マネジメント

7月20日、東京・大手町のオフィス街のど真ん中に塔の日本旅館「星のや東京」がオープンした。現在の東京で日本旅館を成功させることは、星野リゾートにとっても、日本のホテル業界にとっても試金石となる。代表の星野佳路氏にその意義を聞いた。聞き手=本誌/村田晋一郎

 

星野リゾートが東京ど真ん中に日本旅館をつくった理由

 

東京でも日本旅館が戦える姿を見せる

―― まずは「星のや東京」への意気込みをお聞かせください。

星野 日本旅館の数がなぜ今減っていっているのかと言いますと、決して日本旅館の潜在力が落ちているわけではなく、進化させるべきところを進化させてこなかったことに理由があると思っています。

 今、日本人のライフスタイルも大きく変化していますし、西洋ホテルのほうが機能面でも利便性でも高まってきていて、向こうに移っていっているというのが、過去20年、30年間の日本旅館の現実だと思うんですね。なので、きちんと変えるべきところは変えて、守るべきところを守って、日本旅館をもっと進化させていこうと。これが私たちのストーリーで、そのためには東京が必要なんです。

 海外に目を向けて、日本のホテル会社が海外に進出するときには「なぜ、日本の運営会社が来るのだろう」という、ストーリー性や納得度が大変重要です。日本のホテル業界の将来を考えたときには、日本文化は切り離せないため、そこを生かすしかない。

 日本文化を生かしたホテルと言えば、日本旅館です。日本旅館を進化させ、東京という世界の有名ホテルが立ち並んでいるところでも戦える姿を見せる。東京で成功することを通して、やっと海外に日本旅館が出て行けるルートを探れるという思いがあります。

 ですから、「日本旅館を東京に」ということは、われわれにとってはゴールではなく、日本旅館を海外で運営し、日本旅館というスタイルをホテル業界のカテゴリーにしていくためには避けては通れないステップだと思っています。

星のや東京

オフィス街のど真ん中にオープンした星のや東京

 

オフィス街だからこその景色を見せる

―― 東京のど真ん中でやることに意義があるという発言もされていますが、大手町の立地はあまりにもオフィス街のど真ん中という感じですが。

星野 いや、オフィス街であればあるほど、私は東京の日本旅館としては良いと思っています。日本橋に近く、皇居に近い、東京駅にも近いことは、立地としては非常に恵まれていると思います。そして周りは高層のオフィスビルに囲まれている。

 日本旅館というのは、どの場所にあっても、その場所らしさを表現しています。軽井沢に行けば自然の中ですし、沖縄に行けば琉球文化の中にある。東京の象徴はやはり大都会、オフィスビルなんです。

 オフィスビルが林立する中でビジネスマンが夜遅くまで電気を煌々と明るくして働いている。これが東京の風景なんですよね。ですから、部屋から見える風景もオフィス街であることが大事だと思っています。

 

星野リゾートが目指す「本質的に快適な日本旅館」

 

ホテルとしての質を高めてファンを増やす

―― 旅館らしさが外国人に受け入れられるのかという疑問もありますが。

星野 外国人にとって、建物の中に入って靴を脱ぐこと、大浴場に入るときに裸になること、それからセミプライベートな空間で知らない人と空間を共にすることについて、いろんな抵抗感があると思います。

 ただ私が思うのは寿司の広がりです。1980年代に私は米国に留学していましたが、当時のクラスメートは、「私はローフィッシュが食べれない」と言っていました。その生魚を食べないと言っていた人たちが30年たって久しぶりにみんなで会うと、なぜか寿司が当たり前の食べ物になっていて、寿司のファンになっている。今や世界中の大都市のあちこちに寿司屋ができていて、わたしたちの想像を超える寿司までできています。

 日本旅館もそういう側面があると思っています。結局、本質的にお寿司は文化として非常に完成度が高かったし、料理として美味しかった。

 ですから今、われわれが問われているのは、外国人に抵抗感があるかないかではなく、日本旅館というもの自体が本質的に快適なホテルであるかどうかということだと思います。

 本質的に快適なホテルであれば、日本に行ったから日本旅館に泊まるというのではなく、快適で上質で良いおもてなしがあるから日本旅館に泊まろうという人たちが必ず増えてくると思うんです。本質的にホテルとしての質を高めていくことが大事で、それが日本旅館を世界のホテル業界の中で一つのカテゴリー、一つのスタイルにすることになると思っています。

 今、抵抗感があることを全部なくしていくと、恐らく普通のホテルになってしまいます。東京には世界中のホテル会社がやってきて、その結果、コモディティー化が起こりました。コモディティー化の中に埋没することは、競争優位の状態ではないですから、私たちは日本旅館を好きである、快適であると思うファンを作っていくと。これが私たちがやらなければいけないことだと思っています。20160802_HOTEL_HOSHINO_P003

―― 宿泊客のうち日本人と外国人の比率はどれくらいを想定していますか。

星野 特に想定はしていません。私がとても気にしているのは、日本人に支持されない日本旅館は最終的には海外に行けないということです。変えるべきところを変え、守るべきところは守るけれども、最終的にそれは日本人に支持してもらえるような変え方が大事だと思っています。

 ここまで変えたら日本の文化じゃないというところまで変えてはいけないし、ここは変えないと現代の日本人でも不便だというところは変えなければいけません。日本人の満足度をしっかり確認しながら改善していくことが、あるべき日本旅館の姿に近づいていくステップだと思っており、そこは意識していきたいと思っています。

東京の旅館と地方の旅館の違い

―― 星のや東京が今までの日本旅館と変わってくる部分は何でしょうか。

星野 今までの日本旅館と違う部分は、わたしたちがやってきたことの延長線上にあるので、これまでのやり方とあまり違いはありません。

 ただ一つ言えることは、東京の特殊性です。例えば津軽や出雲、それから京都に行くと、地域文化が色濃く根付いています。ですから地域をテーマにすることが簡単でした。

 しかし東京は日本中から何でも揃い、意外に東京のモノを揃えるというのが難しい。そこが今回の大きなテーマで、東京ということにあまり拘らずにオールジャパンで、日本中で良い物を集めていくことに拘わりました。

 そこが色濃く地域性を出していった地方の旅館と、東京に位置したときの立ち位置の大きな違いだと感じています。

「達人」が生み出す観光イノベーション

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

Eコマースを中心に成長を続けるBEENOS。その創業者である佐藤輝英氏は、5年前に社長を退任。4年前には取締役を辞任し、経営から退いた。それまで起業家として生きてきた佐藤氏が次に選んだのは起業家支援。BEENEXTを設立し、新しいイノベーションを起こそうとしている起業家への投資を始めた。その中でも投資の中心と…

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る