政治・経済

三井住友トラスト・ホールディングス(HD)がトップ交代で迷走した。昨年11月末、現首脳陣の退任が報じられたが、トップ交代を発表したのは2月14日。約2カ月半、社内では旧住友信託と旧中央三井の暗闘が繰り広げられたのだ。市場では、メガ銀行との統合・合併も噂され始めた。文=ジャーナリスト/高橋怜史

金融庁が突き付けた“天皇”への三行半

20170321_MITSUITRUST_P01

 「HDの北村邦太郎社長と傘下の三井住友信託銀行の常陰均社長が2017年4月にも交代する――」と日本経済新聞が報じたのが昨年11月下旬。

 9年もトップに君臨し「天皇」といわれる常陰氏に対し、金融庁が“三行半”を突きつけたのだ。

 金融庁は近年、日本最大の機関投資家である信託銀行の経営モデルは「利益相反ではないか」と疑いの目を向けていた。信託銀行は、国内年金市場の過半数のシェアを握る巨大投資家にもかかわらず、企業向け融資などの銀行業務を兼営している。このため、企業に配慮し過ぎて、議決権行使など投資家の利益がないがしろにされているとみていた。

 金融庁は昨年2月から4カ月間、三井住友信託銀行を検査。6月中旬、同行に異例の「当局の所感」を突きつけた。

 「投資信託の販売や住宅ローンばかりを重視し、信託の本分をないがしろにしている。そして(常陰氏の)トップ在任が長く、ガバナンスに問題がある」という内容だった。

 金融庁は間髪を入れず、常陰氏を追い込んだ。10月に公表した金融行政方針の原案に「信託と銀行の兼営で生じる副作用を検証する」との文言を盛り込んだ。

 国内唯一の信託専業である三井住友信託銀行の在り方に「ノー」を突きつけたのだ。

 慌てた常陰氏は金融庁首脳に泣きつき、何とか名指しは回避できたものの、「(金融機関の)利益相反の管理やガバナンスを強化」との文言は残されてしまった。追い込まれた常陰氏は「トップ退任は避けられない」と判断したようだ。

 ところが、北村、常陰両社長の退任を報じた日経新聞の記事では後継の社長候補は示されず、2月14日にようやくHDの次期社長は大久保哲夫副社長(旧住友信託出身)、信託の次期社長は橋本勝副社長(旧中央三井出身)と公表された。

 現社長の退任報道から2カ月半も後継が決まらなかったのはなぜか。背景には、旧住友信託と旧中央三井の暗闘がある。

 当初、HD社長は旧中央三井出身の北村氏から橋本氏へ、信託社長は旧住友信託出身の常陰氏から大久保氏へという案が有力視されていた。

 14日発表の内容と逆の人事案で、HDと信託がそれぞれ同じ母体の出身者へバトンタッチする“穏当”なやり方だった。

 しかし、HDの取締役ですらない橋本氏をトップに据えることに社外取締役から異論が出た。そこで旧住友信託側は、別の旧中央三井出身のHD取締役をトップに据える人事案を諮ろうと動き始めた。

 これに対し、旧中央三井側は自ら推していた橋本氏がHDトップに立たなければ、「旧住友信託の傀儡になってしまう」と危惧。1カ月にわたって旧住友信託と旧中央三井のドタバタ劇が繰り広げられ、見かねた金融庁が「水入り」を打診した。

 北村氏と常陰氏の2トップによる調整の結果、HDと信託の社長を入れ替える案で決着。2月10日の指名・報酬委員会で内定。14日の取締役会を経てなんとか正式決定にこぎ着けたが、この2カ月半のドタバタ劇は、HD発足から約6年が経過しても旧行融和が進んでいない実態を浮き彫りにした。

銀行系列を超えた子会社の合併

 そして金融庁が同社のガバナンスに懸念を示したことも含め、三井住友トラストが単独で生き残れるのか、という疑問も浮上してきた。

 今年1月、三井住友トラストとみずほフィナンシャルグループ(FG)が、傘下の資産管理銀行を合併するとマスコミ各社に報じられた。

 みずほFGが54%出資する資産管理サービス信託銀行と、三井住友トラストが67%出資する日本トラスティ・サービス信託銀行の両行で、合併すれば、顧客から預かる信託財産は380兆円と、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)系列の資産管理銀行の約2倍となる。

 市場は、銀行系列を超えた「合併劇」と仰天し、将来的にはみずほと三井住友トラストの本体同士の「統合もあり得る」と色めき立った。

 みずほ関係者は「単なる臆測」と一笑に付すが、三井住友トラストと組んだメガ銀行は一気に規模を拡大できる。

 みずほと三井住友トラストの接近にやきもきするのが、三井住友トラストと「同根」の三井住友フィナンシャルグループ(FG)だ。歴史的に近い関係ながら「微妙」な間柄の三井住友トラストとの協調は最大の経営課題だからだ。

 もっとも、三井住友トラスト側は、みずほとの資産管理銀の合併について、「たまたま同じような規模の資産管理銀だったため。将来的に本体同士が一緒になるとすれば、三井住友FG」と打ち明ける。

 ただ、三井住友トラストをめぐっては、邦銀首位の三菱UFJFGも関心を持ち始めたとみられる。三井住友トラストは将来の「メガ銀行再編」の目玉になるかもしれない。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

リーマンショック後の2010年にスタートした柳前社長時代は大幅な合理化や新興国戦略を推進。経営改革に道をつけ、17年度は過去最高益を更新した。日髙新社長は、事業企画・経営企画や2輪事業の経験と豊富な海外経験を買われてバトンを受けた。売上高の約9割を海外が占めるヤマハ発動機のトップとして、改革路線を継続しつつ成…

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年11月号
[特集]
大丈夫? 御社の危機管理

  • ・サイバーセキュリティ後進国日本の個人情報流出事件簿
  • ・「リアル」「バーチャル」双方で企業を守るセコムとアルソック
  • ・南海トラフ地震、首都直下型地震は、今そこにある危機
  • ・「いつ来るか分からない」では済まされない──中小企業の事業継続計画
  • ・黒部市に本社機能の一部を移転したBCPともう一つの狙い(YKKグループ)
  • ・高まる危機管理広報の重要性 平時の対応がカギを握る

[Special Interview]

 大谷裕明(YKK社長)

 「企業の姿勢や行動が危機対策以上の備えになる」

[NEWS REPORT]

◆胆振東部地震で分かった観光立国ニッポンの課題

◆M&Aでさらなる成長を期すルネサスの勢いは本物か

◆トヨタは2割増、スズキは撤退 中国自動車市場の明暗

◆このままでは2月に資金ショート 崖っぷち大塚家具「再生のシナリオ」

[特集2]

 利益を伸ばす健康経営

ページ上部へ戻る