
経営理念、事業計画と連動した人事評価制度の運用は、あらゆる中小企業の継続成長に有効である。それは、業界全体が不況となっているヘアサロン業界でも例外ではない。現場に即した制度へのスピーディな改善、経営陣と社員間での良質なコミュニケーションによる信頼関係の構築ができていれば、早期での業績改善も可能となる。本連載では、人事評価制度改革によって業績を伸ばした中小企業の事例を紹介しながら、社員が育つ人事評価制度の仕組み化、設計について分析していく。
さらなる発展を目指して人事制度改革を決意
オーバーストア状態が続き、集客、人材確保ともに競争激化が進むヘアサロン業界。日本の人口が減少へと転じ、マーケットが縮小しているにもかかわらず、ヘアサロンの店舗数は増加を続けている。加えて、客単価も下がっていることから、業界全体で売上高は落ち込んでいる。
今回紹介するのは、そんなヘアサロン業界で、1998年の創業以来20年を迎えようとしている株式会社オタンティック。東京の恵比寿と千葉の松戸にヘアサロン「Milieu(ミリュウ)」を2店舗展開している。
存続させるだけで精一杯な状況の中、「このままでは、これ以上の発展は見込めない」と社長の及川和城氏は社内改革の必要性を実感。そういった思いのもと、更なる継続成長を目指して実行したのが人事評価制度の刷新だった。
恵比寿店の店舗リニューアルを含む事業計画を作り、その内容を落とし込んだ人事評価制度を策定。事業計画を実現するため、会社全体、店舗、個人のアクションプランへと落とし込んでいった。
「美を通してお客様の心を豊かにする」を経営理念とし、人材育成に力を入れた仕組みを導入。入社後、3年かけて着実な技術力向上を目指す「アシスタント二人三脚プログラム」では、それぞれのスタッフに合わせ、「育成サポーター」が近くでサポートする。個人の成長を大切にする社風、制度があることを伝えることで、新たなスタッフの採用にも結びついた。
社長自らプロジェクトリーダーとして改革を推進
2016年10月に新たな人事評価制度の運用をスタートしてから1年。恵比寿・松戸の2店舗とも対前年比売上げを7ヶ月連続で更新し、2017年3月には、月間最高売上げを塗り替えた。短期間で成果を出すことができた要因とは何だったのか。
及川社長は、制度改革を行う前から、スタッフとの密度の高いコミュニケーションを大切にしてきた。毎月1回、スタッフ一人ひとりと個別面談を行い、率直な意見を求めていた。スタッフのスキルから性格まであらかじめ細かに把握していたことが短期間での成果につながったといえる。
スタッフとの良好なコミュニケーションをベースに、及川社長自身が制度改革のプロジェクトリーダーとして取組んだことで、最短距離での実施が可能となった。制度改革を行う目的、進め方、内容について、スタッフに細かな部分まで丁寧に説明し、現場の疑問に答えることを徹底。細やかな対応が社員からの信頼につながり、短期間での成功に結びついた。
現場にマッチする制度へスピーディに改善
人事評価制度改革には、実施しながら改善を繰り返すことが求められる。オタンティックでは、導入当初から制度を自社に合ったものにカスタマイズし、短いスパンで改善を繰り返してきた。仕組みの内容や進め方に少しでも違和感がある場合は、現場にマッチするようすぐに変更した。現場に即した内容やフォーマットにすることで、スタッフが活用しやすくなり、積極的に取組める体制を整えることができた。
制度のネーミングについても、「人事制度」や「評価」という言葉は使わないなど、堅い印象にならないよう工夫がされている。「人事評価制度」のことを「人財育成支援制度」、「評価制度」のことを「キャリアアッププログラム」、「評価者」のことを「成長サポーター」とネーミング。何のための仕組みなのかをネーミングによって表現することで、スタッフは新たな制度を受け入れやすくなる。
どんな業界でも成果につながる人事制度改革
新たな人事評価制度導入にあたり、重要なのは仕組みの完成度が5割程度でも、まずは実践することだ。現場で実践しながら、PDCAを回し、改善を繰り返していくことでしか成果は生まれない。
オタンティックは、計画を立て、実践するまでのスピードがとても早く、かつ、実行後の制度改善のスピードも早かったため、早期の段階で成果が出始めた。この成果を支えたのが、密度の高い社長とスタッフ間のコミュニケーションだった。
不況といわれているヘアサロン業界であっても、経営計画に沿った人事評価制度の運営、アクションプランの実施によって、成果が見込めることをオタンティックの事例は教えてくれる。業種を問わず、人事評価制度改革による中小企業の業績改善は可能なのだ。
(やまもと・こうじ)日本人事経営研究室代表。1966年、福岡県飯塚市生まれ。日本で随一の人事評価制度運用支援コンサルタント。日本社会を疲弊させた成果主義、結果主義的な人事制度に異論を唱え、10年間を費やし、1000社以上の人事制度を研究。会社のビジョンを実現する人材育成を可能にした「ビジョン実現型人事評価制度®」を日本で初めて開発、独自の運用理論を確立した。 導入先では経営者と社員双方の満足度が極めて高いコンサルティングを実現。その圧倒的な運用実績を頼りに、人材育成 や組織づくりに失敗した企業からオファーが殺到するようになる。福岡で2001年に創業、2013年には東京に本社を移転し、全国的にもめずらしい人事評価制度専門コンサルタントとしてオンリーワンの地位を築く。 業界平均3倍超の生産性を誇る自社組織は、創業以来、増収を果たす。 著書に「図解3ステップできる!小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方」(あさ出版)など人事評価制度に関する本が4作あり、同分野では異例の発行累計8万部を突破。多くの経営者から注目を集めている。
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