マネジメント

朝日新聞出版は2008年4月に朝日新聞社の出版部門が分社化して発足した。同社の看板雑誌『週刊朝日』は日本最古の総合週刊誌であり、このたび創刊95年を迎えた。長きにわたり雑誌・書籍を発刊してきた同社は、現在の紙メディアの状況にどう向き合っているのか。青木康晋社長に話を聞いた。

青木康晋・朝日新聞出版社長プロフィール

(あおき・やすゆき)1959年生まれ、愛知県出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、81年朝日新聞社入社。名古屋社会部などを経て、東京本社政治部記者。政治部次長、AERA編集長代理、週刊朝日編集長、be編集長、オピニオン編集長を歴任。東日本大震災の時には仙台総局長。さらに北海道支社長。2012年から朝日新聞出版代表取締役社長、現在に至る。(Photo:佐々木 伸)

朝日新聞出版の雑誌ビジネスの現状

 

―― 貴社のビジネスの現状は。

青木 当社の看板は雑誌で言えば、『週刊朝日』であり、『AERA』、それから月刊誌の『アサヒカメラ』です。週刊朝日は今年の2月25日で創刊95年を迎えました。AERAは来年に30周年、アサヒカメラは昨年が90周年でした。2016年の毎号平均印刷部数は、週刊朝日が15万部、AERAが10万部、アサヒカメラが3万1千部です。

 一方で、朝日新聞出版として独立してから特に力を入れているのが書籍です。既に売り上げは書籍が雑誌を上回っています。一つは新書で、『京都ぎらい』は昨年、新書大賞を受賞し、26万部のベストセラーになりました。もう一つは小学生向けの教育漫画『サバイバルシリーズ』、そして料理本や旅行ガイドなどの実用書。『食品の保存テク』は料理レシピ本大賞の準大賞に選ばれ、今11万部です。新書、教育漫画、実用書の3つが会社の売り上げを大きく伸ばしています。

―― 雑誌の展開は。

青木 なかなか厳しいですね。雑誌をどうやってサバイバルしているかというと、一つは増刊・別冊です。

 週刊朝日では、年4回出したサザエさん別冊が好調でした。昔からのサザエさんを雑誌形式にまとめ、1号当たり10万部ぐらい発行しました。単行本、文庫なども含め、累計でまもなく2千万部に達します。サザエさんは永遠のキラーコンテンツですね。

 AERAの別冊で最近売れたのは、昨年12月に出した猫別冊です。『nyAERA(ニャエラ)』というタイトルにして、全編で猫を扱っています。猫ブームもあり、大変好評で品切れになる書店が続出しました。

―― 週刊朝日やアサヒカメラが90年以上続いてきた秘訣は何でしょうか。

青木 一言で言うと、すべての商品は、お客さまの支持あってだと思います。本や雑誌の場合、お客さまは読者ですが、読者の方々の支持があったから100年近く続いたのだと思います。読者の方々が買ってくださる理由は、載っている情報、載っている記事が面白い、それから役に立つ。これに尽きると思います。ですから、面白くて役に立つことを心掛けてやってきた結果、生きながらえていると。

 また、朝日新聞の販売店「ASA」の存在も大きいです。週刊朝日もAERAも、3分の1は、新聞販売店が配ってくれています。新聞販売店経由で定期購読してくださっているお客さまが多く、それは他の出版社にはない強みです。いったん定期購読していただけると、長く読んでもらえますね。

 

ウェブでの先行配信が雑誌の売り上げ増に

 

―― 読者に支持される情報の提供について、ウェブとの競合はどのように考えていますか。

青木 当社は「dot.(ドット)」というニュースサイトを12年10月から独自にやっています。コンテンツは週刊朝日とAERAの記事が中心ですが、東洋経済オンラインさんやNHK出版さんなどいろんなところと提携をして、コンテンツをいただいたり、当社からも提供したりしています。このdot.を4月に大幅に強化します。

 現在月間で最大3800万ページビューですが、できれば春から記事の発信本数を2倍~3倍にしたい。そして発信量が増えれば、同じように広告収入も2倍~3倍にしていきたいと思っています。そのために、4月からウェブニュースの編集部はスタッフを2倍ないし3倍にします。

―― 紙媒体への影響は懸念されませんか。

青木 ウェブの発信を強めると紙が売れなくなると思う向きもないわけではないです。しかし、ウェブで発信することで紙の売り上げを増やすことにつながった例がいくつかあります。

