マネジメント

トヨタ自動車の営業を支えてきた4つのチャネルに分かれた販売店。チャネルごとに専売車があり、お互いが競い合うことによって販売台数を伸ばしてきた。しかしトヨタはこのチャネル政策を見直すことを決めた。トヨタのビジネスモデルが大きく変わろうとしている。文=ジャーナリスト/立町次男

4販売チャネルを一本化し全店全車種併売にするトヨタ自動車

 

2018年10月4日にはソフトバンクとの提携も発表。これもトヨタ自動車の危機感の表れだ。左は孫正義ソフトバンク社長、右が豊田章男トヨタ自動車社長。

 

 トヨタ自動車が、国内の販売戦略を抜本的に見直す。2025年をめどに、「トヨタ」「トヨペット」「カローラ」「ネッツ」という4つの販売系列を実質的に一本化し、全販売店がトヨタブランドの全車種を併売する体制に改める。

 国内市場の縮小が見込まれるためで、それぞれの系列が消費者のニーズをきめ細かくくみ取り、トヨタ全体の販売を押し上げるという高度成長期からのビジネスモデルを大きく転換する分岐点となる。

 トヨタの販売店は全国に約5千店で、地場の独立資本を中心に約280社が経営している。4系列にはこれまで、それぞれの専売車が設定されていた。

 例えば、高級車「クラウン」はトヨタ店で(東京ではトヨペットでも販売)、スポーツタイプ多目的車(SUV)「ハリアー」はトヨペット店で、小型車「カローラ」はカローラ店で、小型車「ヴィッツ」はネッツ店でしか買えない。各系列がこうした個性を磨きながら切磋琢磨する中で、販売台数が上積みされてきた。

 

トヨタ自動車の販売がマルチチャネル化した歴史

 

 こうした販売系列の複線化「マルチチャネル」は、トヨタの歴史と密接な関係がある。推進したのは、トヨタ自動車販売(トヨタ自販)の社長を務め、「販売の神様」と言われた神谷正太郎だ。

 1898年生まれの神谷は三井物産などを経て、米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)の日本法人で販売を担当。一方、豊田自動織機は1933年、自動車事業に進出し、後のトヨタ自動車の母体である自動車部を設置した。神谷は、創業者である豊田喜一郎からスカウトされ、役員待遇で入社した。神谷が懇意にしていた名古屋市のGMの販売代理店が35年にトヨタの販売店に鞍替えし、これが、トヨタ店の第1号となった。

 トヨタ自動車は経営危機に見舞われた50年、立て直しのため、製造部門と販売部門を分ける「工販分離」に踏み切った。製造部門はトヨタ自動車工業(トヨタ自工)、神谷は販売部門であるトヨタ自販の初代社長に就任した。

 53年、東京トヨペットがトヨタ自販の直営店として設立された。同社は、東京トヨタの乗用車販売権を肩代わりして営業を開始。そして55年、トヨタ自工は初の本格的乗用車「トヨペット・クラウン」「トヨペット・マスター」を投入した。

 トヨタは本格的な大衆車発売を前に、専門の販売チャネルを新設する準備に入った。神谷は多数の販売店を競争させる米国式のディーラーシステムを導入するため、地場の新資本と人材を集めた。62年、東京に直営のパブリカ朝日(現・トヨタ東京カローラ)を設立。66年に発売された「カローラ」は、大衆車市場におけるベストセラー・カーとなり、本格的なマイカー時代到来に貢献した。パブリカ店は69年、カローラ店に名称変更した。

 その後もトヨタの販売体制はさまざまな曲折を経たが、2004年に旧ネッツ店とビスタ店を統合し、新しいネッツ店ができてからは4系列が定着していた。

 

専売車を抱える販売チャネルに楔を打ち込んだプリウス

 

 各系列が専売車を抱える状況に楔を打ち込んだのは、トヨタが大ヒットさせたハイブリッド車「プリウス」だ。売れる「タマ」を逃したくない各系列の意向もあり、全店で取り扱うことになった。小型ハイブリッド車として高水準の販売が確実視された「アクア」や売れ筋のSUV「C-HR」も同様の取り扱いとなり、系列ごとの個性は薄れていた。

 トヨタは徐々に、販売体制の見直しを進めた。今年1月からは、国内販売の軸をチャネルから地域に変更。全国を7つのブロックに分け、チャネルの枠を超えて地域中心の販売戦略を立てる体制に変更した。4月には東京都内にある直営の販売会社4社を19年4月に合併させると発表。トヨタ東京販売ホールディングス(HD)傘下の東京トヨタ自動車、東京トヨペット、トヨタ東京カローラ、ネッツトヨタ東京――の4社だ。従業員数は約7200人で、トヨタの100%子会社となる。当面は販売チャネルを維持するが、複数の系列による複合店を増やす。

