政治・経済

不正会計問題から始まった数々の不祥事で上場廃止寸前にまで追い込まれていた東芝が、6千億円にのぼる増資に成功、上場維持が確実となった。その代償は、「モノ言う株主」たちの登場だった。時には構造改革や経営陣の退陣を要求する株主たちに、東芝の経営陣はどう立ち向かうのか。文=経済ジャーナリスト/松崎隆司

東芝の6千億円の代償は60の新しい株主

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綱川智・東芝社長はモノ言う株主にどう立ち向かうのか

 債務超過に陥り経営再建中の東芝に光明が差した。12月5日、60の投資ファンドから6千億円(増資後の出資比率で35%程度)の出資が行われたからだ。

 東芝の2016年度の決算は米原子力メーカーのウェスチングハウス(WH)の破綻で9657億円の当期損失が発生し、5529億円の債務超過に陥った。

 この債務超過を解消するために東芝メモリの売却を決断、米投資ファンドのベインキャピタルが中心となって韓国の半導体メーカー、SKハイニックス、HOYAなどが参加する企業コンソーシアム「Pangea(パンゲア)」と株式譲渡契約を締結、計2兆円の資金を得るとことになった。

 しかし東芝メモリ売却を18年3月末までに実行できなければ東芝は2度目の債務超過に陥り、上場廃止となる。東芝と半導体事業で協業してきたウエスタンデジタル(WD)の子会社、サンディスクはこの売却に反対して国際仲裁裁判所に株式売却の差し止めを求めて仲裁の申し立てを行い、現在はまだ係争中だ。

 そのような中で今回の6千億円の増資の話が浮上、実施された。

 東芝はWHの親会社保証をしていたジョージア電力(21年1月までの分割払い)や、サウスカロライナ電力・ガスなど(22年9月までの分割払い)への計51億7800万ドル(17年12月時点)を分割で支払うことになっていたが、この6千億円を使って一括で返済(総額で5738億円)。為替変動リスクを回避する一方で求償権を確保、これを第三者に売却することによって損失を確定する。

 「これで税法上の損失が確定でき、東芝メモリ売却で発生する3400億円の税金が2400億円圧縮され1千億円となり、18年3月末には7500億円とみられていた債務超過を解消し、約900億円の黒字に転じることができます」(東芝広報担当者)

 こうした投資ファンドの出資が実行されたことで、仮に東芝メモリが18年3月末までに売却できなくても債務超過に陥る心配がなくなり、さらにWDとの係争も和解に向かいつつある。上場廃止という最悪の事態は避けられそうだ。

 しかしその一方で投資ファンドへの第三者割当増資は東芝の経営陣にとっては新たなる危機の到来にもつながる恐れがある。

東芝が増資を受けるのは企業を何度も追い込んだ村上ファンド出身者

 増資を受ける60社には村上ファンドの流れをくむ投資ファンドの「エフィッシモ・キャピタル・マネージメント」や、株式・債券・商品・金融派生商品などに分散投資し、高い運用収益を追求するヘッジファンドの「サード・ポイント」、「サーベラス・キャピタル・マネジメント」、「エリオット・マネジメント」など名だたる「アクティビスト(モノ言う株主)」が名前を連ねているからだ。

 アクティビストとは株式を一定程度取得した上で、その保有株式を裏づけとして、投資先企業の経営陣に積極的に提言をおこない、企業価値の向上を目指す投資家。経営陣との対話・交渉のほか、株主提案権の行使、会社提案議案の否決に向けた委任状勧誘等を行うことがある。

 東芝はこうしたアクティビストたちが投資していることをどう考えているのか。そこで東芝に聞いてみると「個別的なお話はできない」(同社広報担当者)として口を固く閉ざす。

 今回の60社の中で最も多い11.34%の東芝株を所有するエフィッシモ・キャピタル・マネージメントは、高坂卓志ら村上ファンドの若手出身者3人がシンガポールで06年6月に立ち上げたファンドだ。

 村上ファンド同様、コーポレートガバナンス(企業統治)で問題を抱える企業に投資し、公然と企業を批判し高値で株を買い戻してもらうという手法をとってきたファンドだ。

 中でも親子上場しているような企業をターゲットにしてきた。上場している親会社が支配権を維持したまま子会社を上場させる「親子上場」は日本特有のグループ経営戦略・資本政策として認識されてきた。ところが英米では敵対的買収や少数株主による訴訟のリスクから、子会社の上場は基本的に行われない。

 そんな日本特有の制度の矛盾をコーポレートガバナンスができないとして裁判などで追い詰めていくのがエフィッシモのやり方なのである。

 最初に大きな戦果を挙げたのがダイワボウ情報システムだ。06年に大量保有報告書で7.72%の株式取得が判明。その後親会社である老舗繊維メーカー、ダイワボウと「親子上場」していることを追及、08年10月24日、上場廃止に追い込みダイワボウに42.41%の株式を引き取とらせた。この時手にした売却益は70億円にも上っている。

 07年7月31日には新立川航空機の株を6.83%まで取得したことを表明。さらに買い進め、21.99%まで比率を上げ、一方で兄弟会社であった立飛企業の株式を17.48%まで取得した。

