最近、企業における新たな職種として注目されるようになった「エヴァンジェリスト」。従来の広報業務との違いや、求められる行動、資質とはどのようなものだろうか。ikunoPR代表の笹木郁乃氏に聞いた。
エヴァンジェリストとはどんな存在か
「エヴァンジェリスト」という言葉を聞いたことがあるだろうか。もともとはキリスト教における「伝道者」の意味で、人々に教義を正しく理解してもらい、世の中に普及させる役割を担う。
そのエヴァンジェリストという言葉が、IT業界などを中心に、新たな職種として認知されだしたのは最近のことだ。複雑化するIT環境や最新テクノロジーなどを顧客に分かり易く解説し、啓蒙する存在として存在感が高まった。
今では業界を問わず、自社製品や企業価値について、質の高い情報発信ができる専門家のことを指すようになっている。企業の情報発信という意味で思い浮かぶのは広報・宣伝業務だが、エヴァンジェリストになるためには、従来の広報業務の枠を超えた発想と行動が求められる。
それを実践し、現在は世の中により多くのエヴァンジェリストを輩出するために活動しているのが、ikunoPR代表の笹木郁乃氏だ。
笹木氏はトヨタ系の大企業に研究開発職として入社。エンジニアとして業務に従事するも、やり甲斐を求めて当時まだ起業したばかりの寝具メーカー、エアウィーヴに営業・マーケティング・PR担当として転職した。
最初は、代理店に頼んでプレスリリースを作ってもらいメディアに流していたが、全く効果がなかったという。小さな会社の貴重な予算を浪費することに苦しむ時期が続いた。笹木氏は当時をこう振り返る。
「宣伝色の強いプレスリリースを作って、一方的にメディアに配信しても、ほぼ意味がないことが分かりました。そこで、エアウィーヴの都合で新商品をPRすることはせず、できるだけ“価値のある情報”にアレンジしてお伝えするようにしました。毎回、紙芝居風のプレゼン資料をつくり、熱量を加えて直接価値のある情報としてメディアにお伝えするようにしたんです。すると、まだ知名度のなかったエアウィーヴでも少しずつ掲載が増えていきました」
成功した秘訣は、「一件ずつメディアに通うことで、『PRの人』から、『笹木郁乃さん』という存在になったこと」と語る笹木氏。その後は仕事が格段にし易くなり、エアウィーヴの記者発表会には、常にメディアが200人以上集まるようになった。メディア担当者との信頼関係を深め、「笹木郁乃さんが言うんだったら、行くよ」と言われる関係を築いたことが効いたという。
笹木氏は、メディアの立場で物事を考えることも意識していた。
「メディアの方々も、エアウィーヴの宣伝をしたいわけではありません。こちらからは、世の中の役に立つ情報、面白い現象、感動するストーリーなどを提供できるよう心掛けました」
こうしたPR手法によって、エアウィーヴの年商は5年間で1億円から120億円へと急成長を遂げた。
広報PRとエヴァンジェリストとの違いとは
笹木氏が実践したようなやり方は、SNSを始め情報ツールが多様化してきた現在では、さらに効果を発揮する。情報が氾濫する中、信頼できる人物からの「口コミ」や、「共感」を重視する傾向が消費者に強まっているからだ。
「企業がSNSを使う場合でも、共感してもらえるように“人物”を出すこと。広報担当者自らがインフルエンサーになることによって、メディアの方にも会う価値を感じてもらえるようになります」
メディアに注目され、消費者にも直接訴えかけられる力を持つところが、単なる広報活動とエヴァンジェリストの違いだ。エヴァンジェリストに必要な資質について、笹木氏はこう語る。
「自己開示が得意な方、自分が関わっている事業に対して情熱がある方、人が好きな人、感謝できる人、でしょうか。多くの方を巻き込んでいくことになりますので、エネルギー量が大きいことも条件ですね。あとは、SNSの活用の仕方、メディアとの接触の仕方、プレゼンテーションなどのノウハウ的なところを学べば、誰でも必ずエヴァンジェリストになれると思っています」
企業広報も「個」の力が問われる時代になっている。
開催期間:2018年4月12日、5月10日、6月7日、6月28日(計4回コース)
講師:西脇哲資(日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員・エバンジェリスト)、上村嗣美(株式会社サイバーエージェント 全社広報室 シニアマネージャー兼広報責任者)、菅本 裕子(モテクリエイター)他
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