マネジメント

少子高齢化、人口減少が本格化し、先の見えない不安感が漂うわが国日本。混沌とした時代を生きる指標はどこにあるのか。本企画では神田昌典氏を橋渡し役に、激動の時代をくぐり抜けてきた企業経営者たちの「知」を、次世代を担うビジネスパーソンに伝えていく。前回に引き続きクレディセゾンの林野宏氏を迎え、独自の発想を生むバックボーンとなった子ども時代の読書体験などについて語ってもらった。構成=本誌/吉田 浩 写真=森モーリー鷹博

スマホの普及と無限の可能性

神田 前回、クレジットカードはシステムのかたまりだという言葉がありました。今でいうフィンテックの走りともとらえられそうです。それを踏まえて、今これだけフィンテックが話題になっているホットな時代に、もしも林野社長が30代のバリバリの働き盛りだったらどんなことをされているでしょうか。

20160906KANDA_P01

(りんの・ひろし)1942年京都府生まれ。65年埼玉大学文理学部卒業後、西武百貨店(現・そごう・西武)入社。その後、クレディセゾンに。常務、専務を経て2000年社長に就任。08年まで経済同友会副代表幹事を務めるなど、公職も多い。

林野 おっしゃるとおり、フィンテックには無限の可能性があるでしょうね。例えばスマホは、東南アジアでものすごい勢いで普及が進んでいます。こうなると、これまでのように電話線を張る必要がない。さらに言うと銀行が要らない。スマホがあれば、そこでマイクロクレジットは成立します。実は、ベトナムやインドネシアでは、銀行口座を持っている層は人口の20%程度なんです。大多数の人は銀行口座を持っていないので、従来の考え方だとクレジットカードも持てませんが、スマホ1つで状況が一変します。今ベトナムでは、地元の銀行と一緒にHD SAISON Financeという会社を立ち上げて、オートバイや家電などをショッピングクレジットで販売しているんです。シンガポールではバーチャルプリカの会社に出資し、経営にも参画しています。

神田 ショッピングクレジットやバーチャルプリカというものは、クレジットカードの進化形になるのでしょうか。

林野 むしろ古い形なんです。ショッピングクレジットは日本では古くからあったやり方です。それを今、東南アジアに持ちこんでいる。東南アジアでは銀行への信頼感が思った以上に低いのです。口座にお金を置いておくことに抵抗感がある人が多い。ならば銀行引き落しを介さない方法が親しみやすく浸透するだろうと考えています。

神田 スマホという新しいものが普及する中で、あえて古いやり方を導入するわけですね。林野さんからは、今まさに働き盛りのようなエネルギーを感じます。

日本のノウハウと現地の慣習の融合

神田 東南アジアだけでなく、例えば、アフリカなどの市場に興味はないのでしょうか。

林野 当然、アフリカもあり得ます。確かに今は東南アジアに力を入れていますが、どこに力を入れるかはあまり意識していません。私は現地法人を作るにしても、株式の過半数を持つことは意識しません。従業員も経営もできるだけ現地の人に任せたい。ベトナムの会社は今、従業員が5千人以上ですが、日本から送りこんでいるのはたった3人です。日本のノウハウを現地に持ちこむことが目的だとも言えます。それができたら、3人の日本人も引き上げていい。

神田 東南アジアなどでは、日本企業が進出して苦戦しているという話をよく聞きます。

林野 恐らく、日本人が現地で一所懸命働いて、日本のやり方を押しつけるからではないでしょうか。グローバル化だと言っても、日本のやり方を押しつけていては何にもなりません。日本のノウハウは持ちこみますが、できるだけ現地のやり方、国状、ビジネスの慣習などを踏襲する必要があります。日本で培ったノウハウと現地のやり方が融合しなければなりません。

神田 それと同時に、よほどの信頼関係ができていないと難しいですよね。

林野 それは実績で示すしかありません。ベトナムで信頼関係ができているのも、うまくいっているからこそです。ベトナムでの成功が周辺国にも伝わることで、ほかの国でもやりやすくなるものと期待しています。

小学生のころから東証の銘柄を覚えていた

神田 現地の人に任せたり、ショピングクレジットを導入したりという発想の根本には、人を信用するという考え方が根本にあるように思えます。

林野 基本的に人は善人だと思っています。何かの事情で悪いことをしてしまうことはあるかもしれませんが、最初から悪人はいないと思っています。

神田 その考えの基礎になるような経験があるのでしょうか。

林野 小学生の頃から、いろんな人と触れ合ってきましたが、基本的に善人ばかりでしたね。例えば仕方なくカードの支払いを滞納してしまうこともあるでしょう。どんな人でも苦しいときがあって、好き好んで悪いことをするような人は少数派ではないでしょうか。

