マネジメント

インターネットで海外商品を購入する越境EC市場が、中国を中心に拡大している。いまや日本商品も続々と渡り、16年には1兆円を超える規模となってきた。成長が見込める市場だけに、伊藤忠商事もスタートアップ企業に投資し本格的に参入しようとしている。新たな市場の可能性を探る。文=古賀寛明

魅力的だがやっかいな中国EC市場

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写真左よりKDDI森田執行役員、インアゴーラ翁CEO、鈴木善久・伊藤忠商事情報・金融カンパニープレジデント

 2017年11月22日、伊藤忠商事(以下、伊藤忠)は越境ECのプラットフォーム「豌豆公主(ワンドウ)」を展開するインアゴーラに第三者割当増資を行い、持分法事業会社とした。伊藤忠が14年に設立されたスタートアップ企業のインアゴーラに期待をかけるのは、それだけ越境EC市場が魅力的な成長分野だということを意味する。さらに、インアゴーラ自体も創業から3年弱で約123億円も資金調達を果たすなど、その実績は、日本有数のユニコーン銘柄であるメルカリに匹敵。周囲の期待の高さがうかがえる。

 経産省の資料によれば、16年の世界の越境ECの市場規模は、約4千億ドル。円に換算すると44兆円で、20年には、9940億ドル(約109兆円)にまで拡大すると予測されている。この流れをけん引するのがEC先進国の米国と中国で、米国の日本からの購入額は既に6156億円(16年)あり、前年比で14.4%も伸びている。中国にいたってはさらに多く、15年の日本からの購入額は、7956億円。それが翌年の16年には1兆366億円にまで増えており、20年には4兆円にまで拡大するといわれている。ちなみに日本だけは海外サイトへの信頼性や言葉の問題なのか、海外商品を取り寄せる感覚はまだ一般的ではないようで、両国からの購入額から見ても合計で2396億円と米国市場の4分の1、中国の1割強の規模でしかない。

 日本の市場はさておき、中国市場の成長はすさまじく、その力強さは、数年前の爆買いを思い浮かべてもらうとちょうどいい。日本にとっても静かに年間1兆円以上の消費市場が誕生していたことになる。当然、日本企業も見逃すはずもなく、既に多くの企業が参入しようとサイトを立ち上げた。しかし、楽天をはじめどこもうまくはいっていない。

 その理由の一つが、中国市場の参入の難しさ。そして、日本から中国へのルートがきちんと整備されていなかったことにある。例えば、日本でもよく知られるようになった11月11日のいわゆる「独身の日」。17年はアリババグループだけで3兆円近く売り上げたといわれ、越境ECの天猫国際(Tモール)や京東集団などのサイトでも多くの海外製品が販売された。このように盛り上がるEC市場だが、その中には当然日本製品も含まれている。しかし、その多くは直接メーカーから買い付けているのではなく、少量ずつブローカーが仕入れていたもの。入手ルートもまちまちで、メーカー側からすると、自社製品を勝手に売られているということでもある。

 逆に、偽物も多いだけに中国の消費者にとっても正規品かどうか分からない。だから、わざわざ日本から発送してもらうことが日本製の証となる変な状況まで生まれていた。また、中国ではネットに商品を出すだけでは全く売れず、マーケティングが重要なのだが、その分野に長けた業者がいなかった。その2つの問題を解消できる存在だとインアゴーラは期待されているのだ。

SNS活用が進む中国市場

 中国市場のマーケティングは、日本以上にSNSが活用されている。スマホで商品検索から購入まで行われるため、動画を使い、インフルエンサーやKOL(Key Opinion Leader)を使って、消費者とのコミュニケーションが売り方のキーになる。中国で主流の「ライブコマース」は、テレビ通販のように動画で商品の魅力を伝え、リアルタイムに売るなど、日本より進んでいる。

 また、中国の消費者の好みもパッケージや量など日本とは当然違っている。インアゴーラは多くのSNSメディアやKOLと提携。動画などの販促コンテンツも自前で作成し、プロモーションまで行う。何より翁永飆社長は中国の出身。中国の消費者マインドにも通じている。

