政治・経済

ソニーが社長交代を発表した。6年間、社長兼CEOを務めた平井一夫氏に代わって、副社長兼CFOの吉田憲一郎氏が昇格する。ソニーは今期、20年ぶりに最高益を更新する見込みだが、本当の復活はこれからに懸かっている。平井氏はソニーのさらなる成長を吉田氏に託すことにした。文=村田晋一郎

平井一夫氏の退任 最高益は後任に配慮した環境整備

201804SONY_P01 ソニーは4月1日付で、社長兼CEOの平井一夫氏が退任し、代表権のない会長に就任し、副社長兼CFOの吉田憲一郎氏が社長兼CEOに昇格する人事を発表した。

 平井氏が社長兼CEOに就任したのは2012年4月であり、在任期間は6年に及ぶ。この在任期間自体は、日本の電機業界では長い部類に入るが、ことソニーに関しては、決して長いと言えない。年齢についても、平井氏はCEO就任時が51歳、現在57歳で、まだ若いと見る向きもある。一方、社長に就任する吉田氏は現在58歳で、平井氏よりも1歳上。社長交代の多くが若返りとなることを考えると、今回のCEO交代は異例と言えるだろう。

 日本の電機業界トップが50代で退任したケースは、この20年に限っては、シャープの片山幹雄氏と奥田隆司氏の2人のみ。この両名は、業績悪化の責任をとる形で退任した。しかし、現在のソニーは、平井氏が責任を問われるような状況ではない。平井氏が進めてきたポートフォリオ転換と構造改革の成果は着実に上がってきており、むしろこれからが本当の勝負とも言える。それだけにこのタイミングでの退任に、違和感を抱いた人は少なくないだろう。

 記者会見で、平井氏がまず語った退任理由は、「好業績の時にこそ、新しいCEOにバトンを渡す」ということ。平井氏の在任6年間で、ソニーは3カ年の中期経営計画を2回実行したが、2回目の中計の最終年度にあたる18年3月期は、目標数値を上回る見込みで、営業利益は1997年以来20年ぶりの最高益となる。今回の退任は、この好業績を花道にした格好だ。

 今、ここで身を引けば、平井氏は「ソニーを立て直した人物」、さらに今後ソニーが成長を続ければ、「ソニー再成長の礎を築いた人物」として評価されることになる。仮にこのままCEOを続けて、下手に業績を落として、石もて追われる形で辞めるよりも、あっさりと今辞めるほうが、引き際としては悪くない。

 そして平井氏が繰り返し語ったのは、自らの人生や次のライフステージも考えたということ。ソニーのCEOを6年間務めることは、激務だったのだろう。余力のあるうちに、次のライフステージの準備を考えることは理解できる。

 また、後任がやりやすい環境を整える意味もある。自身がそうであったように、前任者による業績悪化を受けた形のCEO就任は、経営もまずは立て直すことが急務で、いわばマイナスからのスタートとなる。平井氏も在任6年間のうち、前半の3年間は、守りに専念せざるを得ない期間が多かったという。平井氏自身、CEOとして本当にやりたいことができたのは、この1~2年のことだったのではないか。実際に今年1月にはかつてのソニーを象徴する製品だったコミュニケーションロボット「aibo(アイボ)」を復活させた。「社内外の多くの方々に元気なソニーが戻ってきたとおっしゃっていただけるようになった」という好業績の今なら、プラスの状態で後任に引き継ぐことができる。

 さらに社長退任にあたり、代表権のない会長となり、CEOは兼務しない。平井氏は次のように語った。

 「こういったポジションが代わる時に一番大事なのは、誰がこの会社のリーダーなのかを社内外に明らかにすること。その意味で、ソニーグループの経営のトップは4月1日からは吉田さんです」

 会長職も吉田氏と取締役の要請により引き受けた格好。会長の役割はエンターテインメント分野でのアドバイスや、社内外のイベントにソニーを代表して参加することなどが想定されるが、あくまで吉田新社長を補佐する役目だという。

平井一夫氏の狙い 経営体制一新をカンフル剤に社内の緊張感を維持

 鮮やかすぎる今回の平井氏の退任だが、経営トップとしての最後の勝負手という印象も受ける。

 平井氏にとっては、上記に挙げた理由はあるが、CEOをまだまだ続けるという選択肢も当然あったはずだ。むしろ好業績を背景に平井氏の長期政権が続くというのが大方の見方だった。過去のソニーでも、井深大氏や大賀典雄氏は社長を10年以上務めた。そもそも長期的な戦略は、それぐらいの期間務めなければ実行できないものだ。

