政治・経済

今年も『フォーブス』の長者番付ランキングが発表された。この長者番付は例年、まず世界版、続いて日本版が発表されるが、上位の顔触れは世界版、日本版ともに昨年と変化はなかった。しかし一見、同じように見えても、詳細にこの2つを比較すると日本の抱える問題点が見えてきた。文=関 慎夫

3年間も変わらない番付上位の顔触れ

20170406長者 世界一の金持ちは誰だ――。という素朴な疑問に毎年答えを出してくれるのが米『フォーブス』の「世界長者番付」だ。今年も3月20日に発表された。

 トップ10は105ページの表のとおりで、マイクロソフト創設者のビル・ゲイツ氏が4年連続で1位に輝いた。目につくのは米ベンチャーを代表するアマゾン創設者のジェフ・ベゾス氏が3位、フェイスブック創設者のマーク・ザッカーバーグ氏が5位と、それぞれ昨年より順位を上げている。

 8位に並んだチャールズ・コーク、デービット・コーク両氏は兄弟で、総合資源会社コークインダストリーズを経営している。コーク社は日本では無名だが、石油、天然ガスなどのエネルギーのみならず、肥料、穀物、化学物質なども手掛ける世界最大の未上場会社。共和党への資金提供者としても知られており、トランプ大統領誕生の陰にはコーク兄弟の存在があったともいわれている。

 この世界長者番付が発表された約2週間後の4月6日、今度は「日本長者番付」が発表された(表参照)。

 1位は孫正義・ソフトバンクグループ社長(世界34位)、2位は柳井正・ファーストリテイリング社長(同60位)。この2人は毎年トップ争いを繰り広げており、2014年から毎年1、2位が入れ替わっている。

 今回、孫氏が1位に返り咲いたのは、株価が大幅に上昇したためだ。昨年7月、ソフトバンクグループは英半導体設計大手のアーム社を3兆3千億円という、日本のM&A史上最大の金額で買収した。その直後は、株価を下げたがすぐに反発。しかも今年に入り米大統領就任直前のトランプ氏と電撃会談したことでさらに上昇。昨年7月25日の底値5216円が、今年1月27日には8977円をつけた。その結果、ソフトバンクグループの約20%の株を持つ孫氏の資産は昨年より6千億円近く増えている。

 8位の毒島秀行・SANKYO社長は昨年のランク外からのトップ10入りとなったが、これは昨年亡くなった創業者の毒島邦雄氏の資産を引き継いだため。邦雄氏は昨年の長者番付で8位にランクインしている。つまり秀行氏は、長者番付ランクも相続したことになる。また10位の三木正浩・ABCマート創業者は昨年の11位からのトップ10入りだ。代わって落ちたのがマルハンの韓昌佑会長だが、今年も11位に入っている。

 つまりトップ11位は昨年と全く同じ顔触れとなった。そしてこれは15年のランキングでも変わらない。同じ11人が3年連続でトップ11を独占している。

 ここに日本企業の弱点が現れている。どういうことかというと、新興企業が全く顔を出してこないのだ。トップ10のうち、歴史の一番浅いのが楽天だ。創業は1997年だから今年でちょうど20年を迎える。次に新しいのがABCマートで設立は85年、それに次ぐのがソフトバンクグループで81年。それぞれ一般的に企業寿命と呼ばれる30年を過ぎている。

「ゴジラ企業」が誕生しない国・日本

 世界長者番付も、今年と昨年のトップ10が一緒ではないかと指摘する人も多いだろう。上位の顔触れが同じなのは世界も日本も同じであって、日本だけが新興企業が出てこないわけではない、と思うかもしれない。しかしそうではないことは、2015年のランキングを見ればよく分かる。ゲイツ氏やバフェット氏、コーク兄弟などはこの年もトップ10に入っているが、ベゾス氏は15位、ザッカーバーグ氏は16位にとどまる。そして14年は18位と21位、そして13年は19位と66位だ。つまり、ベゾス氏もザッカーバーグ氏も、毎年のようにランクを上げて今年は揃って世界のトップ5に選ばれた。しかもザッカーバーグ氏率いるフェイスブックが誕生したのは04年。まだ15年もたっていない。それでいて日本人トップの孫氏の倍以上の資産を持つ。

 10年ほど前になるが、「ゴジラ企業」という言葉をよく聞いた。ハリウッド版『ゴジラ』の中のゴジラは、卵から孵化したあと、急速に成長する。そこで大前研一氏が、昔では考えられないほどのスピードで成長する企業をゴジラ企業と名付けたことから使われるようになった。アマゾンもフェイスブックもそうした1社である。ところが日本にはゴジラ企業がなかなか現れてこない。

 07年のランキングを見るとさらにはっきりする。この年の日本長者番付のトップ10のうち、17年でもその座を維持しているのは7人(毒島邦雄氏を含める)で、3人が入れ替わり、高原慶一朗、伊藤雅俊、三木正浩の3氏が新たに加わった。高原氏が創業したユニ・チャーム、伊藤氏のイトーヨーカ堂(現セブン&アイ・ホールディングス)はともに長い歴史を持つ。強いて言えば三木氏のABCマートだけは急成長企業と言えるだろう。しかし三木氏にしても、10年の長者番付で10位に入っている。つまり日本長者番付は、この8年間、ほぼ固定されていることになる。

