[連載] 温故知新
「ポケモンGO」は所詮、あだ花か 任天堂のゲーム哲学――岩田 聡・任天堂元社長インタビューより
2016年8月24日

今、街に出れば老いも若きもスマホ片手に「ポケモンGO」に夢中になっている。ゲーム開発を行ったのは米国のベンチャー企業だが、もちろんそこには任天堂も絡んでいる。昨年、急逝した岩田聡氏は、天国からこの盛り上がりをどんな思いで見ているのだろうか。過去の貴重なインタビューから、岩田氏のゲームに懸ける思いを振り返る。(『経済界』2009年1月13日号)
必需品でないものが選ばれるためには
── ゲーム機は携帯電話と競合するといわれていますが。
岩田 お客さまの有限な時間を使っていただくという意味においては、いろいろなものと競合しております。単純に携帯電話だけではなく、テレビや娯楽施設などさまざまなエンターテインメントの中から、あえてビデオゲームを選んでいただく理由付けをしなければなりません。ですから、携帯電話に限らず、ソニーさんやアップルさんという狭い範囲ではなく、お客さまの面白いと思うものの中でトップグループにいられるかどうかが問題なのです。
もともと必需品ではないので、携帯電話で遊べるゲームと大差ないものしか出せなければ負けるわけです。携帯電話はもう必需品のように皆さまお持ちなのですから。圧倒的に面白いと思ってもらえなければ、不便な思いをしてまで別のハードを買ってもらえません。
── 必需品ではないゲーム機が選ばれる条件は。
岩田 お客さまに、いまだかつてない驚きや喜びを感じていただけるかどうかがすべてです。娯楽すべてに通じることだと思いますが、未知の魅力を出さなければ受け入れてもらえません。手に取ってみて「何だ、この程度か」と失望されてはいけないのです。DSやWiiが爆発的に売れたのは、ビデオゲームとは縁がなかった人たちが「これって面白いじゃない」と手に取ってくださったからです。

岩田 聡(いわた・さとる) 任天堂社長(当時)〈1959~2015〉北海道生まれ。東京工業大学工学部卒業後、HAL研究所に入社し、ゲームプログラミングの世界に入る。その後、社長に就任。2000年に請われて任天堂に入社。02年に42歳で社長に抜擢された時はニュースになった。その後も「ニンテンドーDS」や「Wii」などの大ヒットを生み出すが、15年急逝。
ビデオゲームの売れ行きは、景気動向の影響を受けていません。景気動向よりも、われわれのお客さまへの提案が魅力的だったかどうかが問題なのです。
米国のゲーム機の10月の販売動向が出ました。Wiiが先月80万代売れました。これは年末商戦を除いて、1カ月に売れたゲーム機の最高販売台数なのです。この大不況の影響も関係がない証左です。ただ、お客さまに驚きがなければ、景気がいくら良くても売れません。
── いつも驚きを提供しなければいけないとは大変な商売ですね。
岩田 全くそのとおりです。素晴らしい商品を作っても、飽きがきて半永久的に売れることはありませんから、強迫観念は常にあります。世の中のほとんどの商品はマーケティングがあり、お客さまの要望に応えるものを出すのが常ですが、われわれは驚きを提供するのですから、(お客さまの意見を)聞くことは無駄になります。
── 必需品でないゲーム機に驚きを与えるために必要なことは。
岩田 アイデアのほとんどは失敗します。その中で数少ない成功があるのは、お客さまがニコニコ喜んでくださる、というインセンティブがあるからです。とにかく、喜んでもらいたいと思う情熱から作り上がるのだと思います。必需品でないゲーム機が社会に役立つことは、大きな動機付けです。お客さまに受けるまで、とにかく人間を観察し続けて、試行錯誤を繰り返すのです。
── 日米欧以外の海外展開は。
岩田 米欧が想像以上のニーズがあったので、新興国などに力を割くことができませんでした。われわれの生産が追いついていけば、アジア、ロシアと力を入れるつもりです。
── 娯楽は万国共通だと。
岩田 基本的には人間の本質は共通だと思います。マリオをいちばん初めに作った時には、海外で受けることなど考えていませんでしたからね。
(構成/本誌・古賀寛明)
好評連載
年収1億円の流儀
一覧へ起業して得られる経験・ノウハウ・人脈は何ものにも代え難い。
[連載]年収1億円の流儀

[連載]年収1億円の流儀
なぜ両親との縁を切り、破天荒ともいうべき人材採用をしたのか。
[連載]年収1億円の流儀
人をうまく使うには、相手の立場に立つことだと16歳の身で悟った。
[連載]年収1億円の流儀
人生の成否はDNAで決まっている。要はDNAの使い方だ。
[年収1億円の流儀]
儲かるからではなく、「楽しいから」やる、と言い切れるか。
銀行交渉術の裏ワザ
一覧へ金利固定化の方法を知る
[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)
定期的に銀行と接触を持つ方法
[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)
メーン銀行との付き合い方
[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)
金利引き上げの口実とその対処法
[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)
融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける
元榮太一郎の企業法務教室
一覧へ社内メールの管理方法
[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)
タカタ事件に学ぶ 不祥事対応
[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)
「ブラック企業」という評価の考察
[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)
コミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性
[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)
女性の出産と雇用の問題
温故知新
一覧へ[連載] 温故知新
「もっと、利益の上がる業界にしていこう」
[連載] 温故知新
金持ちだけど下品な日本人――小山五郎×長岡實
[連載] 温故知新
忙しい時のほうが、諸事万端うまくいく――五島昇×升田幸三
[連載] 温故知新(第19回)
最大のほめ言葉は、期待をかけられたこと--中條高德
本郷孔洋の税務・会計心得帳
一覧へ税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」
[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)
グループ法人税制の勘どころ
[連載] 税務・会計心得帳(第17回)
自己信託のススメ
[連載] 税務・会計心得帳(第16回)
所得税の節税ポイント
[連載] 税務・会計心得帳(第15回)
固定資産税の取り戻し方
子育てに学ぶ人材育成
一覧へ意欲不足が気になる社員の指導法
[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)
人を育てる「言葉」とは?
[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)
女性社員を上手に育成するコツ
[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)
部下の感情とどうつきあうか
[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)
“将来有望”な社員の育て方
ビジネストレンド新着記事
注目企業
一覧へワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)
昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

新社長登場
一覧へ「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡
創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

イノベーターズ
一覧へ老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治
フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

大学の挑戦
一覧へ専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長
2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

企業eye
一覧へ不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事
ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…
