経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

コミュニティの安心感をベースに新たな婚活サービスを展開―伊藤亜子(ALG芦屋代表)

エヴァンジェリスト画像

エヴァンジェリストとは、もともとはキリスト教における「伝道者」の意味で、ここ最近、ビジネスの世界でも肩書きに使う人が徐々に増えてきている。明確な定義はないものの、1つあるいは複数の分野に深い専門知識、情報発信力、伝達力を持ち、世の中に大きな影響力を与えられる人材をイメージしていただければ良いだろう。本シリーズでは、今の時代に必要なそんなスキルを身に付け、企業の内外で新たな仕事や働き方を創出する女性エヴァンジェリストたちにスポットを当てる。(取材・文/吉田浩)

既婚者の入会OKな婚活サービス

ALG芦屋代表の伊藤亜子さん

ALG芦屋代表の伊藤亜子さん

晩婚化、非婚化が進む中にあっても、いずれは結婚を希望する20代、30代の独身男性の比率は約7割、女性は約8割に達している(国立青少年教育振興機構調べ)。結婚相談所をはじめ、スマホアプリなどさまざまな特色を打ち出した婚活ビジネスが花盛りだ。

そんな中、一風変わった婚活事業を展開しているのが兵庫県芦屋市在住の主婦、伊藤亜子さん。知り合いからの紹介を中心にした会員制の結婚情報サービス「3カラット倶楽部」を運営している。

3カラット倶楽部のユニークな点は、独身男女だけでなく、既婚者の入会も可能なところだ。既婚者が知り合いの独身者を紹介し、マッチングにつなげることで、より安心感と信頼度の高い婚活を目指している。

現在の事業を営むに至ったのは、「親同士のつながりによる婚活」の良さを広めたいという考えが根本にあるからだ。

伊藤さん自身の結婚エピソードが少々変わっている。証券会社勤務の後、20代前半で結婚することになったが、夫とはもともと親同士が知り合いという間柄で、伊藤さんが生まれる前からの付き合いだった。しかし、お互い成人するまで、直接の面識はなかった。

「自分が生まれたときのアルバムに夫の写真があったりしたんですが、直接会ったことはありませんでした。でも、親同士の信頼関係がある中でのお見合いだったので、安心感がありました。こういう形の婚活っていいなと思ったんです」

結婚後は5人の子宝に恵まれたが、末っ子の出産のときに不思議な経験をしたことも、婚活事業を始める動機づけになったと語る。

「出産直後にボーっとしていると、いろんな人の笑顔が宙に浮かんでいるのが見えて、天国に昇るような気持ちになったんです。後日、友人にその話をすると『それは多分ご先祖様よ』と。それで、命を生むという単純だけど感動的なことに対する思いが、改めて深まった気がします」

結婚するかどうか、子供を作るかどうかはあくまで個人の選択としながらも、「若い人たちが早めに安心なコミュニティに入って、結婚の準備をしてもらえる環境をつくりたい」というのが伊藤さんの思いだ。

婚活事業のベースとなったコミュニティづくり

事業のベースになる主婦コミュニティ

事業のベースになる主婦コミュニティ

婚活事業を手掛けたい気持ちは当初からあったが、いきなり初めても認知度や信頼がなければ立ち行かない。そこで、まずは基盤となるコミュニティが必要と考えた伊藤さんは、主婦アカデミーを立ち上げることから始めた。

最初のコミュニティの活動は、料理教室だった。芦屋の主婦が開く教室と聞けば、高級料理やお洒落な料理を想像するかもしれないが、冷蔵庫の中の食材をいかに回して簡単に料理するかといった内容。子供の面倒を見るためになかなか外出できなかった伊藤さんが、友人の主婦を自宅に呼んで料理をふるまったところ好評で「家事や子育てが忙しいのに、どうして簡単に料理ができるのか」と不思議がられたのがキッカケだ。

「むしろ忙しいから簡単に料理する方法を覚えたんですよね。私はむしろ料理が嫌いで、この世からなくなればいいとさえ思っていましたから」(笑)

さらに、趣味の洋裁を生かして教室を開いたり、外部から講師を呼んで教育や夫婦のパートナーシップに関する勉強を開いたりと、興味がわくことはどんどん手掛けていった。集客の中心はブログで、1回の教室の参加者は数人規模だったが、気付けば延べ1千人ほどの集客実績を作った。

結婚や子育ての良さとは?

キッチン

主婦アカデミーで信用を築いた伊藤さんは、かねてから手掛けたかった婚活事業に着手する。現在、3カラット倶楽部への登録は30人ほど。カップルのマッチングも少しずつ始めている。当面は会員数100人を目標とし、将来的には数千人規模まで拡大したいと夢を語る。ただ、あくまで紹介による信頼がベースとなるため、むやみに宣伝することに対しては慎重な姿勢だ。

独身の子供を持つ親同士のネットワークを想定したコミュニティだったが、実際に活動してみると30代の若い主婦が友人や後輩を紹介するケースも多いという。

「最初は50~60代の方々からの紹介をイメージしていましたが、実際に紹介が生まれるのは30~40代の方からが多いですね。今は男性会員2割、女性8割ですが、これから特に強化したいのは40代の男性会員です」

会員の紹介であることが入会の条件とは言え、セレブの集まりというわけではない。入会金も一般的な婚活会社より低く設定している。紙に書かれたプロフィールより、むしろ本人の考え方や人柄を重視するのが伊藤さんの方針だ。

「年収の公表は任意にしていますし、会員の中には社会的ステイタスがそれほど高くない人もいます。仮に今の年収が高くても、3年後が予測できない世の中なので、年収につられて結婚しても先は分からないですから。説明会でもそれはお伝えしています」

結婚や子供を持つことの良い点を伊藤さんに尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。

「視野が広がることですね。たとえ自分が苦手なことでも、夫や子供が好きなことであれば興味が持てるようになることもあります。そうした発見や感動は、一人では体験できなかったと実感しています。押し付ける気持ちはないですが、そういう意味で、家族が多い方が生活の質が上がるように思います。」

早めに結婚して、5人の子供を育てた自分だからこそできること。その体験を伝えていきたいという思いが、今の婚活事業へとつながっている。

コミュニティの拡大を目指す中、情報発信の重要性に気付いたという伊藤さんは、経済界主催のエヴァンジェリスト養成講座を受講した。

「コミュニティを作ったけれど、いわばロケットの発射台だけできてエンジンを積んでいない状態でした。自分がやろうとしていることには、結構大きなエンジンが必要だなと感じたんです。講座で学んだことを生かしてプレスリリースを打ったら、早速メディアから取材していただけました」

普通の主婦が身近なところから始めた事業が、大きく羽ばたこうとしている。

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