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坂東眞理子氏が『女性の品格』発行から10年経って思うこと―坂東眞理子(昭和女子大学理事長)

今回は昭和大学理事長の坂東眞理子先生をゲストにお迎えしました。坂東先生が300万部のベストセラー『女性の品格』を書かれたのはちょうど10年前のことですが、その内容は今なお色褪せません。どんな思いでこの本を書いたのか、うかがいました。

坂東眞理子氏プロフィール

坂東眞理子氏

(ばんどう・まりこ)1946年富山県生まれ。69年東京大学を卒業、内閣府入省。内閣広報参事官。男女共同参画室長を経て2003年退官。04年昭和女子大学女性文化研究所所長、07年に学長(16年3月まで)、14年理事長、16年総長(兼務)に就任した。06年に出した『女性の品格』は300万部を超えるベストセラーとなった。

坂東眞理子氏が『女性の品格』を書いた直後に行ったこと

佐藤 坂東先生のお書きになった『女性の品格』は私にとってバイブルです。常に持ち歩き、時間があったら本を開いていました。

坂東 ありがとうございます。本が出てからちょうど10年になります。書き終わったのが夏のことで、最終のゲラを編集者に戻したあと、富士山に登ったことを覚えています。

佐藤 富士登山ですか。何か思うところがあったのですか。

坂東 この本を書いた時、ちょうど60歳を迎えました。長い公務員生活を終えて、新しい生活がスタートした時期でもありました。そこで、自分を勇気付けたいという思いもあり、今までやったことのないことをやろうと考えたのです。

佐藤 『女性の品格』を読み返しても、10年前に出たとは思えないほど新鮮です。

坂東 ありがたいことに、今でも読んだ感想を送ってくださる読者の方がいらっしゃいます。先日、銀座を歩いていたら突然、「サインしてください」と声を掛けられました。バッグから出してきたのが、何度も読んだために少し傷んだ『女性の品格』でした。うれしかったですね。

佐藤 多くの人に支持されていることが分かるエピソードですね。発行部数は300万部を超えたとか。でもなぜこの本を書こうと思ったのですか。

坂東 不易流行という言葉がありますが、この本は「不易」の部分、つまり女性がいつになっても忘れてはならないことを書いたつもりです。

私が若かった頃は、企業や組織は女性を育てようとはしませんでした。男性の場合なら上司や先輩が、「お前はいずれ会社を背負って立つ」などと言い、本人もその気になって成長していきます。ところが女性にはそれがない。「期待していない、機会を与えない、鍛えない」。つまり人材として育てる仕組みがなかったのです。

そうした環境で私は、手探りで「ああしたらいいか、こうしたらいいか」と仕事をしてきました。試行錯誤の連続でした。その中で見つけたもの、そしてだからこそ女性として失ってはならないことを、後に続く若い人たちに伝えなければならない。それが、この本を書くモチベーションのひとつになりました。

坂東眞理子氏が唱える「男性教育」の必要性とは

佐藤 今、女性が働くことは当たり前になりましたが、それでもおかしな制度はたくさん残っています。配偶者控除を廃止するかの議論が進んでいますが、働く意欲のある女性が、この控除があるために働き方を制限するというのもおかしな話です。

坂東 私は学生にこう言っています。「皆さんは自分が将来離婚するとは思っていないでしょうが、3分の1というけっこうな確率で離婚します。ですから、経済力を持たなければなりません」。実際、若い女性の多くが、結婚・出産後も働き続けようと考えています。問題は男性の意識です。

佐藤 奥さんには家にいてほしいという男性はまだまだ多いですからね。

坂東眞理子

坂東 母親が専業主婦の場合、あるべき家庭像が刷り込まれているんですね。家のことをすべて母親がやってくれましたから。でも自分の稼ぎで家族を養う、だから女性は家を守れ、と言うならまだましです。最近の男性は、自分の稼ぎだけで養えるかどうか不安だから、妻にも働いてもらいたい。でも家事や教育は女の仕事、と考えている。これはおかしな話です。

佐藤 先生のご主人はどうだったのですか。今と違って、結婚・出産後も仕事を続ける女性はほとんどいなかった時代です。反対されませんでした?