 この時エフィッシモが目を付けたのが両社の過度の持ち合い構造。立川企業はグループで新立川航空機の4分の1超の株を保有し、逆に新立川航空機は立飛企業の39.39%の株を保有していた。4分の1以上の株式を保有されている会社はその会社の株を保有していても議決権が行使できないと商法で規定されているにもかかわらず、この2つの会社はお互い議決権を行使してきた。そこを突かれて訴訟に持ち込まれ、10年10月に是正措置を受けて両社はMBOを実施して経営統合。エフィッシモは売却に成功、68億円の売却益を手にした。

 その後もテーオーシーやオービック、日産車体などにも裁判をつかった揺さぶりを仕掛けている。

 難敵はエフィッシモだけではない。米国の投資家、ダニエル・ローブ率いるサード・ポイントは経営陣に進退を迫る“物言う株主”だ。

 米国のヤフーの株を取得したサード・ポイントは12年、取締役の人選をめぐって会社側と対立した。膠着状態が続く中でCEOのスコット・トンプソンの学歴詐称疑惑を追及、辞任に追い込んだ。その上でダニエル自らが取締役に就任。その後サード・ポイントは新CEO就任にグーグル元役員のマリッサ・メイヤーを抜擢した。

 15年に経営不振に喘いでいたソニーに対して、業績の良かったエンターテインメント事業と業績悪化の原因となっていたエレクトロニクス事業の分離する提案を突き付けたのもサード・ポイントだ。

 16年にはセブン&アイ・ホールディングスで次期社長に鈴木敏文会長の息子が就任するとの観測をもとに、反対する意向を示した。この時、業績不振のイトーヨーカ堂の分離案なども提案、これが呼び水となって社内クーデターが起こり、それまでセブン&アイHDのカリスマとして君臨していた鈴木会長が退任に追い込まれた。

東芝再生の成否はモノ言う株主次第?

 サーベラスは「地獄の番犬ケルベロス」の英語読みだが、その名の通り、剛腕だ。

 共和党出身で米国の元副大統領、ダン・クエールとCEOのスティーブン・ファインバーグが1992年に設立、ブッシュ政権下の財務長官、ジョン・スノーが会長を務める米国を代表するファンドで、日本でも積極的に投資してきた。経営再建中だった西武ホールディングスとは06年2月に当初友好的な形で株を引き受けるが上場が遅れるのに業を煮やして経営陣を向こうに回してTOBをかけ、あわや経営権を取得するかといわれた。結果的には経営陣が守り切った。

 エリオットを率いるのは「共和党のキングメーカー」との異名をとるポール・シンガー。海外ではアルゼンチン、ギリシャ、コンゴ、ペルー政府との金融戦争などを制した剛腕だ。共和党の大物たちを背景に強力なロビイング活動や法廷闘争などで海外の政府さえもひれ伏させる力を持っている。

 韓国ではサムスン電子に対して30兆ウォンの特別配当や会社分割を要求。日立製作所のイタリア子会社で鉄道信号大手のアンサルドSTSの完全子会社化のためのTOBに抵抗。さらにKKRがTOBを仕掛けていた日立国際電気の株の買い増しも進めていることからその動きが注目されている。

 しかし“物言う株主”たちは単に短期的な利益を得るだけでなく、企業の中長期的な経営改革にも大きく貢献していることもある。そのため最近では企業の持続的な成長のために投資家と経営者との対話を求める「スチュワードシップ・コード」などが重要視されている。

 サード・ポイントとソニーの件では、ソニーは、サード・ポイントの提案を拒否したが、これをきっかけに大幅な事業再編が行われ、ソニーの業績は大きく改善した。サード・ポイントもピーク時には7%程度保有していたソニーの株を売却し、約20%程度の利益を取得したという。サーベラスにしても提示した経営改革案は西武HDの経営改善にも大きな役割を果たした。

 東芝の最大の問題は、自分たちでコーポレートガバナンス(企業統治)ができないということだ。まるで張り子のトラのようなもので、東芝のコーポレートガバナンスの見た目と実態は全く違う。

 1998年には執行役員制度、99年には社内カンパニー制度を導入、2003年には大手企業でもいち早く委員会等設置会社(現在は指名委員会等設置会社)に移行した。

 しかし実態は院政がはびこり、社長・会長の権力争いも勃発、経産省との関係も深い原子力部隊は暴走した。

 このように多くの問題を抱えていたにもかかわらず取締役おろか、監査役、社外取締役、そして監査法人までもが機能してこなかった。名門企業であるはずの東芝は、実は“裸の王様”だった。

 その結果、不正会計で巨額の損失とブランド毀損に加え、さらに原子力部隊の隠蔽と暴走がさらなる損失を生み、成長事業だった東芝メディカルシステムズや東芝メモリを売却することで穴埋めをせざるを得なくなったわけだ。

 東芝は今後、米国からのLNG輸入関連で数千億円の損失を計上する恐れもある。そんな東芝にとって“モノ言う株主”の監視は、再生に向けての最後のチャンスなのかもしれない。

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