マネジメント

 「エスワン」「ムーディーズ」といった有力レーベルを育て、流通システム「アウトビジョン」に他のメーカーを次々引き入れ、AV業界の川上から川下まで制する形を作り上げた。その資金を投資して、一大グループを築き上げたDMMグループ。創業者の亀山敬司会長とは――。文=本誌/榎本正義

撤退するスピードがやたら速いのが一番の強さ

 タレントを起用したテレビCMで急激に知名度を高めているDMM.com(ディーエムエムドットコム)。石川県のレンタルビデオ店から、アダルトビデオ通販、FX(外国為替証拠金取引)、オンラインゲーム、オンライン英会話、ロボット、太陽光発電など、次々と事業領域を広げ、3Dプリンターなどを配備してモノづくりのベンチャー企業を支援する「DMM.make AKIBA」は、海外からも注目を集めている。創業者で現会長の亀山敬司は、これまであまりメディアに登場せず、顔写真の撮影はNGを条件に取材インタビューに応じた。

20160607DMM_P01

亀山敬司・DMM.com会長

 「写真を撮られるのが嫌なのは、知らない人から指さされたくないからです。気楽に飲みに行けなくなるし。芸能人の知り合いも、酒を飲んでるときにファンから『一緒に写真いいですか?』とか言われて、嫌な顔もできないでしょ。ただ、いろいろ事業をやってるのに僕があまり表に出ないと、DMMはエロをやってるところだから取引できないとか、ヤクザじゃないかとか、怪しいとか言われる。そうなると仕事にも影響が出るし、社員もコソコソしなくちゃいけない。じゃあ顔は出さずにしゃべればいいかと」

 わずかに伸ばした無精ひげ、ニットにカジュアルなジーンズ姿で飄々と語る亀山。今や年商1300億円を超える企業グループの経営者というより、おしゃれなレストランやバーの経営者といった風貌だ。自らは「脱力系」と評するが、社員が徹夜で準備して、「明日オープンするぞ!」という時に「他社がやりだしたから、やめるわ」といきなり言うこともあるという。うまく行かないと思ったら事業をすぐ切ることができる。「撤退するスピードがやたら速いのが一番の強さだ」とは松栄立也DMM.com社長による亀山評だ。

映画会社設立を望むが資金不足でAVに

 亀山は1961年石川県加賀市出身。実家は海の家や飲食店を営む商家だった。79年に石川県立大聖寺高校卒業。高校では登山部や柔道部に参加し、授業中は寝ていることが多かったという。高校卒業後、東京の大原簿記学校に入学して税理士を目指したが、興味がなくなり、日商簿記検定1級に合格後、中退した。

 19歳の時、六本木の外国人露天商に師事し、六本木や原宿などの繁華街だけでなく、青森のねぶた祭りにまで遠征して露天商のコツをつかむ。資金が溜まると海外に半年ほど放浪の旅に出ていたそうだ。

 その後、飲食店を経営していた姉の妊娠がきっかけで、24歳の時に郷里に戻る。姉の飲食店の手伝い、雀荘やバーの経営を経て、80年代後半にレンタルビデオ店を開業し、一時は5店舗まで運営して成功を収めるが、近隣に大型店ができたため、地元の加賀に引っ込むことになる。だが、しばらくすると大手も進出してきたため、「勝てない」と思い、自ら訪ねその傘下に入ることにした。

 ところが亀山はその後、将来レンタルビデオ業はなくなる時代がくることを予感して、今日の飛躍につながるアダルトコンテンツに目を付ける。

 「本当は映画会社を作りたかったんだけど、そのころは年間8千万円くらいしか利益がなかったのでとても無理。アダルトビデオなら1本100万円くらいで版権が買えたんです」

20160607DMM_P02 90年、29歳で亀山は「北都」を設立し、AV事業に進出。「富山の薬売り方式」と呼ぶ委託販売形式による卸売業を通さない販売ルートの確保やPOS(販売時点情報管理)の開発・無料配布によるいち早い導入などで版図を広げていった。

 98年にはインターネット動画配信事業を開始し、翌99年、加賀市にDMM.comの前身であるデジタルメディアマートを設立した。2009年にサービスを開始したFX事業を皮切りに、オンラインゲーム事業、オンライン英会話事業、3Dプリント事業、モバイル事業、ロボット事業などさまざまな分野に事業を拡大していく。