神田 きっと子どもの頃からの人との触れ合いや得られた知識が積みかさなってそういうお考えになっているのでしょうね。そこで今、人に薦めたい、あるいはお孫さんに薦めているような本はありますか。

林野 まずは世界文学全集のようなものですね。私の父親は非常に読書好きで、小さい頃から家にたくさんの本があったんです。たくさん読書をしましたが、ワクワクする本がたくさんありました。例えば『ファーブル昆虫記』。フンコロガシのエピソードがあるのですが、たかが虫のことでも、極めれば人類史に残るような業績になる。虫の生態にワクワクすると同時に、そのことに感銘を受けました。ほかにも『十五少年漂流記』『シートン動物記』『トムソーヤの冒険』なども印象深かった。

神田 そういった本は、お父さまの書庫にあったのですか。

林野 そういう本もありましたし、当時、地元の書店が月刊誌を届けてくれていて、シリーズものの本を一緒に届けてくれることもありました。読みたい本が手が届くところにあったという環境には感謝しています。

神田 林野社長は子どもの頃から東証の銘柄を覚えておられたという話があるのですが、本当でしょうか。

林野 家に四季報があって、読書感覚で目を通していたんです。大体の上場企業の社長の名前くらいは覚えていましたね。当時、カタカナ社名の電機系の会社が増えていて面白かったことを覚えています。野球選手の名前をほとんど覚えているという子どももいるのと同じようなものです。それがたまたま上場企業だっただけです。

夢中になれることを見付けさせるのが教育

神田 私は読書会を開催していて、いろんな経営者に聞いたお薦めの本を図書館に寄贈したいと考えています。そこで、林野社長のお薦め一冊を教えていただきたいと思うのですが。

林野 男の子なら『十五少年漂流記』、女の子なら『赤毛のアン』ですね。どちらもワクワクして読みました。中学生くらいにはコナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』や『アルセーヌ・ルパン』といった推理小説にも夢中になりました。松本清張を片っ端から読んだりもしました。

神田 ビジネス書はあまり読まれないのですか。

林野 学生の頃ですから、あまりビジネス書は読みませんでした。中学生の頃は伝記ものも読みました。キュリー夫人だったり、エジソンだったり、モーツァルトだったり。そういった伝記ものを通して「天才はいない」と感じました。例えばモーツァルトだって、父親の友人にハイドンがいて、その影響を大きく受けている。ピカソだって、先人の影響を受けてそれを極めていってオリジナリティーが生まれている。初めから天賦の才でやった人はごく少数しかいないでしょう。環境や周囲の人の影響は大きい。そして努力が大事だと感じました。

神田 物事を見聞したときに、どこに着眼するかは大事ですよね。『ファーブル昆虫記』でもフンコロガシの面白さだけではなく、「それを極めればトップになれる」ということだったり、そうした視点が興味深いです。先ほどの海外事業展開の話にしても、国状を踏まえて、日本では古いものを持ちだしてくるのは、まさに着眼点だと思います。

林野 私は最新のフィンテックには詳しくないんです。そういうことは、若い人のほうがずっと詳しくて専門性が高い。新しいことをするには若い人のほうが向いています。だから私がやるなら、「古いことをアレンジする」というか、自分でできることでうまくいく方法を見付けだすことだと思います。一方で、これからの時代にフィンテックでビジネスを変えていく人を輩出していくのも私の仕事の一つです。

神田 次の世代を育てるために、特に林野社長が子どもを教育するなら、何をされますか。

林野 ひと言で言うと、「夢中になれることを見付けさせる」ですね。ほかの人と自分は何が違うのか、何が得意で、夢中になれるものは何か。それを見付けるのが小学校であり、磨いていくのが中学校です。野球のイチロー選手やサッカーの本田圭佑選手にしても、小学校の頃に「一流のプロ野球選手になる」「ワールドカップに出る」と作文に書いている。小学校で自分が夢中になれるものを見付けたらそれを書いておけば忘れないし、続けていける。そういうことをきちんと伝えていきたいですね。

(かんだ・まさのり)経営コンサルタント、作家。1964年生まれ。上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済部に勤務。戦略コンサルティング会社、米国家電メーカー日本代表を経て、98年、経営コンサルタントとして独立、作家デビュー。現在、ALMACREATIONS 代表取締役、日本最大級の読書会「リード・フォー・アクション」の主宰など幅広く活動。

「いたずら」の精神でビジネスに勝利する―神田昌典×林野宏(前編)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応のプリンシプル

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

会員制ホテルなどを展開するリゾートトラストは4月1日付でトップが交代し、創業者の1人である伊藤與朗会長は代表取締役ファウンダーグループCEOに就いた。共同創業者の伊藤勝康社長は代表取締役会長CEOとなった。伏見有貴副社長は代表取締役社長COOとなり、創業45年で初めて代表取締役3人体制となった。聞き手=榎本正…

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る