小売店の化粧品コーナーのディスプレイ用品を制作するユタカ産業は、全社員30名の中小企業。新たな人事評価制度の導入により、曖昧だった人事評価基準が一新され、社員の受動的な勤務態度が徐々に変化。経営計画に貢献しようと行動する社員が増え、組織力のアップに結び付いた。新たな人事評価制度の導入と、その運営は簡単な道のりではない。ユタカ産業の人事評価制度が成功し、着実に業績アップに結び付いているその要因とは何だろうか。本連載では、人事評価制度改革によって業績を伸ばした中小企業の事例を紹介しながら、社員が育つ人事評価制度の仕組み化、設計について分析していく。
組織と個人の成長をもたらしたユタカ産業の人事評価制度とは
今回紹介するのは、百貨店やドラッグストアなどの化粧品コーナーのディスプレイ用品や、商品陳列什器を制作している株式会社ユタカ産業。社員30名中15名が女性、そのうち6名はワーキングマザーという女性が活躍している会社だ。
ユタカ産業の二代目社長が2012年に事業承継の取り組みとして行ったのが人事評価制度の刷新だった。「経営計画と人事評価制度を連動させ、理念に沿って社員が育つための仕組みを作れば、事業承継がスムーズにできる」という考えから新たな人事評価制度の導入に踏み切った。
経営計画を策定し、その実現のためのアクションプランを作成。給与体系も抜本的に見直し、リーダーによる育成面談を実施。会社のビジョンを共有した上で、社員一人ひとりの目標設定に落とし込んだ。
新しい仕組みを導入後、社員の働く姿勢が大きく変わり、離職率も低下。以前は、計画的な目標を立てていなかったが、現在は、会社としての目標と社員一人ひとりの目標設定がなされ、目標の見える化が実現した。社員の成長、会社の業績アップにもつながっている。
女性社員の活躍とユタカ産業の人事評価制度
新制度導入後、変化したのは社員の仕事に取り組む姿勢だった。以前は明確な評価基準がなく、「子どもが生まれたから」という理由や、年齢で給与が決定されており、社員の成果を適切に評価する仕組みがなかった。
成果を出していなくても、多額の給与を得ることが可能な状態だったため、大きな成果を上げようと自ら実行する社員は少なく、社長の言う通りに仕事をこなす社員がほとんどだった。組織全体のモチベーションが低く、社員のベクトルはバラバラの方向を向いていた。
新たな人事評価制度の導入によって給与の仕組みが一新され、ぬるま湯に浸かっていた社員に徐々に意識の変化が見られた。会社のビジョンを達成しようと確実に取り組みを実行する社員が評価されるようになり、経営計画に貢献しようと積極的に関わる社員が増えたのだ。
組織内の変化で特に大きかったのは、女性社員たちの活躍だった。2名の女性社員がそれぞれ部長、リーダーに昇格。評価基準が明確になったことで、社員一人ひとりのポジションが明確になり、なんとなくの評価では分からなかった部分が見えたことで、評価レベルが飛躍的にアップした社員もいた。
経営計画とその実現のためのアクションプランの策定、それらの共有によって社員たちの目指す方向性が定まり、組織力も高まった。社員たちのベクトルが揃うことで部門をまたいだ連携もスムーズになり、チーム力を最大限に発揮することができるようになった。社員一丸となり、大きな数字の案件を実現することもできるようになったため、結果として会社の業績アップに結び付いた。
良質なコミュニケーションで社員の定着率が向上
経営理念の明確化は、社員の定着率の向上にもつながっている。制度導入前は、若手を雇用しても、2~3年で辞めるケースが多かったが、制度導入後に採用した社員の中で辞めた社員はいない。
新制度では、3か月に一度、評価を行っている。そのため、リーダーや経営層とのコミュニケーションが増え、社員たちは、会社から何が求められているのか、会社が何を目指しているのか、そのために自分は何をすべきなのかを分かるようになった。会社と自分の将来像が明確になったことが社員の定着率の高さに結び付いたといえる。
ユタカ産業のケースにおいて、人事評価制度運営で重要なことは、評価者による良質なコミュニケーションだったといえる。リーダーと社員、経営層と社員、経営層とリーダー、それぞれの間でのコミュニケーションが社員の成長、組織全体の成長を支えた。新たなリーダーの育成にも貢献し、さらなる組織力の強化に結び付いたのだ。
経営理念を繰り返し伝えることによって、組織全体の軸ができ、個人の目標が明確になる。そのことは、個人の成長、引いては組織の成長につながる重要なファクターだ。成果に結びつく人事評価制度の運営は、良質なコミュニケーションなくては成り立たないといえる。
(やまもと・こうじ)日本人事経営研究室代表。1966年、福岡県飯塚市生まれ。
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