政治・経済

嫌煙家の論理のみで進めて良いのか

20170418NAGATACHO_P01

イラスト/のり

 2020年の東京五輪を前にして、会場や費用負担の問題などとは別に、たばこをめぐる議論がかまびすしい。

 厚労省は、五輪開催を機にたばこの煙をゼロにしようという狙いで、今国会に受動喫煙防止の強化策として、公共施設や飲食店、ホテル・旅館などの原則屋内禁煙などを盛り込んだ「健康増進法改正案」の提出を目指している。昨年後半から各団体からヒアリングを実施してきた。

 ところが、たばこをめぐる議論は、常に平行線をたどってきた。「受動喫煙防止対策」の名の下に、行政が規制を行おうとすると、飲食業関連の組合や旅館・ホテルの経営者は過度な規制は死活問題だと訴え、医師会、歯科医師会、消費者団体などの論客が舌鋒鋭く批判を展開してきた。経済VS健康の議論のすり替えは平行線のままで、健康に分があるような形で推し進められてきた感が否めない。

 しかし、ここで「待った」をかけたのは、政治家たちだった。自民党厚生労働部会では、各委員から批判が噴出した。厚労相経験者議員の秘書は、こう語る。

 「こんな法案を通したら、疲弊している地方の経済は壊滅的な打撃を受ける。一方の論理だけを振りかざして、いい社会になるわけがない」

 一方の論理――つまり、“嫌煙家”“非喫煙者”のことを指している。確かに、たばこの煙が嫌いな人にとって、迷惑な話なのはうなずける。しかし、他方で、法律で認められている嗜好品を楽しむ権利もあり、そのような人たちが集う場を奪うことは許されないし、経済的にも影響が大きいとの指摘だ。

 このような中、2月28日、野党第1党の民進党が「分煙推進議員連盟」を設立し、議員会館で緊急総会を開いた。会長に就任したのは、松原仁衆院議員。総会の席上、松原氏はこう語った。

 「私はたばこを吸わない。健康は大切だし、受動喫煙防止は進めていくことに異論はない。しかし、たばこを吸わない人の権利とともに、吸う人の権利も尊重しなければならないし、中小零細企業や小さなサービス業にも目を配らなくてはならない。少数意見の声を聞かなかったら社会はダメになる。ダイバーシティーを目指している中、厚労省案は逆行していると言わざるを得ない」

 一定の規制があっていいものの、飲食店などは「禁煙」「分煙」「喫煙」など各自で方針を決め、利用者が自由に選択できるようにすればいいという考えである。

 また、松原氏の論で大事なのは、これまで抜け落ちていた「ダイバーシティー」という視点だ。経済VS健康という対立軸は、一見正しいが、喫煙者の権利が抜け落ちていた。いや、医師会の論客などは「自宅で吸えばいい」と事もなげに言っていた。

合法でも自宅以外では吸えなくなる?

 このような議論を以前から取材し続けていて疑問に思うのは、なぜ受動喫煙防止対策なのか、ということだ。喫煙者自身の命を奪うような危険なものだとしたら、また、周囲の人の生命を脅かすようなものだとするならば、堂々と違法薬物と同じ扱いにするといった議論に転換すべきだと感じている。合法で吸っていい、だけど吸える場所は自宅以外にない。そんな話は一般常識の範疇を超えるものだろう。

 だからこそ、吸う人も吸わない人も安心して暮らせる社会、つまりダイバーシティーの考え方が必要だと感じていた。非喫煙者の松原氏が語った言葉は極めて重く受け止められるべきだろう。

 とはいえ、このような規制案が持ち上がったのは、スモーカー自身にも責任がある。今なお、駅前で平気で歩きたばこをする人、自動車を運転中に窓から吸い終わったたばこを投げ捨てる人……。マナーを守らない、極めて危険な行為をしているスモーカーが存在するからだ。

 日本のたばこ規制は、屋外から始まった。ポイ捨ては木造家屋中心の日本では、火災の原因になりやすかったからだ。加えて、歩きたばこは、火が子どもの顔に当たることもあり、危険だと指摘を受けた。一方、海外は屋内規制がメーンだ。路上のポイ捨ては平気で行われている。その海外の屋内規制を持ち込めば、どこでも吸えなくなるのは、当然といえば当然なのである。

 かくして、法案は今後どのようになるのか。国会議員の中には“たばこNO”を訴える人も多い。各党さまざまな議論を経ていくのか見ものだ。しかし、日ごろの与野党対立構図ではなく、冷静な議論の中で与野党で分かり合える部分、譲り合える部分は共有して成果を生み出していただきたいと願っている。あくまでもキーワードは、「ダイバーシティー」なのだから。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

グローバル化が進む中、多くのビジネスパーソンにとって英語力の向上は大きな関心事の1つ。日本人が相変わらず英語を苦手とする理由と解決策について、英語学習アプリで展開するポリグロッツの山口隼也社長を取材すると共に、同社が提供するサービスについても聞いた。(取材・文=吉田浩)日本でますます高まる英語学習熱  201…

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る