文化・ライフ

人生へのリベンジの意味でサッカー指導者の道に

 リオデジャネイロ五輪でメキシコ五輪以来、48年ぶりの表彰台を目指すサッカーU-23日本代表を率いる手倉森誠は、いわば、“時代に乗り遅れた男”である。

 高校卒業後、鹿島アントラーズの前身・住友金属工業蹴球団(当時JSL2部)でプレーしていたが、目立った活躍はしていない。

 同じ頃、フジタ工業サッカー部(JSL2部)でプレーしていた宮沢ミシェルは「手倉森? 中盤の前だったっけ? そのへんのポジションにゴツイのがいたなというのは覚えているな」と語っていた。

 念願だったブラジルへのサッカー留学こそ果たしたものの、チームに戻るとポジションはなかった。Jリーグ参入を見据え、JSL2部の本田技研工業から主力選手を引き抜いていたのだ。

 「僕としては面白くないですよ。“オマエに期待しているからブラジルに行ってこい”と言われ送り出されたのに帰ってきたら本田の選手ばかりになっているんですから。あの言葉は、いったい何だったのかと思ってしまったんです」

 サッカーへの情熱を失った手倉森はパチンコや競馬にうつつを抜かす日々。間もなくスタートするJリーグも「どうせ盛り上がるわけないよ」と高をくくっていた。

 ところが、である。Jリーグは空前のブームを呼び、選手たちは一夜にしてスターとなった。

 「オレって何てバカなことしたんだろう」と悔やんでも、もう後の祭りである。

 同級生の井原正巳、中山雅史は日本代表でも活躍し、自分だけが取り残されたような気分になった。

 「このままでは終われない」

 28歳で引退し、指導者への道を歩み始めた背景には、人生へのリベンジの意味もあった。

 「NEC山形でプレーしていた時、監督の石崎信弘さんから“W杯を経験した選手たちが指導者になったらオマエかなわないよ。(コーチを)やるんだったら、今しかないぞ”と言われたからなんです」

 手倉森が率いるU-23は“谷間の世代”と言われる。成功体験の少ない選手たちを“その気”にさせるにはアメとムチがいる。

 手倉森は“谷間”どころか“谷底”を経験した指導者である。だからこそ彼らの気持ちが分かるのだと、本人は言う。

 「谷間の世代と言われる選手たちを谷間じゃなくすことが日本サッカー界にとっては必要なこと。彼らがどう変わってくれるか、そののびしろが楽しみです」

 指導者と選手がともに成長しているチーム――U-23には、そんな印象がある。

「世の中があって陸上界があることを知っている」

 正月の箱根駅伝で1977年の日本体育大以来、39年ぶりの完全優勝を果たした青山学院大の原晋監督も手倉森同様、“非エリート系”の指導者である。

 中京大学時代の実績と言えば日本インカレ5千メートルでの3位くらい。同大は関東学連に所属していないため、当然のことながら箱根を走った経験はない。パチンコ店の新台入荷の日に、一番最初に並ぶような学生だったという。

 地元の中国電力に入部し、陸上部に籍を置いたものの、故障もあって5年で現役生活に別れを告げた。それ以降の10年間はサラリーマン生活を送っていた。

 そんな原に高校時代の後輩から声が掛かる。

 「先輩、うちの駅伝を強化することになったのですが、監督をしてみませんか?」

 とはいえ、青学大は箱根から28年も遠ざかっていた。原によれば「ゼロからというよりもマイナスからのスタート」。箱根出場を果たしたのは監督就任5季目だった。

 「上意下達の指導では、もう選手たちは付いてきません」

 伝統やしきたりを重んじる陸上界にあって、原は自他ともに認める「異端児」である。

 「通常、陸上界で頑張った方が監督になるのが一般的な流れだと思うんです。

 だけど、私は10年間、普通のサラリーマンをしていました。世の中があって陸上界があることを知っている。

 世の中(サラリーマン)を経験させていただいたことが、今、陸上界で新しい風を吹かせていることにつながっている。私にすれば、普通のことをやっているだけなんですけどね」

 そして、こう続ける。

 「僕自身、そんなに真面目な学生じゃなかったから、今の学生たちの気持ちが分かる部分もある。ちょっと息抜きしたがっているな、遊びたがっているな、とか。要所要所でアドバイスできるのは昔の経験があるからです」

 手倉森しかり原しかり、ある意味“らしくない”指導者が好チームをつくっている事実に、時代のニーズを感じる。(文中敬称略)

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