マネジメント

多分野にわたる専門技術を1つのパッケージに

 新築分譲マンションの新聞折り込みチラシを思い浮かべてみてほしい。

 物件の魅力を語るコピー、間取り図、写真、そして、小さな文字でぎっしり詰め込まれた情報、情報、情報の山…。その制作をまるごと引き受けているのが、VRSサービス。ライバルの追随を許さず、業界トップを独走中だ。

 こうした販促ツールを作り上げるには、測量、設計、広告など多分野の専門家の技術、知識、知恵が必要。したがって従来は、測量会社が測量データを、設計事務所が図面を提供し、広告代理店が制作を担当するといったように、分業体制で作られてきた。

 そのためディベロッパーは、各専門業者にそれぞれ業務を依頼しなければならず、時間も労力もかかる。しかも、とかく技術者から提供される情報は、専門用語が多く、難解で、そのままでは使えないことが多い。要するに、非効率的な作業を強いられてきたのだ。

 VRSサービスが提供する、マンションの販促ツール制作のオールインワン・パッケージは、このような不便を一挙に解消したのである。

 関心の高い「眺望」と「日当たり」を分かり易く

VRS1 社長の東田昇氏は、リクルートコスモス(現・コスモスイニシア)出身。一級建築士、土地家屋調査士の資格を取得し、33歳で独立し、2005年にVRSサービスを設立した。

 オールインワン・パッケージは、東田氏自身が設計と測量の2つの専門分野に通じ、なおかつ不動産を販売する立場だったことで、生まれるべくして生まれたとも言える。現場のニーズをよく知っていて、しかもそのニーズに応える技術を持っていたのだから。

 すべての業務を自社で完結させるというのが、パッケージ開発当初からの同社の方向性。社内に着実にデータとノウハウを蓄積していくためである。

 現在、同社が抱えている資格ホルダーは、一級建築士、土地家屋調査士、測量士、CADデザイナー、CD・3Dデータデザイナーなど。このプロ集団が、現地測量から、日影計算、眺望写真撮影、ムービー撮影、ツール加工までを一気通貫で請け負う。受注するとまず建築現場周辺の建物を測量し、街全体の三次元の立体地図を作成。そこに計画物件のデータを合体し、コンピュータでさまざまな解析を行い、各種ツールに仕上げていく。

VRS3 同社の“売り”は、お客様の関心が最も高い、眺望と日当たりについて、わかりやすく説明できることだ。

 眺望については、「フロアビューチェッカー」というツールを使う。ストリートビューのように計画物件からの眺望を360度のパノラマデータで表示することができ、周辺環境ムービーと眺望写真を合成して作成したCGでは実際に部屋にいるかのような体験をしてもらえる。

 日当たりについては、「サンシャインムービー」というツールを使う。日影の動きがわかるムービーで、マンション各戸ごとの、地形や周囲の建物が及ぼす影の様子を確認することができる。特定の日、特定の時間にどのような影ができるのかも瞬時にわかる。

 ツールにはほかに、太陽高度を視点とした建物の様子を示す「ソーラーアイビュー」や、物件の適切な値付けの一助となる「値付け用物件データ」などのラインナップがある。

ライバル不在も“独り勝ち”は目指さず

 マンション・ディベロッパー向け販促ツールにおけるVRSサービスのシェアは40%と、群を抜いてトップだ。いまや同社のツールを使うことは、業界標準になっていると言っても過言ではない。

 測量には登記法、設計には建築基準法、広告には著作権法など、各業界には多岐にわたる関連法規があり、業界用語も異なる。そのため測量・設計・広告をワンストップで提供することは容易なことではなく、同様のサービスを提供するライバル会社はいまだに現れていない。

 しかし同社は、決して“独り勝ち”しようとは考えていない。

 それを物語るように、業界トップシェアを独走するようになったころ、同社は、保有するデータをすべてオープンにした。パンフレットに掲載した眺望写真・画像などを、再販せず、無料で提供することにしたのだ。

 東田社長は自らを“データサプライヤー”と位置付ける。「同業者に、『VRSサービスが入っている現場だったから、無料でデータを借りられてラッキー』と感じてもらえればいい。それがクチコミで宣伝にもなるはず」というのだ。

 現在は、中古マンション向け販促ツールの開発が進行中だ。新築マンションとは異なり、こちらは専らインターネット・マーケティングの分野になる。コンテンツの質はもちろん、顧客にとってのわかりやすさ、使いやすさにこだわり、「ここで探そう!」と思ってもらえるWEBサイト作りを目指していく。

新しい価値の創出ポイント

 同社のクレドには、「私たちのミッションは、最先端の技術を使って、不動産業界にもっとわかりやすいツールを提供することです」と書かれている。

 「ディベロッパーやお客様は技術的な成果物を求めているのではないということを、肝に銘じなければならない。物件の価値を伝えるためにどう工夫をこらすのかということが、事業を推進する上でのわれわれの評価基準です」と東田社長は言う。

 ディベロッパーやエンドユーザーへのわかりやすい情報提供を目指し、多分野にわたるデータと専門技術を集約したことが、他社にはマネのできない同社の強みとなっているのだ。

(かんだ・まさのり)経営コンサルタント、作家。1964年生まれ。上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済部に勤務。戦略コンサルティング会社、米国家電メーカー日本代表を経て、98年、経営コンサルタントとして独立、作家デビュー。現在、ALMACREATIONS 代表取締役、日本最大級の読書会『リード・フォー・アクション』の主宰など幅広く活動。

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