移管するのは簡単ではないようにも思えますが。

小飼 工場内の設備やロボットの配置から動きまで世界中で統一していますが、何らかのエラーや変化が生産工程では必ず起きます。そうした未知数の部分に対処するには経験が必要です。工場立ち上げから数えると、タイが15年生、中国が7〜8年生、メキシコはまだ2年生でしかないので、時間と共に、経験を通じた力が備わってくるでしょう。

マツダは広島への感謝を絶対に忘れない

―― 地元貢献のユニークな試みとして、従業員が特技を生かして地域住民の要望に応える「マツダスペシャリストバンク」という制度がありますね。

小飼 1994年のアジア競技大会をきっかけに、各従業員が特殊技能を生かして地元へ貢献しようということで始めました。従業員が特技を登録しておいて、要請があれば休日でもボランティアで活動します。例えば、私が部長を務めていたことのあるラグビー部では、部員が地元の小学校でラグビー教室を開催しておりますし、中には南京玉すだれや落語を披露する人もいます。一度も呼ばれたことはないですが、私も「多品種混流モジュール生産システムについての講演ができる」ということで登録しています(笑)。

 先日、広島本社を土日に近隣の皆さまに開放するという試みも初めて行いました。マイナス30度の実験施設に親子で入っていただいたり、ラジコンカーのレースを行ったりしました。最大の目的は、地域の方々にマツダで働いている人々と触れ合っていただくことです。

 当社は以前、地元との距離感が若干開いてしまった時期があったのですが、1975年に「郷心会」というマツダの支援組織ができて、広島商工会議所の会頭が中心になり「マツダ車を買おう」という運動を展開していただきました。そうやって広島という地に支えられて生きてきた会社なので、もう一度感謝の気持ちを持ってできることは積極的にやりたいと思っています。

―― 地域貢献の観点から、今後はどんなことに取り組んでいきますか。

小飼 紆余曲折は今後もあると思いますが、少なくとも地域の皆さまに感謝の気持ちを忘れず、期待に応えるという精神だけは絶対に忘れないつもりです。コーポレートビジョンにあるように、お客さまに豊かなカーライフを過ごしていただける商品を作り続ける、そしてどんな困難があっても、独創的なアイデアと努力によって、挑戦し続けることをお約束します。

(聞き手/本誌編集長・吉田浩)

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る