 ランク入りしている中で最も若い企業である楽天の三木谷氏も、10年前には既に9位に入っている。この段階で会社設立からわずか10年。この時点では楽天は間違いなくゴジラ企業だった。ECモールという日本にはなかった概念を持ち込み、急成長、その後、金融などに領域を広げ、楽天経済圏をつくった結果だ。しかし、10年前の三木谷氏の資産と現在を比較すると、2倍に増えているにすぎない。一方、番付1位の孫氏の資産は、この10年で3倍以上に増えている。また2位の柳井氏も3倍近い。それを考えると、今の三木谷氏の資産には物足りなさを覚える。

 トップ10以外ではどうか。もしかすると、これから大化けする企業が隠れているかもしれない。そこで番付50位までの間に、00年以降に誕生した企業の経営者を探すと、ヒットしたのは3人だった。25位の笠原健治・ミクシィ会長、30位の山海嘉之・サイバーダイン社長、50位の馬場功淳・コロプラ社長である。ではこの3人の昨年の番付はというと、それぞれ27位、25位、22位だ。つまり笠原氏は上昇したがわずか2つ。山海氏は5つ下げ、馬場氏にいたっては大きく下落した。笠原氏が創業したミクシィにしても、スマホ向けゲーム「モンスターストライク」がヒットしたことで株価が上がり、資産が増えているが、かつてSNSのmixiで一世を風靡したような勢いは感じられない。

「日本の次に世界」では国際競争には勝てない

 なぜ日本では、ゴジラ企業がなかなか生まれないのか。その最大の理由は、日本市場が中途半端に大きいことだ。そのため日本市場だけをターゲットとしても、それだけで成長できる。だからこそ、ガラパゴス化という言葉に象徴されるように、日本独自の製品・サービスを日本だけで提供してもビジネスが成り立った。しかしこれでは、企業をある程度までは成長させることはできても、それ以上に大化けすることは難しい。何より海外では通用しない。

 日本で成功したビジネスモデルをそのまま海外に持っていってもうまくいかないことは誰もが知っている。しかしベースが日本市場を相手にしていたものの場合、一から制度設計し直さなければならない。これがけっこうやっかいだ。

 長者番付1位の孫氏にしても、アメリカの携帯会社スプリントの経営には苦労しているし、2位の柳井氏も、ユニクロの欧米展開は当初のもくろみどおりにはいかなかった。両氏ともここにきて、展望が開けてきているが、ここに至るまでには時間と労力が必要だった。そしてこれは多くの日本企業が直面する問題だ。

 ベンチャー経営者においてもそれは同様で、大半の起業家は最初、国内での成功を夢見て会社を立ち上げる。そうして事業が伸びていき、IPOを行い資金的余裕もできる。それから海外市場に目を向ける、というのがよくあるパターンだ。しかしこれでは時間がかかり過ぎる。最初の商品やサービス、あるいはビジネスモデルがいくら優れていても、時間がたつに従い、類似のものが世界に広がる。そのため、いざ世界に出ようと思っても、市場は既に埋め尽くされているということになりかねない。世界と日本では時間軸が違っている。それに気付かないとみすみす世界進出の機会を逃し成長の芽を摘んでしまう。

 そのため最近では、最初から日本市場ではなく、海外市場を対象にしたビジネスモデルを支援しようという動きも出始めており、起業家からビジネスのアイデアを募り、それをブラッシュアップしたうえで、シリコンバレーに投資家を集めプレゼンテーションを行うベンチャーキャピタルも現れた。

 先日、国立社会保障・人口問題研究所が公表した日本の将来推計人口によると、53年には総人口が1億人を下回る。今後市場はどんどん縮小していく。当然、日本市場だけを見ているようでは事業は成功しない。必然的に起業家は、最初から世界市場を意識せざるを得ない。長者番付が発表されるたびに、順位の大変動が起きている。そんな生きのいい企業の出現が待ち望まれる。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

 昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

201712EVEREDIA_CATCH

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界12月号
[特集]
東京新起動

  • ・二度目の変貌を遂げる大都市・東京
  • ・虎ノ門エリアはグローバルビジネスセンターとして進化中
  • ・東京ミッドタウン日比谷誕生で映画・演劇の街が再興
  • ・文化の発信地「渋谷」の百年に一度の大改造
  • ・泉岳寺・品川とも連携 品川新駅(仮称)のエキマチ一体開発
  • ・城北、埼玉方面への玄関口は行政が積極的
  • ・辻 慎吾(森ビル社長)
  • ・若林 久 西武鉄道社長

[Special Interview]

 稲垣精二(第一生命ホールディングス社長)

 「DNAの“第一主義”で圧倒的な未来をつくる」

[NEWS REPORT]

◆若者のクルマ離れに抵抗する豊田章男・トヨタ自動車社長の意地とプライド

◆ヤマトHDが人手不足よりも恐れる「送料無料」という意識

◆有機EL転換は避けられず 新生JDIは生き残れるか

◆シェール革命が動かす世界のパワーバランス

[特集2]今さら聞けないビットコイン

・可能性と危険性が共存するビットコインの魅力

・ビットコインだけではない! 1千種類を超える仮想通貨の世界

・ビットコインの2つの謎 ブロックチェーンとマイニング

ページ上部へ戻る