 11年からは、ベンチャーキャピタリストのように、起業家らアイデアを持った人間を業務委託的に雇い、実働部隊と資金を与えて働いてもらう「亀チョク」と呼ぶ仕組みを始めた。ここから生まれたのが、人気ゲームの「艦隊これくしょん」や、時代を先取る3Dプリンターなどだ。

「亀チョク」の仕組みで次なる商売のネタ探しを

 昨年、アフリカに旅行した亀山は、将来の可能性を感じ、今年から「DMM.アフリカ」を設立して社内の有志を集い、亀チョクから現在10人ほどが立候補し、現地で商売のタネを探させているという。

 「行先もタンザニアがいいのかウガンダがいいか自分たちで考えさせ、1人にチケットと軍資金を100万円渡して、農業、太陽光、IT、インフラ系とか何でもいいから、取りあえずアフリカに散らばって探せと。毎月10人くらいずつ増やし、最終的には50人くらいでやってみようと思っています。向こうでの経費に1人年間1千万円くらいかかるとして、50人だと5億円の投資。1〜2年動いてみたら、何かビジネスを探して来るかな、くらいの感じです。DMM.make AKIBAにしても、施設を作るのに10億円くらいかかっているけど、会員からは1人2万〜3万円くらいしかもらえない。運営だけでも年間20億円くらい赤字が出てる。でも、ここで若者が新しいロボットや家電を作ってくれたら、その量産や販売を手伝うことで将来利益が取れると思っている。黒字になるには5年以上かかるだろうけどね。ニッチではあるが世界中にファンのいる商品を世界に流通させる。ハードのスタートアップができる環境にしていければいいと思っています」

 今でもアダルト部分の収益は全体の4割ほどあるが、FXは今年最高益の予想。ゲームや全国16カ所で展開中のメガソーラーも好調。これらから上がる潤沢な資金を、次なる成長の芽となりそうな事業につぎ込む。

 「やってみて、分析して、うまく行けば続けるし、ダメなら撤退する。今やってる事業の10倍くらい失敗したものもありますよ。でもやってみないと分からないことも多い。食っていくために必死にいろいろ模索しているんですよ。会社はプラットフォームで、そこにいろいろなものが乗っかっていくイメージかな」と亀山。長男は以前、亀山に内緒で入社試験を受け、不採用になっていた。

 「将来僕が引退するときは、会社を誰かに売却して、それで得た資金はボランティアなのか、贅沢なのかは分からないけど、全部使ってしまうのが理想。もともと子どもに会社を継がせるつもりはないし、財産を残すつもりもない。無理して入れても幸せになれるか分からないし、自分の手で何かを作り上げたほうが本人のためでしょう。まあ後で感想を書くんだろうけど、実際会ってみたらそんなに怖くなかったと書いといてね(笑)」

 一見つかみどころがないが、偉ぶらず、経営者らしくないのが亀山の魅力なのだろう。(文中敬称略)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メーン銀行との付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

金利引き上げの口実とその対処法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応のプリンシプル

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

コミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

所得税の節税ポイント

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

固定資産税の取り戻し方

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

部下の感情とどうつきあうか

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

“将来有望”な社員の育て方

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年7月号
[特集]
社会課題で儲ける!

  • ・総論 グローバリズムとどう折り合いをつけるのか
  • ・なぜ、よしもとは社会課題と向き合うのか 大﨑 洋(吉本興業共同代表取締役CEO)
  • ・茶葉から茶殻までバリューチェーン全体で価値を創造する 笹谷秀光(伊藤園顧問)
  • ・持続可能な経営は、持続可能な地域が支えている キリンホールディングス
  • ・人生100年時代の健康問題に取り組む ファンケル
  • ・世の中に貢献する中で商売を広げていく ヤマト運輸
  • ・社会課題を解決する金融モデルは、懐かしい過去に学ぶべき 吉澤保幸 場所文化フォーラム名誉理事

[Special Interview]

 芳井敬一(大和ハウス工業社長)

 創業のDNAに立ち戻り、オーナーの教えを伝承・実践

[NEWS REPORT]

◆史上最高益でも原価低減 豊田章男の「原点回帰」

◆成長戦略再考を迫られた富士通の苦境

◆市場規模はバブル前に逆戻り 規模より知恵を問われるビール商戦

◆7兆円M&Aを仕掛けた武田薬品の野望とリスク

[特集2]

 オフィス革命 仕事場を変える、働き方が変わる

ページ上部へ戻る