 そして今回、各系列は残すものの、専売車を廃止し、全店で全車種を販売することにした。ただ、高級車ブランド「レクサス」については専売店を維持する。国内向け車種は現在の約60車種から半分の30車種に絞り込み、効率化する。トヨタ側は全国の販売店首脳が一堂に会する11月の代表者会議でこれらの方針を表明する。

 

トヨタ以外の自動車メーカーがマルチチャネル販売をやめた理由

 

 他の自動車メーカーは既に、マルチチャネルをやめている。「サニー」や「プリンス」などの4系列を「ブルーステージ」「レッドステージ」の2系列に集約した日産自動車は2011年に一本化。ホンダも06年に「クリオ」「ベルノ」「プリモ」3系列のチャネルを「ホンダカーズ」に統合した。5チャネル化による効率の悪さが経営危機の一因となったマツダも、16年までに段階的に一本化した。

 背景には、団塊の世代の高齢化が進む一方、都心部を中心に若者のクルマ離れが進んだことがある。ピークの1990年には778万台あった国内市場は、昨年は523万台と約3割縮小。自動車関連の諸税や駐車場代など、車を保有・使用するのに必要な経費は重く、度重なる消費税増税によるユーザーの負担増も需要を押し下げたようだ。

 市場が拡大していればマルチチャネルの効果は大きいが、縮小時には、同じトヨタの販売店同士が限られた「パイ」を取り合う形になる。系列ごとの専売車種を知らない消費者が販売店に行くと、トヨタの店なのにお目当ての車がなく、不満につながるというケースも出る。昨夏、名古屋市で開かれた代表者会議では、トヨタ側から「このままでは販売会社の2割は2025年頃、赤字に転落する」という試算が示されたといい、販売店改革は待ったなしだった。

 

トヨタ自動車はカーシェアに本格参入の方針を固める

 

 トヨタに販売改革を促したのは、市場の縮小だけではない。ユーザーの意識が「保有」から「利用」に徐々に変わっていることもあるようだ。

 地方ではまだまだ、車の保有者が多く、軽自動車と合わせて1世帯で2台以上というケースも珍しくない。しかし、公共交通機関が発達し、駐車場の料金も高い都市部では、新しい感覚で「車を使いたい時だけ借りる」という消費者が少しずつ増えているようだ。

 レンタカーより気軽に車を借りられるカーシェアリング市場が拡大し、利用者数は年20%増を上回る高水準の伸びを示している。パーク24やオリックス自動車、DeNAなどがカーシェア事業を拡大し、複数の自動車メーカーも注力している。

 こうした状況を受け、トヨタもカーシェアに本格参入する方針を固めた。来春、販社4社を統合させた東京都内から始め、全国の地場資本の販売店が自主的に参加できる仕組みをつくる。

 約5千店の販売店にはそれぞれ、試乗車が置いてあるが、使われるのはほとんどが週末で、平日は停めたままになっているという問題意識があり、これを有効活用する。カーシェア自体の収益化もはかるが、トヨタ車に乗ってもらう機会を提供して、潜在的な購入者を増やす狙いもある。

 

100年に1度の変革期をトヨタ自動車はどう乗り切るか

 

 今回のトヨタの施策により、販売店同士の競争激化は必至。専売車に頼ることができない各店は、カーシェアを含め、これまで以上に創意工夫を凝らして魅力的な店づくりをすることが重要になる。トヨタ幹部は「販売店には大きな可能性があるが、これまでは活用できていなかった」と話す。

 背景には豊田章男社長が強調するように、自動車業界が「100年に1度の大変革期」を迎えていることがある。

 トヨタは10月4日、ソフトバンクと提携を発表。合弁会社を設立し、20年代半ばまでに自動運転車両による配車サービスを提供する方針を示した。車を購入したり、利用したりするスタイルの変化が背景にあることは、販売店改革と共通だ。豊田氏はこの時の会見で「国内の販売店には、長い年月をかけて築きあげてきたお客さまとの信頼関係がある。

 この信頼に裏打ちされたネットワークこそが、新しいモビリティサービスを展開する上で、私たちのアドバンテージになる」と強調した。トヨタが大変革期を乗り切るためには、販売改革を成功させることが重要となりそうだ。(敬称略)

 

【自動車】関連記事一覧はこちら

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長プロフィ…

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

一般には馴染みが薄い産業廃棄物処理の世界。古い慣習が残る業界を、ITによって変えようとしているのがトライシクルの福田隆社長だ。業界の老舗企業がテクノロジー導入に舵を切った背景と今後の展望を聞いた。(吉田浩) 福田隆・トライシクルCEOプロフィール   産廃処理で「B to B版メルカ…

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る