 つまり日本のメーカーにとっては、これまでのようにどんな経路で、どれだけ売れたか見えにくかったものが、インアゴーラを通すことで、販促も含めて国内に売るように中国でも売れるようになる。しかもやり取りは日本語で入金も日本円。わずか3年で2600ものブランド、4万の商品(SKU)数で300万人の顧客を得たのも分かる。さらに、今後はただのスタートアップではない。伊藤忠の後ろ盾がある。19年には流通総額を1千億円と見込んでおり、達成すれば現在のメルカリと同程度の事業規模になっているはずだ。

 急成長のインアゴーラ側も伊藤忠に目を付けたのは、翁永飆社長が伊藤忠出身であることもあるが、長年培われた中国ビジネスの蓄積はもちろん、情報・金融や食品、物流など非資源分野に強いところが何よりの理由だろう。17年11月に発表された四半期決算でも好調そのもの。17年度の上半期連結純利益は前年同期比20%増の2425億円。その内、非資源分野が2073億円と、ともに過去最高を記録。既に資源価格に左右されない体制を確立し株価も上昇、一時は2千円を突破した。格付けも20年ぶりにムーディーズのA格に格上げされている。政治リスクや商習慣の違いなど中国ビジネスには不安も多いが、中国最大のコングロマリットである中国中信集団(以下、CITIC)と資本・業務提携を行っていることは、インアゴーラに販売を託す日本のメーカーにとっては何よりも心強い。

 伊藤忠で越境EC事業を担当する情報・金融カンパニーの佐藤浩毅情報・通信部門長補佐は、「これまでも、越境EC事業を行ってきましたが多くが側面支援でした。インアゴーラのプラットフォームを使ったビジネスの拡大ができれば、食料や物流などもっと伊藤忠の強みが生かせる」と、規模の拡大が会社全体のビジネスチャンスにつながるとみている。さらに、「今は商品データベースを拡充しています。ある程度まとまれば、アジアの他の国に展開していけます」と佐藤氏は言う。タイにはもうひとつの資本・業務提携を行うCPグループがある。化けるのも時間の問題かもしれない。

地方創生にも結び付く越境EC

 越境ECのインフラが整うことは伊藤忠やインアゴーラだけでなく日本全体にメリットがある。人口が減少し、国内市場が先細りする中で新たな市場を見つけることは喫緊の課題。わざわざ中国に進出しなくてもその果実を得られるのだ。しかも未開拓の市場である。

 例えば、中国人観光客の人気商品が日本人にとって、「なぜ、これが?」と思うことがある。この理由も単純に、商品の良し悪しというよりも、たまたま知られているということでしかない。つまり、マーケティング次第で売れるということ。しかもインバウンド消費と関係が深いことも分かっている。あるアンケートによれば、越境ECを利用する理由の35%が、海外購入からのリピート購入。16年に日本を訪れた訪日客2404万人のうち、中国人は637万人。彼らにファンになってもらえればECでも売れていくはずだ。おみやげで人気のカルビーの「フルグラ」は、越境ECでも人気が高い。

 今後の流れとしては農水産物の輸出を増やしていくことだろう。政府も19年に総額1兆円の目標を掲げているが、昨年は7500億円の微増とやや足踏み状態。温度管理や輸送コスト、福島原発事故にともなう輸入停止を中国は今も1都9県に課しているなど課題も多い。

 とはいえ、日本食の人気は高く地方の特産品の需要も増えてきており伸び代は大きい。食にまつわる需要が中国で高まることは、日本の食文化の輸出にもつながる。それが調味料などにまで広がればイタリアのパスタが日本に根付いたように、文化として根付く。越境ECの拡大は一企業のビジネスの話ではない。地方創生に密接にかかわり、なにより新たなエコシステムを生み出すことにもつながっていく。まずは中国での成長を注目したい。

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