政治・経済

経団連の榊原定征会長(東レ最高顧問)の2期目がスタートした。同時に注目されるのは、来秋にも決まる次期会長の人事だ。近年の経団連会長は本命に落ち着かず、意外な人物が選ばれることが続いている。そして今回も、どうやら迷走しそうな雲行きだ。文=ジャーナリスト/中村俊志

トヨタの固辞でまたもや迷走

 経団連会長は2期4年が慣例。2014年6月に就任した榊原定征会長の任期は、18年6月までとなる。次期会長は17年末にも決まるが、候補となるには副会長に選ばれる必要がある。つまり、この6月に発足した新体制の副会長16人と、来年6月に補充される見込みの3~4人の副会長が後継候補だ。

 ここしばらく、次期会長の本命はトヨタ自動車の豊田章男社長と見られていた。20年の東京五輪という大きな節目を迎える経済界のリーダーは、トヨタがふさわしいというのは衆目の一致するところ。それを裏付けるかのように、経団連の「東京オリンピック・パラリンピック等推進委員会」の委員長は章男氏が務めている。

 トヨタからは内山田竹志会長が経団連副会長に選ばれているが、任期は来年6月まで。後任として章男氏が副会長になり、榊原会長の後を受けて財界トップに就任するというのが、関係者が思い描くシナリオである。

 しかし、どうやらこれは実現しそうにない。トヨタ側に辞退の意志が強いことが分かってきたからだ。

 今回のトヨタのケースは、単なる辞退ではなく「早過ぎる」というのが理由である。経団連会長は、出身企業では会長か相談役になるのが通例。章男氏は現職社長である。簡単に言えば「次の経団連会長は駄目。次の次なら受けてもいい」というのが章男氏の父で、自らも経団連会長経験者である豊田章一郎氏はじめ、トヨタの意志なのだ。

 こう言われると、周囲も無理強いはしにくい。かくて大本命が消え、次期会長選びは振り出しに戻った。

 経団連の力が低下したといわれて久しい。それは一面では事実なのだが、会長のなり手がいないわけではない。相変わらず大手企業の社長、会長経験者にとって財界トップは“あこがれ”のポストだ。会長までは届かないにせよ、その手前の副会長や副議長など経団連の役職を望まない企業はないという。

 にもかかわらず、近年の経団連会長選びは混迷の色が濃い。02年、旧日経連と統合して発足した時の初代会長は奥田碩氏(トヨタ会長=当時)。大本命として、旧経団連の今井敬会長(新日鉄会長=当時)からバトンを受けた。奥田氏の後任会長の御手洗冨士夫氏(キヤノン会長)は財界銘柄としては新顔であるものの、誰もが納得する企業経営の盤石さで支持された。

 しかし、その後がいけない。御手洗会長は何人もの有力候補がいた中、大穴だった米倉弘昌氏(住友化学会長=当時)を後継に選んだ。この時に本命のひとりとされた三村明夫氏(新日鉄会長=当時)は現在、日本商工会議所の会頭として活躍中だ。

 米倉氏は後継として、業績不振の日立製作所を立て直した川村隆氏を思い描いたが、同氏は日立の再建が途上にあることを理由に固辞。川村氏を説得できなかった米倉氏は、現職の副会長から次期会長を選ぶという慣例を守れず、副会長OBである東レ会長(当時)の榊原氏に後を託した。榊原氏が自ら「青天の霹靂」という人事だった。

 財界には、国家組織のような指示命令系統があるわけではない。手順を踏み、合理的な理由を明確にして支持を取り付けることで求心力を維持する。経団連は長年、そうして存在感を発揮してきた。意外な人事が続くと有力企業のベクトルはまとまらなくなる。

 榊原経団連は一貫して安倍晋三政権との近さをアピールして財界をとりまとめる努力をしている。とはいえ発足時の人事面での混乱は、財界への影響力低下として現れている。

水面下で進む駆け引き

 本命になるはずだった豊田章男氏が早々に消えたとしても、後継候補は何人かいる。そのひとりが、三菱重工業社長の宮永俊一氏である。

 財界は戦前から、三井系企業が主流を占めてきた。経団連会長を経験した企業をみると、新日鉄と東京電力、キヤノンは中立。東芝とトヨタは三井グループだ。しかし住友グループから初めて住友化学の米倉氏が会長になったことで、三菱グループの中には「次は自分たちの番」という思いがある。

 実際に三菱グループは米倉氏の後継として、三菱商事の小島順彦会長(当時)を推したが、メーカーでなければダメという不文律に阻まれた。現在の榊原会長の出身企業である東レも三井グループ。三菱グループは、製造業の代表である三菱重工を候補に再チャレンジの構えだった。

 しかし、三菱重工の元の子会社である三菱自動車の不祥事に加え、重工本体も客船事業の失敗や、海外の発電プラントにおける巨額損害問題などで業績が悪化。「もはや財界活動をしている余裕はない」という声がある一方、開発中の小型ジェット機「MRJ」の事業を財界全体で後押しするためにも、経団連会長を目指せとの意見も出ている。

 もし宮永氏の線が消えるとなると、最有力候補は日立製作所会長の中西宏明氏。前任の川村氏が固辞しただけに微妙だが、中西氏本人は今のところ前向きだといわれる。次期会長人事の決着まで、しばらくは水面下での駆け引きが続きそうだ。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

 昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

201712EVEREDIA_CATCH

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年1月号
[特集]
敗者復活戦

  • ・負けから何を学び、糧にしていくか
  • ・存亡の危機を乗り越えた「熱海」の逆転ストーリー
  • ・あの名門ブランドが、帰って来た(アイワ、ビクター)
  • ・「なるほど家電」を牽引する大手家電メーカーの早期退職組(アイリスオーヤマ)
  • ・関ケ原で敗れた立花宗茂はなぜ、返り咲くことができたのか
  • ・市江正彦(スカイマーク社長)
  • ・加藤智治(ゼビオ社長)

[Special Interview]

 三毛兼承(三菱東京UFJ銀行頭取)

 「旧来の商業銀行は構造不況業種 大変革で信頼と強さを持ち続ける」

[NEWS REPORT]

◆カードローン規制で稼ぎ頭を失う地方銀行の明日

◆12年ぶりのアイボ復活 名実ともにソニー再生は成るか

◆終身権力者も視野に入った習近平が恐れるクーデター

[特集]クルマが変わる、社会を変える

・これから始まる全自動運転 OSを制するのは誰だ!?

・車載電池の性能が左右するEV時代の覇権戦争

・冷える鉄鋼、潤う化学 クルマが変える産業構造

・トヨタ・日産・ホンダ・マツダ 主要4社「わが社の戦略」

ページ上部へ戻る