文化・ライフ

今年創業45年目を迎えるハンバーガーチェーン「モスバーガー」を展開するモスフードサービス。2016年から会長となった櫻田厚さんは、「コミュニケーションは『直接対話』が重要」と話します。ゴルフ仲間で飲み友達でもある櫻田さんと、組織づくりをテーマに歓談しました。

創業者の叔父の言葉を胸にモスバーガーに44年

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さくらだ・あつし 1951年東京都大田区生まれ。都立羽田高校卒業後、広告代理店入社。72年創業者・櫻田慧の声掛けで、モスバーガー創業に参画。77年モスフードサービス入社。98年社長、2016年会長就任。

佐藤 子どものころ、実家近くにモスバーガーの店舗ができ、母におねだりしてよく買ってもらっていました。初めてモスバーガーを食べたときは、「ハンバーガーってこんなにおいしかったんだ」と感動したのを覚えています。ただ値段が高くて、子ども心にハンバーガーは高級品と思い込んでいました。

櫻田 当時の為替相場は1ドル=300円、ハンバーガー1個80円、週刊誌やタバコも80円の時代ですから、安いものではなかったですね。

佐藤 日本人に馴染みのなかったハンバーガーを国民食として浸透させたのがモスバーガーですよね。叔父さまが創業され、櫻田さんはどんな経緯で入社されたのですか?

櫻田 叔父は岩手県から上京してきて、都内の私立高校を卒業し、証券会社で働いていました。アメリカ駐在時にトミーズのハンバーガーを食べて感動し、「人に感謝される仕事がしたい」という思いでモスバーガーを創業したと言います。叔父は10人兄弟の末っ子で、長男だった私の父は、私が17歳のときに脳卒中で亡くなっています。そうした家庭の事情もあり、私は大学には行かずに広告代理店に勤め始めましたが、叔父から声が掛かり、創業時から事業を手伝うことにしました。私は今年66歳なので、モスバーガーにはもう44年関わっていることになりますね。

佐藤 若いうちからご苦労をされていますね。叔父さまと長年一緒に働かれてきて、学ばれたこともたくさんあると思います。

櫻田 「目上の人にはとにかく可愛がられろ。目下の人からは慕われないとダメだ」という叔父の言葉を重く受け止めて生きてきました。叔父が亡くなった後、その友人と会食やゴルフをしたり、普通は会えない人たちから学ぶ機会を得られたのは財産ですね。また私が社長になったばかりのころ、叔父が勤めた証券会社の会長から、「低重心経営をしなさい」とアドバイスを頂きました。要するに、社長という肩書が付いた途端にふんぞり返る人がいますが、そうなってはいけない。常に謙虚な姿勢を心掛け、周りから教えてもらうようにするということです。もう一つ、現場で働く人と直接会い、何でも言ってくださいと胸襟を開いてもらうという低重心です。

佐藤 櫻田さんはそうした教えをしっかり受け継がれておいでです。講演の冒頭で流れる御社の店員さんとお客さんのやり取りを描いたハートフルなDVDがありますよね。あの映像をご覧になって、毎回涙を流される様子から社員を愛されているのがよく伝わります。

櫻田 何度見ても感動してしまうんですよ(笑)。モスフードサービスの仕事は、スキルも知識も努力して身に付けなければなりませんが、それ以上に直接対話(ダイレクトコミュニケーション)ができる人でないと務まりません。お店ではお客さまを接客し、共に働く仲間もいます。今はSNSやメールのやりとりが主流になりましたが、100通のメールよりも、直接会って5分話したほうがいい。特に女性はそのあたり、直感的ですよね。

佐藤 フェース・トゥ・フェースは大切ですね。相手の息遣いや目の動きで分かることも多いです。櫻田さんは場を和ませるのがお上手で、私にも、まるで妹のように接してくれてありがとうございます。ゴルフも会食もいつも楽しいです。

社員が将来について自発的に語り合う組織に

201712SAKURADA_P02佐藤 2016年まで社長を18年間務められて、レストラン事業や海外進出、農業法人設立など多角経営に乗り出し、会社も成長した時期ですね。今後は会長として、会社の方向性をどうお考えですか?

櫻田 どの会社も創業者はパワフルで、才能も情熱も持っています。しかし、いくら創業者がカリスマでも、会社のために一人でできることは限られています。売り上げ100億円を超えていく会社ならなおさらです。モスフードサービスも、今20~40代の社員が将来について自発的に語り合える企業風土にしておかないと、やがて誰も動かない組織になる。経営意識や夢を与えられるのを待つのではなく、創業者のまねをするのでもなく、私はみんながエネルギッシュに働く組織にするための橋渡し役になるつもりです。

佐藤 今と昔では、会社の置かれる状況はまるで違います。過去の常識は現在の非常識。この時代の流れをしっかり把握しておかないと、経営につまずいたときに株式会社として社会的責任を負うことになります。

櫻田 今はコンプライアンス等の社内整備が必須ですが、それだけで会社が成長するわけではありません。社員のエネルギーが減っているのに、「ちゃんとやっています」では、違法性がないだけで、新しい発想は生まれません。ハイテクとハイタッチ(心と心の理解)の両方が必要です。経営者には頭と体と心のバランスが求められます。親切、善意、愛情、感謝――そうした心の大切さも後進に伝えていきたいですね。

似顔絵=佐藤有美 photo=佐藤元樹

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