 例えば、AERAから派生したファッション誌『AERA STYLE MAGAZINE』があります。ここで昨年3月にサッカーの三浦知良選手のインタビューを載せ、表紙も三浦選手に登場していただきました。記事をdot.でも配信して、それがヤフーのトップに載ったら、火がついて、紙のAERA STYLE MAGAZINEの売れ行きが通常の倍近くになりました。

 ウェブで三浦選手のインタビューはほぼ全文読めます。だから全文読んだ人がまた買った可能性もあるし、ウェブが入り口になって、AERA STYLE MAGAZINEの存在を知って、新しく買ってくださった人もいるという例がありました。

 アサヒカメラでは、今年の2月号で鉄道写真を撮る特集をやりました。そのほかに、インターネットで写真を無断使用された場合の損害賠償&削除マニュアルを掲載しました。ウェブではこの記事をメーンにリリースを流したところ、各ネットメディアが取り上げてくれ、反響を呼び、アサヒカメラの紙の売り上げが伸びました。

 こうした例に意を強くし、紙を増やすきっかけにしていこうと思い、ウェブニュースのサイトを格段に強化することにしました。二元論というか、ウェブが増えると紙が減るという考え方は違うと思います。

―― これは鉄道というコアなファン向けの特集号だから売れたのではないですか。

青木 鉄道特集は毎年やっていますが、今回は通常の売れ行きと全く違いました。実はあまりにも好評で、「2月号は売り切れて買えなかった」という声が多かったので、極めて異例ですが、次の3月号にも全く同じ記事を再掲載しました。これがまたよく売れました。雑誌で全く同じ記事を次の号にも載せることは、まず聞いたことがありませんよね。ですから、紙とウェブは共存性があるのではないかと思います。

 

正確性と信頼性のない媒体は滅びる

 

20170418ASAHI_P01―― ウェブに関連して、昨年のキュレーションサイトの問題はエポックメーキングな出来事だったと思いますが、ウェブと紙の在り方については。

青木 あの問題から何をくみ取るかが重要だと思います。これだけ情報が氾濫している中で、わたしたちは、信頼できる確かな情報を求めている人がたくさんいるということをあらためて認識しました。

 だからむしろチャンスだと思っています。週刊朝日が95年続いた理由として、読者の支持あってのことだと申し上げたように、朝日の出す情報は正確だとか、信頼に足りるということを声を大にして申し上げたいですね。

 当社は出版社としては10年に満たないですが、135年を超える朝日新聞の蓄積があります。しかしながら、5年前には週刊朝日の記事が問題となり、社長が辞任するという事態になりました。私はその後任の社長ですから、この間、ずっと社内で、正確な情報、信頼に足る情報を乗せた雑誌や本をつくれと言ってきました。そこをないがしろにすると、どんな媒体であれ、滅びると思います。

 当社の送り出す商品、情報が信頼に足るものという信用は、いったん大きく傷ついてしまったと思うのですよ。だからそれを立て直していくのが、私の最大のミッションだと思っています。そういう意味で、キュレーションサイトの問題は、5年前の私の社長就任時の初心に立ち返るきっかけを与えてくれました。

―― 正しい情報に関して、紙は間違った記事の訂正・修正に時間を要するのに対し、ウェブはすぐに修正できるというスピードの違いはどうお考えですか。

青木 確かにウェブはすぐに修正できますが、いったん流してしまったものは止められないとも言えます。紙の雑誌は次号で訂正を出すことが可能で、書籍の場合は重版した時に修正することは可能ですが、ウェブでいったん流したニュースは拡散すると、後で訂正してもなかなか効かないです。

 むしろウェブは、より注意深くならなければいけないと思っています。ですからdot.の強化にあたって、コンテンツの中身の点検、校閲作業をどうしたらいっそう強化することができるのかを検討させています。

 当社で言うと、担当の編集者・記者が記事を送り出し、デスクがチェックをして、編集長も目を通して、部分によってはコンプライアンス担当も、雑誌本部長も目を通して、校閲者も入って、週刊朝日、AERAという形で出ています。そして、dot.も同じように多くの人の目を通して確認している記事を提供していることが大きな強みだと思います。

 それでも間違いをゼロにすることはなかなか難しいでしょう。間違ったときには潔く訂正、お詫びをする。これが次への信用につながると思います。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る