 ましてソニーは20年ぶりに最高益を達成し、復活を印象付ける一方で、これからいかに成長していくかが問われる。ソニーにとっては、ここからが正念場だ。このまま平井氏がCEOを続けたとしても、成長させ続けることは決して容易ではない。

 平井氏は現在のソニーの課題を次のように語った。

 「20年ぶりの好業績ということで、社内のマネージメントもしくは社員の気が緩んでしまう。これで復活したということで、緊張感や危機感がなくなってしまうことが、一番大きな課題だと認識しています。今年度は好業績で終わることができると思うが、その後の新しい中期の3年間で、いかに業績を伸ばしていくかを考えていかなければいけない」

 もちろん各事業それぞれ細かな課題はあるだろうが、現状では社内の気の緩みを最も危険視している。それだけに今回のCEO交代は、経営体制を一新することで、社内に緊張感を維持・強化させるという見方もできる。

 また、今回のCEO交代は比較的短期間で決まったことのようだ。ソニーの指名委員会では、常にCEOの後継者問題を議論しているが、短期的な時間軸と中長期的な時間軸の両面で検討している。そして今回は短期的な時間軸での交代ということで、吉田氏が選ばれたという。中長期的な時間軸での交代ならば、別の候補者がいるということになる。実際に平井氏が辞意を固めたのは昨年末で、指名委員会議長の永山治氏に自らの意思を伝えたという。同時期に吉田氏にも後任の打診をした。ソニーが18年3月期に過去最高益を上回る見通しを発表したのは、昨年10月末の上期決算だった。その後の社内外の情勢を見て、このタイミングでのCEO交代が、ソニーをさらに成長させるカンフル剤になると平井氏は判断したのだろう。

平井改革を実務面で主導した吉田憲一郎新社長

 後を託された吉田氏は、平井氏と同様にグループ会社でのマネジメントの経験を有する。ソニーで財務部門を経た後、00年より当時のソニーコミュニケーションネットワーク(現ソニーネットワークコミュニケーション)に転じ、インターネットサービスプロバイダ事業「So-net」を手掛け、05年には社長としてマザーズ上場を果たした。そして、この実績が評価されて、13年12月、平井氏の要請でソニーに復帰した。

 平井氏のCEO就任2年目のタイミングでCFOに就任し、以後4年間、平井氏の経営チームの中核として、経営の規律を高め、高収益企業への変革に尽力してきた。平井氏のソニーの立て直しは吉田氏と二人三脚で進めてきたというイメージがある。特にパソコン事業の売却、テレビ事業およびエレキ事業の子会社化など、「汚れ役」的な仕事を遂行し、むしろ平井改革の実務は吉田氏が主導してきたとも言える。

 今回の後継指名もこれまでの実務面での実績が評価されてのものだ。平井氏は吉田氏を「戦略的な思考と多様な事業領域に及ぶ幅広い知見、そして強固なリーダーシップを兼ね備えた人物であり、これからのソニーを牽引するのに最もふさわしい」と評価。自身の後任として指名委員会に吉田氏を推薦、指名委員会も満場一致で承認したという。

 吉田氏がCEOとなっても、これまでと同様に、事業の問題点をすばやく把握し、それに対処する施策を講じ、実行していくだろう。ただし、それだけでソニーのかじ取りをしていくことは難しい。なぜなら、ある意味、ソニーはかつて数々のイノベーションを起こしてきた特別な会社であり、世間はソニーの事業や製品に「ソニーらしさ」を期待するからだ。

 平井氏もCBS・ソニー出身で、その後、ゲーム畑を歩んだことから、CEO就任当初は一部で「技術を分かっていない」という批判があった。それでも平井氏は「カメラおたく」と称されるほど製品へのこだわりやソニー商品への愛着が強みとなり、社内の求心力や対外的な発信力を向上させていった。

 吉田氏も平井氏が受けたのと同じような「雑音」を受けることが予想されるが、これらをどう払しょくしていくか。吉田氏自身、「ソニー製品は好きだが、平井と同じことはできない」と語っているだけに、吉田氏なりの方法で、いかに求心力や発信力を高めていくかが当面の課題になるだろう。

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