坂東 家のことはほとんど何もしない人ですが、私が働くことには全く反対しませんでした。そのことには本当に感謝しています。

坂東先生は働く女性の地平を切り開いてきた方ですが、同時に2人の母親でもあります。お子さんが小さい頃は、昼間、家にいない母親に対して不満もらすこともあったとか。でも今では2人ともワーキングマザーとして、母親の背中を追い掛けているそうです。

坂東眞理子理事長が心配する学生の基礎学力低下の現状とは

佐藤 坂東先生は内閣府で女性政策に長く携わり、今は昭和女子大学で女子学生を教える立場です。大学ではどんな取り組みをされていますか。

坂東 国際的な連携の模索です。女子大には女子大の良さがありますが、一方で、国境や性別を越えてさまざまな人と触れ合う機会をつくろうと考えています。

佐藤 女子大にもダイバーシティを導入するわけですね。

坂東 ええ。自分と違う人に出会うのはとても大事なことです。これは男女関係なく日本の大きなテーマのひとつです。日本人は既存のものを改善していくことは得意ですが、新しいものをゼロからつくることは苦手です。創造力が問われますが、そのためにも違う人種・性別・文化と触れ合う必要があります。

佐藤 自分とは違う価値観を知ることで、新しいアイデアが生まれることもあります。

坂東 でも私にはひとつ心配があります。教育の劣化が進んでいるように思えます。

いまや大学全入時代を迎えています。その一方で、高校生の学力低下が進んでいます。高校3年生の英語の学力の全国平均は中学2年生レベルにすぎません。それでも、大学に入学できてしまう。日本人は勤勉で学力が高いと言われてきましたが、このままでは先が心配です。

佐藤 ゆとり教育の弊害ですか。

坂東 学生時代に勉強以外のことに打ち込むことも大切です。ゆとりや思いやり、リーダーシップも必要です。でもそれ以上に基礎学力を身につけることが重要です。これは学校教育だけの問題ではありません。

よく、若い人が近現代史を知らないことが話題になります。大学受験に出ないため、教科書でも教えないのが理由だそうです。でも教科書から学ぶことなんて、知的好奇心のほんの一部。物事に関心を持って、それを追究していけば、そこから多くのことが学べます。そういう環境をつくることが大切です。

昭和女子大学の教職課程を取る学生に指導していること

佐藤 そういう環境を整えるのはむしろ家庭です。ところがモンスターペアレントのように、子どもの教育をすべて学校に押し付ける親も出てきました。

坂東 本来、親というのは、心を鬼にして子どもの失敗を見守らなければなりません。小さな失敗体験をたくさんすることで、子どもは等身大の自分を把握していきます。ところが最近は、小さな失敗でもトラウマになると心配して、庇護してしまう。

佐藤 小さなミスも許せず、すぐに学校にクレームをつける。

坂東 昭和女子大学では教職課程を取る学生も多いのですが、彼女たちには、子どもだけでなく、親や地域とのコミュニケーション能力も必要だと教えています。中でも保育士を目指す学生には、子どもと一緒に親も育てなさいと指導しています。一人っ子が増えたこともあり、多くの親が親の初心者ですから。

佐藤 ところで坂東先生も2人のお嬢さんがいらっしゃいます。どんな母親でしたか。

坂東 私は働き続けていましたから、娘たちはそれが不満だったようです。小学生の頃に「友達のお母さんはみんな家にいる。それなのにママは仕事ばかりしているから嫌い」と言われたこともあります。でも今では2人ともワーキングマザーです。

佐藤 嫌いといいながらも、しっかりと親の背中を見てたんですね。素敵な親子関係です。


対談を終えて

佐藤有美と坂東眞理子坂東先生は官僚として、男性に伍して仕事をし、「女性初」のポストにいくつも就いています。それだけを聞くとバリバリのキャリアウーマンをイメージしがちですが、実際は大違い。とても可愛らしくたおやかな方です。そのギャップも、先生の魅力のひとつです。

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